経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で貿易投資委員会(勝俣宣夫委員長、芦田昭充共同委員長)・経済連携推進委員会(伊東信一郎委員長)の合同会合を開催した。当日は、東京大学大学院総合文化研究科の小寺彰教授から、わが国の通商政策の現状と課題について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。
■ 総論
まず、通商政策の究極の目的は、企業にとっての内外の事業環境改善を通じたわが国経済の成長と雇用の確保であり、これを明確に認識する必要がある。
また、一国で生産が完結し完成品が輸出入の中心であった1980年代ごろまでと異なり、現在は複数の国に拠点が分散し、サプライチェーンが全世界に展開するなか、部品・部材が貿易の中心である。したがって、完成品の関税撤廃等だけでなく、世界の企業活動全体を円滑化していくという発想が必要である。
■ WTO(世界貿易機関)とドーハ・ラウンド
150カ国以上の加盟国が参加するWTOドーハ・ラウンドは、物品の関税撤廃をめぐり膠着状態に陥っており、企業のニーズを十分満たさなくなっている。他方、企業活動の実態を反映し、ITA(情報技術協定)の改訂(対象品目拡大)やサービス貿易に関する有志国間での自由化交渉への取り組みが進展しており、わが国もこうした複数国間の協定に注力する必要がある。
ラウンドによるルールづくりの成果を加盟国全体が享受できるWTOは、極めて有益な制度であるものの現状では、複数国間の交渉や紛争解決などの機能を活用していくしかない。
■ 「広域FTA」の推進
各国が国際ルールづくりで競争するなかで重要なのは、TPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとする広域FTAである。広域FTAは、二国間FTAでは困難な国際ルールづくりについて、参加国が多いほど容易にできるとともに、多国間にわたるサプライチェーン全体の円滑化に資する。
また、二国間FTAでは、完成品がFTA締結国で組み立てられても、第三国生産の部品等の付加価値が高ければ、完成品の域内原産性が認められず、FTAの関税撤廃等の恩恵を受けられないことがある。しかし、広域FTAでは、サプライチェーン全体をカバーするかたちで付加価値を累積することが可能となる。
ただし、単一の広域FTAが全世界を網羅するのは困難であり、国際ルールにも米国型、EU型といった差異が生じる。わが国のTPP交渉への参加表明が遅れ、ルールづくりへの関与の余地が狭まったことは残念であった。
■ 通商政策の一環としての各種協定
投資協定、租税条約、社会保障協定はグローバルな企業活動にとっての「協定インフラ」であり、通商政策の一環として、あわせて推進する必要がある。
【国際経済本部】