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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年11月17日 No.3293 トランプ政権と米国の温暖化政策の行方<上> -21世紀政策研究所研究主幹・有馬純

有馬研究主幹

米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したことは世界中を驚かせた。そのマグニチュードは6月の英国のEU離脱国民投票の比ではない。選挙キャンペーン中のトランプ氏の過激な言動や公約が、大統領就任後、どの程度実行に移されるのかは未知数である。しかし確実にいえることは、米国のエネルギー温暖化政策が大きく様変わりするということである。

トランプ氏は過去、ツイッター等で「気候変動問題は中国が米国の競争力を削ぐためにつくり上げたでっち上げ(hoax)だ」と公言してきた。トランプ氏の「アメリカ第1エネルギー計画(An America First Energy Plan)」や「米国を偉大にするための100日行動計画(100-day Action Plan to Make America Great Again)」では米国のエネルギー独立の達成、国内石油・石炭・天然ガス資源の開発、エネルギー資源開発のための連邦所有地の開放、エネルギーコストの低減、オバマ政権下でのエネルギー関連規制の緩和・撤廃等が列挙されている。トランプ氏当選の報を受けて化石エネルギー企業の株が軒並み上がったのも、こうした政策を好感した結果であろう。

他方、温暖化対策については大きく後退することになる。オバマ政権の温暖化対策の目玉であったクリーンパワープランは廃止され、米国環境保護庁(EPA)の権限は大幅に縮小される見込みだ。トランプ氏がEPAの移行チームヘッドに任命した競争的企業研究所(CEI=Competitive Enterprise Institute)のマイロン・エーベル氏のウェブサイトをみると、気候変動リスクに対する疑念やクリーンパワープランに対する批判が満載であり、方向性は「推して知るべし」であろう。当然、炭素税や排出量取引といったカーボンプライスが導入される可能性は皆無である。さらに1名空席になっている最高裁判事のポストも保守派が埋めることになるため、保守派多数という構図がトランプ政権後も続き、将来、民主党政権が誕生した場合であっても温暖化関連法制導入の制約要因になる可能性が高い。

国連における取り組みについては、パリ協定からの離脱、数十億ドルに上る国連への温暖化関連の拠出の停止等が現実のものになりそうだ。批准国は4年間離脱できないというのがパリ協定の規定だが、親条約である気候変動枠組条約からの離脱すらオプションに挙がっているようだ。いずれにせよ、トランプ政権は前政権の目標(2005年比で2025年26-28%減、2050年80%減)を放棄し、パリ協定に名を連ねていたとしても傍観者的態度に終始するだろう。

トランプ政権の行方については不確定要素が多く、政権移行途上で共和党主流派との関係修復が図られ、トランプ色の強い過激な公約が現実的なものになるとの期待もある。しかしエネルギー・温暖化分野では、クリーンパワープランの廃止にせよ、パリ協定からの離脱にせよ、共和党の選挙プラットフォームとトランプ氏の考え方は概ね一致している。この分野については大きな軌道修正なく、実施される見込みが高いと考えてよかろう。

【21世紀政策研究所】


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