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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年2月25日 No.3259 第119回経団連労使フォーラム -講演「2016年・日本経済の行方」/みずほ総合研究所常務執行役員・チーフエコノミスト・高田創氏

わが国の株式・為替相場は年初から波乱の様相を呈しており、株価はピークからみれば2割減、為替もかなり円高に振れるという状況だ。とはいえアベノミクスの始まる2012年末の日経平均8000円台、為替1ドル70円台と比べれば大きな転換といえよう。

今年を展望すると、先進国が金融危機から回復し拡大する一方、中国をはじめ新興国経済の悪化とそれを背景とした資源価格低下による資源国経済の悪化に加え、政治的な問題が世界各地で起きている。中東や北朝鮮の問題など、もともと不安定なところに予想以上の地政学的な不安定さを抱える状況が目立ってきた。これも年初から市場を揺るがした大きな要因であり、こういったことも覚悟しなければならない。

昨年から今年にかけては、世界的なバランスシート調整の第3局面の状況である。第1局面はサブプライム問題、リーマンショックを契機とした先進国の債務問題。先進国は金融財政(ゼロ金利、量的緩和)を総動員して対応、その反動として第2局面の欧州債務危機、先進国の財政問題が生じた。そして第3局面が新興国の債務問題である。

今年の世界経済は牽引役交代の端境期だ。先進国が緩やかに回復する一方、新興国とりわけブラジル、ロシアは相当な足踏みとなるだろう。また、年半ばから後半にかけて下方リスクを警戒すべき局面となる。来年を展望するあたりから、政策協調といったものを含め緩やかな回復の兆しがみられるのではないか。

為替相場は円高リスクを抱えているが、長い目でみれば超円高というところからは転換の流れにある。バブル崩壊以降日本の株価は停滞が続いた。その間米国、欧州は5倍、新興国は数十倍、日本は資産デフレと円高という冬の状況が続いた。

こうしたなか日本企業はバランスシートを圧縮、半数が実質無借金経営となっている。一企業の生き残りの意味では極めて合理的だが、マクロ的にはデフレ均衡の状況を導く。アベノミクスの三本の矢はこうした企業行動パターン、マインドセットをいかに正常な状態に戻すかというものである。

依然、企業は慎重な姿勢を続けるが一部には、海外への投融資というかたちで確実に変化の兆しが表れている。過去3年の金融政策によって円高是正、株に資金が流れる方向に向き始めた。日本株はむしろ割安であり、世界全体が不安定ななか下落する局面もあるだろうが、世界が安定を迎えるようになれば買戻しの動きがあるだろう。日本を取り巻く状況は、TPP(環太平洋パートナーシップ)や法人実効税率の引き下げなど立地競争力が改善されつつある。

この3年間、大企業、大都市圏にはそれなりの波及があったが、マインド転換が進まないなか全体への波及が思うように進まなかった。異次元金融緩和で「麻酔」をかけた以上、経済・企業・財政の「手術」(構造的な改革)に不退転で臨むしかない。

安倍政権はG7でもトップの安定度を誇っており、時間をかけてさまざまな選択肢が取り得る。金融政策の追加緩和も議論されやすい環境にある。G7サミットに向け景気対策、追加緩和もあり得るだろう。緩和の姿勢を続けることで過度な円高を避け、物価目標とともに賃金を参考値として緩和、物価上昇を考えていくという政府一体となった対応もあり得るだろう。

アベノミクス第2ステージは従来の三本の矢に加え、数年を視野にあらゆる政策を総動員していく局面と考えられる。新興国の不安が除去されていくなかで、ある程度持続的な成長がみえてくる。出発点である今年はそれ以降をにらんだ再起動の年ではないか。

今年は病み上がりのなかでの第3局面、非常に厳しい局面である。この3年間は緩やかに回復してきたが、いったん態勢を立て直すことを考える年となろう。ただし過度に悲観に戻ってしまうのは禁物だ。先をみつめた新たな転換のなかでのビジネスモデルを着々と探っていく局面といえる。

パネルディスカッション「組織を活性化する働き方改革」

パネルディスカッションでは、「働き方改革」をめぐり、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の矢島洋子氏の進行のもと、パネリストにSCSKの執行役員人事グループ副グループ長の河辺恵理氏、王子マネジメントオフィス取締役グループ人事本部長の黒川勝己氏、東京海上日動火災保険人事部部長兼人事企画組織グループ長の田中照章氏の3氏を迎え、各社取り組みの紹介とともに意見交換が行われた。

SCSKでは、2012年から残業半減運動に着手、14年に「スマートワーク・チャレンジ20」として有給取得日数20日、平均残業20時間/月以下等の目標を設定し取り組みを進めてきた。さらなる意識改革と改善活動の定着を目指し、所定就業時間の短縮、裁量労働対象者の拡大などの人事施策を拡充している。

王子ホールディングスは、年間総労働時間の目標(本社部門)を14年度1900時間(15年度1850時間)と定め、19時消灯(原則残業禁止)、深夜残業禁止、早出残業上限月60時間の設定、休日勤務の完全振替化、年休取得率年間80%以上といった削減施策を進めている。

東京海上日動火災保険では、(1)企業風土改革(時間を区切ったメリハリのある働き方への転換)(2)業務プロセス改革(複雑化した保険商品の簡素化、システム刷新による事務処理削減)(3)インフラ・制度の整備(タブレットの徹底活用、在宅勤務制度の試行)等を推進している。

意見交換では、施策推進にかかわる仕掛けとして、各部署で実施した効果的な業務改善施策のウェブ上での共有、目標達成部門へのインセンティブ支給、部門別の達成度・進捗状況の見える化による競いあう仕組みづくり、優秀取り組みの表彰など、組織的に業務改善に取り組む工夫が紹介された。

また各社から残業時間数の削減といった着実な成果を踏まえつつ、業務改善を通じた組織力の向上、付加価値の高い仕事へのシフト、時間当たり生産性や仕事の質に着目した評価制度の確立、多様な人材の活用可能性の広がりなど、施策推進によるさまざまな効果と今後の課題が示された。

※本稿は「第119回経団連労使フォーラム」(1月25、26日開催)の講演およびパネルディスカッションの内容を要約したものです。

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