経団連は10月28日、東京・大手町の経団連会館で国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のエマニュエル・ファベール議長との懇談会を開催した。経団連側からは、平野信行副会長、林田英治金融・資本市場委員長、関係企業70名余りが、国際会計基準(IFRS)財団からは、ファベールISSB議長、ISSBの小森博司理事、国際会計基準審議会(IASB)の鈴木理加理事が参加した。
平野副会長の開会あいさつの後、ファベール議長から「ISSBの最新動向」について説明を聴いた。説明の概要は次のとおり。
■ 基準開発のカギとなる考え方
ISSBの基準開発のカギとなる考え方は、次の5点である。
(1)ISSBの基準開発の目的は、「グローバルなベースライン」を提供することである。この目的に沿って、さまざまな法域における開示システムの相互運用性を確保する。各法域での基準には、ISSBの基準に独自の開示要求を上乗せできる。
(2)ISSBは、将来的なESG課題を見極めて基準を開発する。開示要求は厳しいが、ガイダンスの作成やキャパシティ・ビルディング等の支援もする。
(3)ISSBは、各法域の意見を基準開発に反映すべく、「法域ワーキング・グループ」を設け、ISSB会合の前に開催している。日本からは、金融庁とサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が参加している。
(4)ISSBは、新しい基準をつくるのではなく、数あるESG関連の指標やイニシアティブを減らすことに主眼を置いている。既存の基準を活用し、それを高いレベルに引き上げ、適用可能性を高める。
(5)ISSBでは、投資家や金融・資本市場が求める重要課題を意味する「ファイナンシャル・マテリアリティ」に限定した基準を開発する。
■ ISSBの基準開発動向
ISSBでは、公開草案に寄せられた意見を踏まえ、「全般的要求事項(S1基準)」と「気候関連開示基準(S2基準)」について、2023年のできる限り早い時期に最終化できるよう検討している。10月のISSB会合で固まった方向性は、次のとおり。
〈S1基準〉
(1)S1基準では、「重要性のある(material)」サステナビリティ情報の開示を求めている。その定義を国際会計基準の定義と同様とする(注1)。
(2)公開草案では、「企業の重大な(significant)サステナビリティ関連リスクおよび機会に関する情報の開示」を求めていたが、「重大な」は、「重要性のある」と混同するので、基準上削除する。
(3)ISSB基準の適用において参照が求められるSASB基準(産業別基準)は、必ずしも各国の実態と合致していないので、今後、ガイダンスを作成する。
〈S2基準〉
(1)SASB基準がベースである産業別基準の適用は、一定の期間、任意とする。
(2)GHG(Greenhouse Gas、温室効果ガス)排出量の測定方法は、GHGプロトコル以外にも、各法域で強制されている方法を認める。
(3)GHG排出量のScope3(注2)の開示を義務化することに変わりはないが、開示に準備が必要であることから、適用に救済期間を設ける。
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ファベール議長の説明の後、事務局から、「経団連のサステナビリティ関連の取り組みの概要」を紹介した。その後の意見交換では、参加企業から、ISSBの基準開発に対して、積極的な意見が出された。
(注1)IAS第1号の7項「情報は、それを省略したり、誤表示したり、覆い隠したりしたときに、特定の報告企業に関する財務情報を提供する一般財務諸表の主要な利用者が当該財務諸表に基づいて意思決定を行う場合に、当該情報が影響を与えると合理的に予想し得る場合には、重要性がある」
(注2)自社以外のサプライチェーンにおけるGHG排出量を意味する
【経済基盤本部】