経団連のアメリカ委員会(石原邦夫委員長、村瀬治男委員長)は10月21日、東京・大手町の経団連会館で、米国先端政策研究所(CAP)のグレン・S・フクシマ上級研究員との懇談会を開催した。フクシマ氏から米国大統領選挙の最新情勢や今後の日米関係等について説明を聞き、意見交換を行った。フクシマ氏の説明の概要は次のとおり。
■ 米国大統領選挙をめぐる情勢
今年の米国大統領選挙において想定外といえる事がらが多く生じている背景には、米国民の多くが抱えている政治経済の現状への大きな不安や不満がある。例えば、米国経済は全体としては回復基調にあるものの、経済格差の拡大もあり、そうした実感を持てない国民が多い。また、グローバル化に伴う空洞化やテロへの懸念もある。さらに、民主・共和両党の対立激化で機能していない現在の政治に対する不満もある。そのため、既存の政治に汚染されていない、外部の新しい人材による改革を求める声が高まっていると思われる。
正副大統領候補によるテレビ討論会を経て、現時点ではヒラリー・クリントン民主党公認候補がドナルド・トランプ共和党公認候補よりも優勢であるとの分析が多い。これを受けて、共和党は上下両院で過半数の議席を獲得すべく、戦略を変更しているとの見方もある。
大統領選挙の結果はもちろん重要だが、勝ち方や同時に行われる連邦議員選挙の結果も重要だ。たとえクリントン候補が勝利しても、上院で民主党が議席の過半数を獲得できなければ、ねじれが生じる。そうなれば、政府高官や最高裁判事の人事にも影響が及び、円滑な政権運営が妨げられることになるだろう。
■ TPP協定批准の見通し
オバマ政権はアジアへのリバランス政策に関するレガシーを完成させるためにも、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の年内批准に向けて努力を続けるだろう。しかし、いわゆるレームダックセッションにおける批准の可能性については、議会関係者の間でも大きく意見が分かれている。日本政府がTPP協定の国会承認を先に得れば、オバマ政権にとっても、米国議会での批准を促す材料になると期待している。
■ 今後の日米関係
日米関係については喫緊の課題はなく、クリントン候補が勝利すれば、現在の良好な関係に変化はないだろう。ただし、米国の他国との関係の変化が日米関係に影響を及ぼす可能性はある。
一方、仮にトランプ候補が勝利した場合、そもそも同候補の政策の優先順位や実現可能性が不明であるため、日米関係の行方もわからない。トランプ候補が勝利した場合は、他国も同様だと思うが、日本側からトランプ陣営に対して積極的に関係構築を働きかける必要があろう。
ワシントンにいると、米国の政策決定プロセスにおける日本のプレゼンスが、他国に比べて圧倒的に小さいと感じられる。米国の対アジア政策における対日政策の比重も小さく、特にビジネス関係者の日本専門家の数は少ない。また、日本政府や経済界は共和党に比べ民主党との関係が希薄だと感じる。どちらの候補が大統領になったとしても、今後は日本側からさまざまな主体に対し、より積極的にアプローチし、プレゼンスを高める必要があると思う。
【国際経済本部】