経団連事業サービス(榊原定征会長)は1月26、27の両日、第118回経団連労使フォーラムを開催した(前号既報)。2日目には企業労務担当役員、産別労組リーダーの講演「今次労使交渉に臨む方針」が行われた。概要は次のとおり。
企業労務担当役員
■ トヨタ自動車常務役員・上田達郎氏
トヨタ自動車の上田氏は、同社が通年で行う緊密な労使コミュニケーションの実情とその総決算となる労使交渉の位置づけを紹介。そのうえで今次の賃金交渉では、経済環境、関係各社への影響、賃金水準や中長期的な国際競争力等を総合的に勘案し労使で築き上げた雇用・労働条件を将来的に脅かすことにならないよう見極め、徹底的に議論する必要があると述べた。また、退職金・年金制度の充実を図ったほか、(1)役割・能力発揮重視の賃金体系(2)60歳以降の働き方(役割継続)と処遇(3)家族手当などの見直し状況を説明。今後、女性の活躍推進策等の課題にも取り組むとの考えを示した。
■ 日本電気執行役員・牧原晋氏
日本電気の牧原氏は、世界のICT産業の市場規模が着実に伸びる一方、中国・APECでの生産割合が6割を超えグローバル競争が激化するなか、付加価値と生産性の向上が生き残りの必要条件と指摘。ICT技術とインテグレーション力でグローバルな社会課題の解決を目指すとの理念のもと、高齢者・女性・障がい者等が活躍できる雇用環境の整備やグローバル人材の育成など、ダイバーシティ進展への取り組み強化を人事の課題として挙げた。今次交渉では事業環境や経済情勢に関する認識を労使が共有し、社会ソリューション事業の強化に向けた事業構造改革の推進、グローバルビジネスの拡大を視野に置き、報酬水準等を協議していくと述べた。
■ 三越伊勢丹ホールディングス執行役員・中村守孝氏
中村氏は、小売業に占めるEC(ネット・通販)のシェアが拡大するなか、ライフスタイルの提案等百貨店の強みを活かしながら、基幹店でのインバウンド対応の強化、店舗とWEBの連携、アジア地域への出店増等の方針を説明。今次交渉では、時給制契約社員制度や定年後再雇用制度の改訂等の検討のほか、ベースアップについて消費者物価指数の変動を加味した協議の一方、定期昇給は評価反映によるものとし、年齢加算は行わない等の方向で協議をしていくと述べた。
産別労組リーダー
■ 電機連合委員長・有野正治氏
電機連合の有野氏は、「将来不安」「雇用不安」「生活不安」の三つの不安の解消なくしてデフレ脱却は困難と指摘。人への投資により成長を促進していく観点から、今次交渉では、開発・設計職基幹労働者の基本賃金6000円以上の引き上げとともに、非正規労働者の賃金改善にかかわる産業別最低賃金(18歳見合い)の4000円の引き上げを求めるとした。また、電機産業に働くすべての労働者の雇用の安定と労働条件底上げに向け、非正規労働者の権利保護や処遇改善に向けた取り組みを進めると述べた。
■ UAゼンセン会長・逢見直人氏
UAゼンセンの逢見氏は、物価上昇を踏まえ、実質賃金の維持・向上に向け、月例賃金の引き上げに積極的に取り組むと今次交渉の考え方を説明。正社員組合員は全組合員が対象となる基本賃金の引き上げを重視し、賃金カーブ維持分に加え3%基準の賃金引き上げに集中的に取り組む一方、短時間組合員は仕事内容、働き方に応じて三つの区分ごとに、正社員との均衡ある処遇制度を構築することとし、賃金引き上げとともに処遇改善に総合的に取り組むとの考えを示した。
■ 自動車総連会長・相原康伸氏
自動車総連の相原氏は、日本全体として底上げ、底支えが必要であると指摘したうえで、具体的な賃金要求水準として、昨年は数字を掲げていなかったが、6000円以上の賃金改善分を設定したと説明。また、直接雇用の非正規労働者についても賃金改善分を設定し、自動車産業の持続的な成長に向け、中小企業の格差是正と非正規労働者の処遇改善による全体の底上げに取り組むとの考えを示した。
【経団連事業サービス】