経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で情報通信委員会(内山田竹志委員長、中西宏明委員長、近藤史朗委員長)を開催した。元エストニア政府経済通信省経済開発部局次長のラウル・アリキヴィ氏から、エストニアのデジタル社会の成り立ちや政府が果たした役割などについて説明を聞くとともに意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。
エストニアは、「所得税のオンライン申告率96%」「国民のインターネット使用率88%」などの指標からもわかるとおり、社会のデジタル化が進んでいる。また、アンドルス・アンシプ元エストニア首相が欧州委員会副委員長としてデジタル単一市場戦略を担当するなど、ICT分野を主導している。
エストニアはスタートアップ国家としても知られており、スカイプ社をはじめ、さまざまなスタートアップ企業が生まれている。
エストニアはソ連からの独立後、政府システムの集約化とペーパーレス化に取り組んだ。2001年以降は、従来から存在していた国民IDの活用を進めるため、インターネット上での個人認証を可能とする国民IDカードを配布した。エストニアの国民IDは日本のマイナンバーとは異なり、秘密情報ではない。デジタルネームとして名前と同じ感覚で使われている。
IDカードの導入期には使い道がわからず、困惑する声が多かった。しかし、インターネットバンキングのログインに使うなど民間のサービスが増えることによって、国民生活に定着していき、活用法もさらに拡大した。現在の普及率は8割を超える。
もう1つの重要なインフラがX‐roadである。各行政機関が持っていたデータベースをX‐roadというシステムに接続することで、個人情報を含めたデータ連携を可能にした。現在では、民間も含めて約300のデータベースがつながっている。国民は自分のデータへのアクセスログを確認することができ、自らの情報を管理することができる。
サービスは税の電子申告などから始まり、電子署名、電子投票、電子処方箋と少しずつ増え、現在では約3000のサービスが存在する。会社の設立登記も自分のパソコンから約18分で済ませることができる。警察業務の電子化も進んでおり、IDカードを運転免許証の代わりとして使用できる。
今後も、電子メールの送付に自宅への郵送と同じ効力を持たせたり、データ活用による政府のさらなるスマート化を進めたりと、さまざまな施策を進めていく予定である。
電子政府の実現は、技術だけで達成することはできない。教育や法制度もスピード感を持って整備することが重要である。現在は初等教育にプログラミング教育を導入し、デジタルスキルのさらなる向上を目指している。また「ノーレガシーポリシー」を掲げ、13年以上経ったITインフラを使用しないことにしている。
日本もマイナンバー制度が始まったが、日本の現状に合った活用法が生まれてくれば利便性の高い制度になると考えている。その際、エストニアの事例も参考にしてほしい。
【産業技術本部】