経団連は9月3日、社会保障委員会医療・介護改革部会(本多孝一部会長)をオンラインで開催し、一橋大学経済学研究科/公共政策大学院の高久玲音准教授から、「高齢化の進展を踏まえた適正な医療提供体制の構築~コロナ禍を踏まえた再考」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 新型コロナで明らかになった課題
日本は、他国に比べて、新型コロナウイルスの患者数が少ないにもかかわらず、重症患者を治療する医療提供が逼迫している。
要因の一つとして、ICU等病床数の少なさが挙げられる。日本のICU等病床数(人口当たり)は、米国やドイツの約3分の1で、深刻な医療崩壊が起きたイタリアやスペインと同レベルにある。
また、日本の特徴として、新型コロナ患者の受け入れが各病院に分散していることも挙げられる。東京都では、約600ある病院のうち114もの病院が重点医療機関の指定を受けて新型コロナ患者を受け入れているが、病院ごとの重症患者用の病床が少ないのが実態である。その背景には、民間病院が多く、国や自治体の強制力が及ばず、新型コロナ患者の受け入れが「お願いベース」にならざるを得ないことが指摘されている。この状況は、約20程度の大規模公的病院を中心として、集中的に新型コロナ患者を受け入れるイギリスなどの諸外国と大きく異なる。
そもそも日本では、平時から医療機能の分散が課題として指摘されてきた。病院の分散により、他国に比べ、病床当たりの医師数が少なくなっている。1人の医師が多くの病床を担当することで、医師の負担が過重となり、診療の密度も低くなる。医療機能の分散は救急医療の機能不全も引き起こし、救急患者の搬送先がすぐに決まらない事例がたびたび生じてきた。機能の分散という構造的課題により平時から医療提供が切迫するなか、有事においても対応に余裕がなくなる。足元では、コロナ禍で救急搬送が崩壊している状況である。
■ 地域医療構想と医療費適正化政策
医療提供体制にかかわる最も重要な枠組みが「地域医療構想」である。これは、2025年に向けて、各病院に今後どのような病床機能を持ちたいかを表明させるスキームである。
人口減少や高齢化を見据えた今後の医療需要を考えると、急性期病床から慢性期病床等への転換が必要だが、急性期病床を持つ病院に病床転換の動きはあまりみられない。
一方で、コロナ禍でも明らかになったとおり、「急性期病床」と考えられていた病院の急性期機能の多くは非常に脆弱である。そのため、都市部の民間急性期病院の集約・高機能化を図ることが重要である。機能集約を促す方策として、急性期病院には救急受け入れを義務化することも有効な方策と考えられる。
医療費適正化政策としては、とりわけ、診療所の集約化が重要である。小規模な診療所が高い収益率を維持できる現行の診療報酬は行き過ぎだと考える。診療所の診療報酬を下げながら、複数の医師がグループで地域医療に貢献していく方向で診療所の集約化を促す必要がある。
【経済政策本部】