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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年12月19日 No.3159 今後の原子力政策のあり方<中> -新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて

21世紀政策研究所
原子力損害賠償・事業体制検討委員会副主査
竹内純子

わが国の電力供給は、低利の資金調達を可能にする総括原価主義による料金規制や一般担保、需要を確実なものにする地域独占等の制度的手当を受けながら民間企業が担ってきた。国民生活の安定や経済発展にとって安定・安価な電力供給は必須のものであり、また、電力事業は大規模な長期投資を必要とするため国営事業として営まれていることも多く、米国や日本のように歴史的に民間事業者が電力事業を担ってきた例は世界的にみれば珍しいといえる。そして、わが国は「原子力平和利用のモデル国」ともいわれるように、バックエンド事業も含めた原子力事業全体にわたって、主に民間事業者が事業主体となってきた。

しかし、原子力事業は単なる発電の一方途ではなく、核物質管理やエネルギー安全保障など国家レベルでの政策全体のなかで考えなければならない複雑さを有しているため、事業の推進には政府の指導・支援が必要と考えられてきた。そのため、安全性や適切な事業運営を担保する制度の整備と規制の実施、立地支援、技術開発などさまざまな場面における政府支援を背景に、民間によって事業が営まれる「国策民営」といわれる形態のもとで、原子力事業は発展してきたのである。

政府の支援を受けながら民間企業が機動力ある事業展開を行うというスキームは、平時においては多くのメリットをもたらしたが、今次の東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、東電福島原発事故)によって、官民のリスク・責任分担のあいまいさという大きなデメリットを内包していることが明らかになった。

原子力災害による被害は広範、かつ、時間的にも長期にわたる。そのため各国の原子力損害賠償制度は共通して、近代民法で通常求められる以上の厳格な責任を原子力事業者に求め、民間保険により賠償資力を担保させ、それでも不十分な場合には国家補償を行うという構造になっている。社会全体の利益・発展を目的として新たな技術の利用を導入するのであれば、その技術の利用によって生じた事故の被害は、最終的に国家が補償すべきという概念による。

しかし、わが国の「原子力損害の賠償に関する法律」(以下、原賠法)は、民間の原子力事業者が無限の責任を負い、政府がそれを支援する構造となっている。東京電力は一義的にすべての責任を負うとされたが、国家の関与の基準や手法が明らかにされておらず、政府支援の内容は「原子力損害賠償支援機構法」や「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」によって初めて具体化された。事故を起こした東京電力は現在、莫大な数に上る被災者への賠償業務、事故を起こした発電所の廃炉作業や除染の費用負担を背負いつつ、顧客への電力供給を行っている。

機構法によるスキームが確立され、電力供給や賠償等の事故処理における安定性は、一定程度確保されているようにもみえる。東京電力は約1万人にも上る人員を動員して賠償金の支払業務を進めているが、未解決の事案も多く、また、金銭賠償のみでは地域コミュニティーの回復は望めないという、被災者救済スキームとしての根本的な問題も明らかになってきている。

こうした問題意識に基づき、21世紀政策研究所の「原子力損害賠償・事業体制検討委員会」では、今後あるべき原子力損害賠償制度について検討を行い、報告書「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」を発表した。

新たなエネルギー基本計画策定に向け、政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の議論では、原子力は安定供給、コスト低減、温暖化対策の観点から、安全性の確保を大前提に引き続き活用していく「基盤となる重要なベース電源」と位置づけられた。しかしその活用にあたっては、改めてあるべき原子力損害賠償制度について議論し、その法目的に立ち返って検討する必要がある。本報告書がその一助となれば幸いである。


今後の原子力政策のあり方(全3回)

  1. 新たな構築を迫られる原子力損害賠償・事業体制
  2. 新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて
  3. 原子力事業環境・体制整備に向けて

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