経団連は10月25日、東京・大手町の経団連会館で約400名の参加者を得て、第11回企業倫理トップセミナーを開催した。
開会にあたり米倉弘昌会長が、「昨今、経営トップが関わった企業の不祥事が相次いでいることは遺憾である。経営トップ主導による不祥事は、当該企業はもとより、日本企業全般に対する国内外の信頼失墜につながりかねない。不祥事防止のため、経営トップ自らが高い倫理観を持って企業経営にあたっていただきたい」とあいさつした。
引き続き元最高裁判所判事の甲斐中辰夫弁護士が「企業不祥事の防止に向けた経営トップの責任」と題する講演を行った。甲斐中氏の講演要旨は次のとおり。
企業不祥事の防止に向けた経営トップの責任
私は、オリンパスの不正経理事件について、事実関係等を明らかにする第三者委員会の委員長を務めた。オリンパスでは、1990年代に多額の金融資産運用損を抱えていたが、2000年4月からの会計基準変更に対応するため、海外につくった簿外ファンドを利用し、1000億円強の損失を隠蔽し続け、さらにこれをM&Aを利用して解消しようとしたが、2011年に問題が発覚した。
本件は、経営トップ主導による長期にわたる不正経理事案であり、その責任は看過できないものがあった。しかし、一方で私的に利得したものはおらず、大多数の社員は真面目であり、高度な技術力とこれをバックアップする人的体制とが相まって、欠くことができない高品質な医療サービスを提供する企業であることもわかった。そこで、第三者委員会報告書では、「不正経理は誠に残念で病巣は剔決(てっけつ)すべきだが、オリンパスは人心を一新して再生を目指すべき」と結論付けた。
オリンパス事件を教訓として、経営トップは「本当に会社のためとは何か」を考えて、勇気を持って、正しい判断をすべきである。オリンパスの経営者は主観的には会社のためにと信じて不正経理を続けたが、結局それは誤りだった。
企業が正しくあるかどうかは、経営トップの姿勢にかかっている。トップは方法論を抜きにして、結果だけを追求するのではなく、常に正攻法で問題に対処すべきことを社員に言い続ける必要がある。
また、役員会において、役員は保身を優先せず、真に会社のために発言することが求められている。オリンパスでは、形式的には社外役員が充実していたが、それでも問題は発生した。形式的に社外役員を置くことが重要なのではなく、社外役員の心構えこそが重要である。
社会常識の変化を踏まえ、近年の判例では、取締役の忠実義務・善管注意義務違反を広く認めている。その結果、取締役が、巨額の損害賠償責任を負う事例も多い。
企業経営者にはさまざまなプレッシャーや責任があり、困難な事態に適切に対処するのは容易なことではない。困難な事態に遭遇した時、経営者は、一切の私心を捨て、物事の本質を見極めて決断する必要がある。そのため、経営トップは常日ごろから、倫理観や哲学を持って、人間性を磨くことが何よりも重要である。
「経営者の裁量の範囲である」として、取締役が責任を免れる場合がある。しかし、取締役には、法令に従うか否かの裁量は与えられていない。今は正攻法で経営を行うことが求められている時代であり、そのことを認識すべきである。
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講演を受けて、三宅占二企業行動委員会共同委員長から、「本日の甲斐中弁護士のご示唆を踏まえ、公私の混同を排し、人間性を磨くなど、高い倫理観を持って経営に当たるとともに、不祥事の防止に向けて、実効ある施策を講じるようお願いしたい」と述べた。
【政治社会本部】