経団連は5月11日、外交委員会(片野坂真哉委員長、大林剛郎委員長)をオンラインで開催した。慶應義塾大学総合政策学部の鶴岡路人准教授から、ロシアのウクライナ侵略が国際秩序に与える影響について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 欧州秩序の変容~プーチン大統領の誤算
ウクライナでは、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への加盟が昔から支持されていたわけではないが、2014年のロシアによるクリミア半島の併合により、ロシア離れが一気に加速した。ロシアがウクライナを欧州側に追いやったといえる。
また、フィンランドとスウェーデンは第二次世界大戦後、民主主義等の価値観を西側と共有しつつ軍事的には非同盟の立場をとってきたが、ロシアのウクライナ侵略を受けて、NATOへの加盟を検討しており、欧州の秩序が変容しようとしている(フィンランド、スウェーデンは、5月18日にNATOへの加盟を申請した)。ロシアの行動が北欧の中立国をNATOに追いやっていることは、ロシアの「オウンゴール」といえる。
加えて、ロシアの行動は、プーチン大統領の想像以上に米欧日の結束を強めることになった。
■ 国際秩序の変容
今回のロシアの侵略が中露関係に与える影響にも着目する必要がある。従来は、経済力では中国、軍事やユーラシアにおける外交力ではロシアが上回っていると認識されてきたが、今回のロシア軍の苦戦により、今後は中国がロシアに対してあらゆる面で優位に立つ。中国としては、ロシアが弱体化することは、二国間の関係ではよいかもしれないが、米国と対峙していくうえでは好ましくない。このため、中国はロシアへの支援に関して逡巡している。
国際社会が一致してロシアに対峙しているような報道もあるが、対露経済制裁を行っているのは40カ国程度でしかなく、数のうえではロシアは国際社会から孤立していない。対露制裁の拡大と深化はトレードオフの関係にある。米欧日が結束すれば、民主主義や人権等の価値観が強調されてしまうが、そうした価値観に反発する国々はロシア制裁に参加しにくくなる。米欧日にとっては「西側対ロシア」の構図でとらえられないようにすることが重要である。
■ 日本の外交・安全保障への影響
岸田政権がロシアのウクライナ侵略について、国際秩序の根幹を脅かす、日本自身の問題であると強調している点は重要である。
ロシアへの経済制裁は、日本国内にも経済的なコストを発生させるが、最終的には日本の国益にかなうことを国民に説明しなければならない。これは政府だけでなく、経済界やメディアも担うべき役割である。
■ 戦後に向けた課題
戦後もプーチン政権が存続した場合に、戦争犯罪人となったプーチン大統領との付き合い方は悩ましい。
また、ロシアがウクライナから撤退する際に、対露制裁の緩和・解除を条件にする可能性が高い。各国の歩調を合わせるのは制裁の強化よりも緩和の方が困難である。
プーチン体制が崩壊した場合の新指導者への過度な期待も懸念される。
この3点について検討を始めなければならない。
【国際経済本部】