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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年12月3日 No.3249 中国経済の「新常態」 -昼食講演会シリーズ<第29回>/野村資本市場研究所シニアフェロー・関志雄氏

中国経済は労働力不足を契機に高度成長期と異なる新しいステージ、「新常態」に入った。その特徴として(1)成長率が大幅に低下していること(2)株価急落、住宅バブル、人民元の切り下げなどのリスクが顕在化していること(3)イノベーションが新たな成長エンジンとして重要性を増していること――が挙げられる。

■ 中国の潜在成長率の低下要因

中国における経済成長率は近年大幅に低下してきた。これは景気循環の一局面というよりも労働力不足に制約されて、潜在成長率が大幅に低下していることを反映したものである。労働力不足の原因は農村部における余剰労働力が枯渇すること(「ルイス転換点」の到来)と一人っ子政策のもとでの2010年から生産年齢人口が減少に転じていること(人口オーナス期・少子高齢化社会の到来)にある。11年以降、成長率の低下とは対照的に有効求人倍率が上昇傾向をたどっていることは、このような労働市場の変化を端的に示している。

1995~2011年の平均成長率(潜在成長率とみなされる)は9.9%に達していた。これを要因分解すると、(1)全要素生産性の上昇(寄与度は3.7%)(2)資本投入量の拡大(同5.3%)(3)労働投入量の拡大(同0.7%)――になる。しかし、(2)は高齢化に伴う貯蓄率の低下や賃金上昇に伴う企業の収益性の低下によりペースが鈍っていること、(3)は労働力不足から寄与度が下がっていることを考慮すれば、現在の潜在成長率は7.0%前後にとどまっているとみられる。足元(15年第3四半期)の成長率(6.9%)はそれにほぼ見合っており、景気はそれほど悪くないといえる。

■ 顕在化するリスク

中国経済は、株価下落、住宅バブル、人民元切り下げという3つのリスクに直面している。

まず、15年6月以降の上海市場における株価の大幅下落を受け、中国政府は新規上場の停止、金融緩和による流動性確保、政府系ファンドによる買い支えなどの株価対策を行ったが効果は少なかった。株価の急落による景気への悪影響が懸念されるが、急落直前の上昇が大きかったため、大半の投資家は含み益を維持しており、また、株式市場からの資金調達割合も低いことから、消費・投資への影響は限定的とみられる。

また、株価と住宅価格が同時に下落すれば中国経済のハードランディングを引き起こすが、その可能性は小さいと思われる。諸外国とは対照的に、中国の場合、投資対象が「株式か、住宅か」に限られていることを反映して、株価と住宅価格の間には、逆相関がみられる。現に、株式市場から流出した資金が住宅市場に流入していることを受けて、昨年後半から一時調整局面に入った住宅価格は持ち直しつつある。

そして、15年8月11日から13日にかけて人民元の対ドル中間レートは累計4.7%切り下げられた。そのねらいは、ユーロ安と円安が進むなかで、割高となった人民元レートを是正することである。

しかし、人民元の下落が、米国をはじめとする先進国との貿易摩擦を激化させるおそれがあるうえ、中国からの資本流出と、東南アジアをはじめとする途上国を巻き込む切り下げ競争を誘発しかねないことから、中国としては、さらなる切り下げには慎重にならざるを得ない。

■ 中国におけるイノベーション(創新)の可能性

中国におけるイノベーションは、知的財産権の保護の問題や情報統制などの阻害要因はあるものの、民営企業を主役とするインターネット産業の急成長などを背景に変容しつつあり、海外からの評価も変わりつつある。中国は後発の優位性を依然として保持すると同時に、多様なルートで海外からの技術導入を進めている。また、中国の市場としての魅力は増しており、国内市場と海外技術の交換というかたちでの技術吸収が可能である。さらに、大学教育が普及しており、海外流出した人材も還流しつつある。これらに加え、政府が「インターネット・プラス」行動計画や「メイド・イン・チャイナ2025」計画などを進めていることも、イノベーションを促すであろう。

※本稿は「経団連昼食講演会」(10月22日)の講演を要約したものです。

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