経団連の21世紀政策研究所(三浦惺所長)は9月29日、東京・大手町の経団連会館でセミナー「新たな局面を迎える韓国産業―“韓国版シリコンバレー”と構造調整」を開催した。同研究所「日韓関係に関する研究」の深川由起子研究主幹(早稲田大学教授)をはじめとする3名の有識者が、韓国の構造調整の進捗やベンチャー育成環境の現状などについて解説した。概要は次のとおり。
■ 「韓国産業の課題=構造調整と新産業育成」
金道薫・慶煕大学教授(韓国産業研究院前院長)
世界経済の長期停滞や中国産業の追い上げなどにより、韓国ではいくつかの主要産業が危機に瀕している。
韓国政府は現在、造船・海運の強力な構造調整施策を推進しているが、財政負担増や地域経済、貿易活動への影響に対する懸念から政治的な問題となっており、先行きは不透明である。また、8月に施行された企業活力向上のための特別法(ワンショット法)は、すでに3企業の事業再編計画が認可され、成果を上げつつある一方、市民団体や野党の反対により大企業に対する規制の多い内容となったことなど限界も指摘されている。
次の構造調整の対象として鉄鋼、石油化学が取り上げられている。これらの産業は日中韓の3カ国で供給過剰の状態にあり、根本的な解決のためには3カ国が共同して構造調整の歩調を合わせる必要がある。
■ 「日本の構造調整の経験と韓国への示唆」
鍋山徹・日本経済研究所チーフエコノミスト・専務理事
日本の構造調整では産業活力再生法(産活法)が非常に大きな役割を果たした。法律をつくるだけではなく、あわせて中立性を持った第三者機関である産業再生機構をつくり推進していった。41社の案件に関与した産業再生機構の評価はさまざまであるが、新聞などのメディアで報道されることによって国民の意識を上げていくきっかけになったと思う。
バブル崩壊後20年にわたる構造調整で日本が得た教訓は3つある。先を見据えて自らの強み弱みを見極め変革していくこと、スピードを重視すること、そして「目利き」が重要だということである。社外取締役をうまく活用している企業では、新しい事業分野を考えるにあたり、社外取締役に目利き役を期待している。
■ 「韓国のベンチャー育成と日韓経済関係の再考」
深川由起子・21世紀政策研究所研究主幹
韓国はこの10年でベンチャー企業の数が3倍の3万社になるなど、現在3度目のベンチャーブームになっている。世界銀行の創業環境評価で、2008年に総合126位だったのが15年には23位(日本は81位)になるなど、韓国は急速にベンチャー育成環境を整備しており、8月に視察したソウル近郊の板橋(パンギョ)テクノバレーでは、起業のアイデア段階から起業して成長するまでに必要なさまざまな支援をワンストップで行っている。
韓国の今後の課題はベンチャー企業の生存率の向上である。ベンチャー企業が事業化の「死の谷」を越えて、IPO(新規株式公開)やM&Aに結びつくためには包括的な施策が必要だ。また、弁護士や教師などの士師業、公務員、大企業を志向する社会意識の変革や、挑戦して失敗した人を評価する風土の醸成も課題である。
日韓両国には「似て非なる」社会がある。両国には異なる環境や社会的ニーズがあり、相互補完的な関係を構築するメリットは大きい。LINEの成功が象徴するように、すでに金融・ITでは人材の共有ができつつある。
【21世紀政策研究所】