経団連の産業技術委員会企画部会(久間和生部会長)は3月27日、日欧産業協力センターの市岡利康プロジェクトマネージャーから、「EUにおける科学・技術・イノベーション政策」について説明を聞いた。概要は次のとおり。
1.欧州フレームワームプログラム(FP)成立の背景
1960~80年代、北米および日本をはじめとするアジア諸国が科学技術力を強化するなか、後れを取っていた欧州において危機感が募った。こうした状況を踏まえ、EU加盟国が独自に科学技術政策を実施するのみならず、EU全域で協力しながらプログラムを推進するため、1984年にFPが成立した。現在は第7次のFP(FP7)が進行中である。
2.FP7の概要
FP7は、日本の科学技術基本計画と資金配分機能をあわせたような性格を持つ包括的な仕組みである。その特徴として、(1)全世界にオープンな公募制である(2)実用化を見据えた研究に対して助成が行われる(3)原則としてプロジェクト参加者に共同出資を求める(4)プロジェクト参加者で知的財産権を共有する――といった点が挙げられる。
FP7の予算は7年間で532億ユーロ。これはEU加盟国全体の研究開発費の5%以上、日本の年間の研究開発費の3分の1程度に当たる。7年間にわたって予算が確保されていることにより、中長期的な視野で研究開発を行うことが可能となる。各国の予算が減少傾向にあるなか、FPの予算は拡充されており、EU全体でイノベーションを生み出そうという意志が感じられる。
FP7に参加するメリットとしては、「ネットワークの飛躍的拡大」「標準化やルールづくりへの関与」「通常利用できないデータベースへのアクセスやデバイスの使用(日本では認可されていない医療機器の使用等)」「欧州における先端技術に関する情報の早期入手、および先端技術の目利きの可能性拡大」等が挙げられる。
FP7は、(1)10の領域(保健、農業、ICT等)における共同研究に対し助成を実施する「協力(Cooperation)」(2)研究インフラの整備等の「基盤整備(Capacities)」(3)基礎研究への支援等の「アイデア(Idea)」(4)人材交流やキャリア形成の支援等の「人材(People)」(5)核エネルギーの平和的利用の推進等の「欧州原子力共同体(Euratom)」――の五つで構成されている。
日本からFP7に参加する方法の一つとして、日欧の共同公募がある。これまでの例では、「FP7/JSTの超電導(2010年)」「FP7/NEDOの太陽光発電(10年)」「FP7/経済産業省の航空(11年)」「FP7/総務省・情報通信研究機構のICT(12年)」等がある。12年以降も、「希少元素・代替材料」や「ICT・次世代ネットワーク」等で共同公募が行われる予定。
FP7は13年度で終了し、その後継プログラムとしてより包括的な仕組みである「Horizon 2020」が14年度からスタートする予定である。予算規模は800億ユーロ。同プログラムでは、(1)「卓越した科学(ハイリスク・ハイリターンな研究開発)」(2)「産業界におけるリーダーシップ(イノベーションにつながる研究開発)」(3)「社会的課題への取り組み(課題解決に資する研究開発)」――の三つの柱を掲げる方針である。
【産業技術本部】