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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年8月4日 No.3281 ロシアの輸入代替政策に関する懇談会開催 -日本ロシア経済委員会

経団連は7月22日、東京・大手町の経団連会館でロシア法の権威であるロンドン大学の小田博教授(弁護士)との懇談会を開催し、ロシア連邦政府が現在推進している輸入代替政策にかかる法的な問題等を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 輸入代替政策の概要

ロシアの輸入代替政策の法的基礎をなすのは、国・地方等による公共調達に関する法律、ならびに産業政策法である。前者が外資制限を可能とする原則規定を新たに挿入したのに対し、後者は「特別投資契約」という新設の制度により禁止の例外を定めている。

こうした輸入代替政策が取られる背景には、ロシアの主要輸出品である原油の価格低迷および通貨ルーブルの下落がある。国内生産を促進し、通貨下落による輸出競争力を高める戦略がある。

なお、一般のロシアの国内法の例に従って、国際条約に異なる規定がある場合には、条約が優先する旨定められている。

■ 国際ルールとの整合性

ロシアが2012年に加盟した世界貿易機関(WTO)の内国民待遇の原則(輸入品に適用される待遇は、国境措置である関税を除き、同種の国内産品に対するものと差別的であってはならない)とロシアの公共調達法との整合性はどうか。同法では内国民待遇の適用が明記されている(第14条1項)一方、例外規定として、例えば国防・国家安全保障のほか、国内市場の保護や国内経済の発展、ロシアの商品生産者の保護等を目的に、外国原産の商品や役務等の調達を禁止または制限することができる旨定めている(第14条3項)。

ロシア政府は同規定に基づき、工作機械や軽工業品、医療製品など6分野に関して、外国製品・サービス等の公共調達への参入を制限している。一方、WTOのGATT(関税および貿易に関する一般協定)第3条では「内国の課税および規則に関する内国民待遇」を規定しているが、同時に政府調達に関しては適用除外を認めている(同条8項)。このため、仮にロシアのWTOルール違反を問うのであれば、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止または制限も新設または維持してはならない旨定めたGATT第11条の「数量制限の一般的廃止」に抵触するかどうかが問題となろう。

■ 新たな産業政策法のもとでの「特別投資契約」

公共調達法が、内外無差別の原則に抵触しかねない規定を導入したのに対し、ロシア政府は新たな産業政策法に基づき、昨年7月から「特別投資契約」を通じて、外資誘致や現地生産拡大、技術移転促進を図っている。これは、外国企業が連邦・地方・市の各政府と特別投資契約を締結することによって、税制上の優遇措置や土地の供与をはじめ各種公的支援を最長10年間享受できる制度である。

特別投資契約のもとで生産された産品はロシア産として認められるため、公共調達における参入制限を回避することが可能となるが、新産業政策法制定前に自動車関連で行われた例があるのみで、今のところ締結された契約はない。今後、実際の費用対効果などを注視していく必要があろう。

【国際経済本部】

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