経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は5日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストから、「アベノミクスの評価と持続的成長に求められる条件」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。
1.消費税率引き上げについて
7月21日の参議院選挙を経て、衆参のねじれ現象が解消した。これによって安倍政権は政策的自由度を得たはずであった。しかし、官邸を中心に消費税率引き上げに慎重な声もある。国内外の投資家からは、財政健全化と両輪で進められてきた成長戦略の本気度も疑われている。
足もとの景気は、明るくなりつつある。2013年4-6月期の実質GDP二次速報は、4%近い高成長が見込まれる。また、昨年来の株高は、株式保有者以外の人々のマインドにもプラスの影響を与え、シニア層を中心に個人消費が拡大している。消費税率引き上げを延期する経済状況とはいえないだろう。
消費増税の影響については、実質GDPベースでプラス0.5%の駆け込み需要があり、マイナス1%の反動があると見込んでいる。反動減は、購入頻度の低い耐久財で顕著となるだろう。1997年の消費増税と比べられることがあるが、当時は企業の過剰債務問題があったのに対し、今回は企業が235兆円の余剰資金を持つなど、経済環境は改善している。当時ほどの悪影響はない。
先行きについては、税・社会保障一体改革を白紙とするのは難しいため、8%への引き上げは実施されるというシナリオである。しかし、10%への引き上げに当たっては、8%引き上げ時の反動減を重くみて増税不要論が出てきかねない。成長戦略を通じて、反動減を小さくすることが不可欠と考える。今後、5兆円規模の補正予算や次なる成長戦略などいくつかの「矢」が議論されるだろう。
2.成長戦略の課題
6月の成長戦略の発表はマーケットから失望されたが、期待先行だった面が大きい。目先で取り組むべき課題は、企業の競争力強化のための環境づくりである。六重苦の解消という視点では、足もとで円高が解消され、TPP交渉も進展しているが、高い法人税や厳しい労働・環境規制、電力不足問題はいまだ残る。
他方、中長期的な競争力強化のためには、規制緩和が重要である。自民党は、先の総選挙において、諸外国との違いを合理的に説明できない制度的障害を3年以内に撤廃する「国際先端テスト」の導入を掲げた。これを額面どおりに進めていけば効果は大きい。内閣府の「規制改革ホットライン」や、経団連の「経団連規制改革要望」を通して、民間のアイデアをうまく取り込み、効果を出すこともあわせて考えるべきである。
これまで安倍政権で列挙された成長戦略メニューは、「女性活用」や「保育」など、テーマ自体は「善」だが、社会的政策に焦点が当たったきらいがある。今後は、新規・継続案件ともに、成長にとって有意義なものを選別していくべきである。特に重要なのは、設備投資の喚起だ。法人減税はそれを推進するツールである。規制緩和等を通じた企業のビジネスチャンスの拡大、ベンチャー企業支援の枠組みの整備等を通じたイノベーションを促進する体制の構築が望まれる。
【経済政策本部】