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月刊 経団連  座談会・対談 「人への投資」促進を通じたイノベーション創出と生産性向上の実現

武田 洋子
三菱総合研究所研究理事・シンクタンク部門副部門長兼政策・経済センター長

淡輪 敏
経団連雇用政策委員長
三井化学会長

柄澤 康喜
経団連審議員会副議長
MS&ADインシュアランスグループホールディングス会長

大橋 徹二
経団連副会長、経営労働政策特別委員長
コマツ会長

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足元では、不安定な国際情勢によって原材料などの価格が高騰し、さらに急速な円安の進行等を要因として物価上昇が続いている。あわせて、DX・GXの推進による産業構造の変革とそれに伴う成長産業・分野等への円滑な労働移動を通じた我が国全体の生産性向上が喫緊の課題となっている。
こうした状況のもと、我が国経済の安定的かつ持続的な成長のためには、「成長と分配の好循環」の実現が必要である。「人への投資」をさらに促進し、イノベーション創出と労働生産性向上などを通じて、「構造的な賃金引上げ」と「分厚い中間層の形成」「成長と分配の好循環」につなげていくことが望まれる。
そこで座談会では、イノベーション創出や労働生産性向上に向け、働き方改革のさらなる推進、DE&Iの浸透、円滑な労働移動の推進などについて議論するとともに、物価上昇局面という近年に経験のない特別な状況で行われる2023年春季労使交渉・協議について議論していく。

大橋 徹二(経団連副会長・経営労働政策特別委員長/コマツ会長)
労働生産性は、労働時間や投入量を減らし、エンゲージメントや付加価値を上げることで高まる。ICT技術を活用することも1つの方法で、当社では「スマートコンストラクション」という新たなビジネスモデルも進めている。また、人材を社内にとどめるのではなく、サプライヤーや取引先の中に入れることで、現場の効率を上げつつ、現場目線で当社の問題点を発見する役割を果たすといった円滑な労働移動も実現している。今回の春季労使交渉での懸念は、経営側と対話する組織のない中小企業で、賃金引き上げが適切に行われるのかという点だ。

柄澤 康喜(経団連審議員会副議長/MS&ADインシュアランスグループホールディングス会長)
日本の労働生産性の低さはOECD先進7カ国中で最下位の状態が続いている。これを克服するには「働き方改革」と「イノベーション」が不可欠である。経団連では推進軸としてDE&Iを設定しているが、今回、E(社会的な公平・公正)の観点を取り入れたことは非常に意義深い。実質賃金の伸び率は国際的に低い水準が続いている。企業の社会的責務として幅広い層に対して賃金の引き上げを行い、人への投資を通じて働き手が生み出す付加価値を高め、構造的な賃金引き上げと分厚い中間層の形成を実現し、成長と分配の好循環につなげることが重要だ。

淡輪 敏(経団連雇用政策委員長/三井化学会長)
生産性向上や持続性を考えるとDXは不可避であり、特に装置産業である当社では現場レベルでの安全性を高めることが重要だ。研究レベルでもMI(マテリアルズ・インフォマティクス)が開発のスピードアップに欠かせなくなっている。また、超勤労働を減らすことや社員のエンゲージメントを高めていくことも非常に大事である。女性が就業可能な職場が限定されてしまう問題を打破するための取り組みも全国に広げている。2030年に向けた長期目標値の中に女性管理職比率を15%と設定し、そのために女性のパイプラインを構築している段階だ。

武田 洋子(三菱総合研究所研究理事・シンクタンク部門副部門長兼政策・経済センター長)
イノベーション創出との関連では、経営改革と人材改革とを連動して実行することで最大の生産性の向上が得られる。今回の賃金引き上げの重要性は高い。足元の物価高の中で家計の購買力低下を防ぎ、国内需要を支えることになる。人材獲得競争や適正な価格設定の観点からも結果的に企業にとってプラスになる。賃金抑制で消費や投資も停滞する負の循環から、適切な価格転嫁と付加価値向上による生産性上昇という正の循環へ転換するうえでも必要だ。労使の対話では、賃金引き上げの議論とともに、リスキリングを含めた「人への投資」も議論すべきだ。

藤原 清明(司会:経団連専務理事)

  • ■ イノベーション創出や労働生産性向上に向けた取り組み
  • 労働生産性を向上させるインプットとアウトプット
  • D&Iに公平・公正さを加えたDE&I
  • 円滑な労働移動に必要な人事制度設計
  • ■ 我が国の賃金に関する動向と現状認識
  • デフレマインドの常態化とインフレへの処方箋
  • 賃金が低迷してきた4つの理由
  • 賃金引き上げの重要性と企業にとってのメリット
  • ■ 2023年春季労使交渉・協議における基本的考え方、今後の労使関係
  • 労使の対話によって企業の課題を明確にする
  • 成長と分配の好循環につなげて失われた30年から脱却する

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