経団連は1日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、経営共創基盤の冨山和彦CEOから、「ローカル経済から日本は甦る」と題する講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ 生産年齢人口の減少
現在、少子高齢化を背景とした生産年齢人口の先行減少により、ローカル経済の中心である中小企業やサービス産業(接客、社会福祉、運輸等)をはじめとして、慢性的な人手不足の時代に入りつつある。6月30日に閣議決定された「骨太方針2015」や「日本再興戦略改訂2015」でも、日本経済が労働力不足による供給制約に直面することが記載されている。有効求人倍率はかなり以前から改善傾向だったが、アベノミクス効果も相まって上昇ペースは加速し、特にサービス産業関連の職種は高倍率となっている。
■ Gの世界とLの世界
わが国の経済は、大手製造業等を中心としたグローバル経済圏(Gの世界)と中小・サービス産業を中心としたローカル経済圏(Lの世界)に二分される。かつては大手製造業等Gの企業業績が良くなれば、Lの中小製造業やその他産業に波及するというトリクルダウンが起きやすい構造にあった。
しかし、現在、日本における製造業の比率は、中小企業を含めても社数にして1割程度まで減少。一方、サービス産業は、日本のGDPの7割を占めるまでに成長し、産業構造は大きく変化した。また、Gの世界では企業活動のフル・グローバル化が進み海外事業の比重が高まるなかで、円安効果等で多少の国内回帰が起きても、製造業と非製造業の比率が大きく逆転することは考えにくい。したがって、GとLそれぞれの経済圏ごとに生産性、競争力を高める戦略を推進する必要がある。また、Lの世界が日本経済全体に与える重要性を考えると、そこでの生産性と賃金上昇の問題に真剣に取り組むべきである。
■ 労働生産性の向上に向けて
労働力不足に対応するには、労働生産性の改善が必須である。しかし、日本のサービス産業の労働生産性は米国の半分で、フランスにも負けており、逆に考えればここに改善の伸びしろがある。製造業は、グローバルな競争のなかで、労働生産性が低ければ淘汰される一方、サービス産業は地域密着型であり、労働生産性が低くても淘汰されにくく、低生産性のいわゆる「ゾンビ企業」が多数存在する。企業の新陳代謝を進め、サービス産業の労働生産性を改善する必要がある。
そのためには、(1)イノベーション(2)コンパクトシティ化による地方の消費密度の向上(3)経営人材の地方への還流(4)労働・賃金規制の運用強化などによる「ゾンビ企業」の穏やかな退出――等が求められる。なかでも、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ロボットといったイノベーションは、日本が得意とするモノづくりやエネルギー産業と複合的に絡む技術であり、日本の産業・社会・経済構造と好相性といえる。こうしたLの世界の取り組みが、Gの世界の発展に寄与することも出てくるだろう。ぜひ経済界を挙げて、ローカル経済の成長に取り組むべきである。
【総務本部】