経団連のヨーロッパ地域委員会(東原敏昭委員長、佐藤義雄委員長)は8月31日、東京・大手町の経団連会館で、クリスティアン・ヴルフ元ドイツ大統領と懇談した。ヴルフ氏は、メルケル政権下で2010年から12年に大統領を務めた。ヴルフ氏の発言概要は次のとおり。
日本とドイツは、基本的価値を共有しており、多くの共通点を持つ。世界第3位、第4位の経済大国であり、自由貿易の恩恵を受けてきた。資源エネルギーの多くを輸入に依存しており、現在、エネルギーの安定供給の確保という課題に直面している。また、ロシアとの関係については、対話を継続しようと模索してきたが、試みが中断されてしまったという点も共通する。
ロシアのウクライナ侵略は、1989年の冷戦終結以降の民主化に向けた努力が突然に終焉を迎えた出来事として、将来世代に語られるだろう。昨日(8月30日)、ゴルバチョフ元ソ連書記長が亡くなられたことに因縁を感じる。日米欧が結束して対応することが不可欠であり、2023年のG7議長国として、日本がリーダーシップを発揮することに期待している。ロシアは、ウクライナ国民の愛国心や西側諸国の団結を過小評価していた。ロシアが勝利すれば、他国にも誤ったメッセージを与えることになり、反対にロシアの試みが失敗すれば抑止となる。
ロシアのウクライナ侵略により、両国の経済界は打撃を受けているが、仮にインド太平洋地域で同様の事態が起こった場合、影響は今回以上に甚大となる。中国との関係についても、日米欧で団結して対応することが肝要である。どこからが容認できないのか、明確に線引きすることが求められる。ドイツは、インド太平洋地域で中心的な役割を果たしている日本を支持しており、同地域への関与を強化していく方針である。他方、中国との対話を継続することが重要であり、中国に進出している日独企業のネットワークを活かしながら、民間レベルでもコミュニケーションを取ってほしい。
気候変動対策も国際協力が不可欠な課題である。ロシアのウクライナ侵略を受け、エネルギー転換が一層重視されている。ドイツでは、22年末までに停止する予定の原子力発電所について、稼働延長が議論されているが、新規原子力発電所の建設は政治的にも難しいだろう。脱炭素化に向けては、太陽光、風力等の再生可能エネルギーや、水素、アンモニア、バッテリーをはじめ、革新的なグリーン技術の開発が不可欠である。グリーン分野についても、技術開発等において、日独企業間の連携が期待される。
【国際経済本部】