経団連の通商政策委員会(中村邦晴委員長、早川茂委員長)は9月2日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。提言「自由で開かれた国際経済秩序の再構築に向けて」(別掲記事参照)の審議に先立ち、外務省の鯰博行経済局長、経済産業省の松尾剛彦通商政策局長から、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の現状と課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 外務省・鯰氏
わが国の貿易総額において、発効済み・署名済みEPA・FTA等の相手国との貿易額が占める割合は、約80%に上る。今後のEPA・FTAの交渉相手国の選定には、総合的な判断が求められる。例えば、経済的観点からは、相手国との貿易規模や構造、経済規模、わが国経済界のニーズ、他の主要国に劣後する状況の有無等を考慮する必要がある。また、外交戦略上の観点からは、相手国との関係強化の重要性や、相手国の政治状況、国際場裡での位置付け等も踏まえる必要がある。
また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)については、新規加入申請国・地域が、ハイスタンダードなルールを完全に満たす準備ができているかどうかしっかりと見極めつつ、戦略的観点や国民の理解も踏まえながら対応するとともに、米国の復帰を引き続き働きかける。
投資関連協定についても、交渉中の協定を含めれば94の国・地域をカバーするに至っている。新規の投資協定締結にあたっては、経済界のニーズ等を踏まえ、中南米およびアフリカを中心に検討する。投資を受け入れる側の立場で、安全保障等にかかる国家の規制権限を適切に確保することも必要となってきているが、投資関連協定の締結を通じ、日本企業の海外投資を保護するとともに、起きた問題の適切な解決を図ることが重要であり、この点は今後も変わらない。
■ 経産省・松尾氏
昨今、米欧を中心に、「貿易協定疲れ」がみられ、環境や人権等といった共通価値への対応を優先する動きがある。一方で、新興国・途上国は、経済成長という足元の課題を重視する傾向にあり、先進国と新興国・途上国の間の乖離が大きい。このような状況で、両者をつなげる役割を果たすために、日本は、次の三つのスタンスを採る必要がある。
第1に、ルールベースの秩序の重視である。世界貿易機関(WTO)の機能低下が懸念されるなか、EPA・FTAの果たす役割は大きい。例えば、CPTPPについては、高いレベルを維持しながら参加国を拡大するための議論を日本が主導すべきである。また、産業界の声を踏まえつつ、日本企業が他国の企業に劣後しない環境を整備していく必要がある。通商協定の締結に加えて、G7、G20、APEC等でのソフト・ローの創造(質高インフラ原則など)も重要である。
第2に、米欧との規制協力を通じ、ルール・制度づくりに初期段階から参画し、相互運用性を確保すべきである。同時に、新興国・途上国を包含する取り組みも強化する必要がある。例えば、インド太平洋経済枠組み(IPEF)において日本がリーダーシップを発揮し、途上国に対し、ルールの受け入れに見合ったインフラ整備や脱炭素化等のメリットを提示する必要がある。
第3に、経済安全保障と自由で公正な経済秩序の両立である。先般成立した経済安全保障推進法により、日米間の協力も進めやすくなっている。また、多くの国と経済連携協定を締結し、経済統合を進めることも、経済安全保障の確保に資する。経済版「2+2」等を通じ、経済安全保障の観点からも、基本的価値観を共有する同志国との国際連携を推進する必要がある。
【国際経済本部】