経団連の経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)は10月19日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、日本銀行の雨宮正佳理事から、金融政策の新しい枠組みについて説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。
1.「総括的な検証」のポイント
日本銀行は9月の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を実施した。ポイントは2つ。
第1は、「金融緩和の効果と2%未達成の理由」の検証である。「量的・質的金融緩和」は実質金利の低下を通じて経済・物価を好転させ、デフレではなくなった。一方、2%の「物価安定の目標」は実現できていない。これは、原油価格下落等の外的要因により実際の物価上昇率が下がるなか、もともと日本では「過去の物価に引きずられやすい」という特徴を強く持つ予想物価上昇率が弱含んだことが理由である。
第2は、「マイナス金利の効果と影響」の検証である。マイナス金利と国債買い入れの組み合わせは、長短金利の押し下げに有効で、それが貸出・社債金利の低下につながっている。しかし、これは金融機関収益を圧縮するかたちで生じていること、保険や年金の運用利回りの低下等がマインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性があることには留意が必要である。
この検証結果から導かれる政策の方向性は、「柔軟性、持続性の高い政策枠組み」と2%達成のための「より強力なコミットメント」であった。
2.金融政策の新しい枠組み
これらを踏まえ、「オーバーシュート型コミットメント」と「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」からなる新しい政策の枠組みを導入した。「オーバーシュート型コミットメント」は消費者物価(除く生鮮食品)前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する、極めて強いコミットメントである。「イールドカーブ・コントロール」は経済・物価・金融情勢を踏まえて、2%の物価安定目標に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すもので、金融市場調節方針は従来のマネタリーベース増加額目標に代えて、短期政策金利と長期金利操作目標を決定する。国債買い入れ額は金利操作方針に応じた従属変数となり、ある程度変動することが想定される。
また、2%目標の実現に向けたモメンタムを維持するため必要と判断すれば、追加緩和を実施する。
3.潜在成長率引き上げの重要性
金融緩和は実質金利を引き下げ、自然利子率との差を大きくして、経済を刺激することをメカニズムとしている。自然利子率は一般的には潜在成長率に等しいと考えられ、現在の日本のように潜在成長率が0%近くまで低下しているなかでは、金融緩和の効果もあがりにくい。潜在成長率の引き上げは大きな課題である。金融緩和の効果を企業が有効に活用し、潜在成長率の引き上げに向けた議論が活発になることを期待する。
【経済政策本部】