ロレーナ・デッラジョヴァンナ
日立製作所 執行役常務 Chief Sustainability Officer
Chief Diversity, Equity & Inclusion Officer
2020年4月から日立製作所本社のある東京に居を移し、グローバルでの役割を担う。
日立産機システムにおける取締役を兼務するほか、国外においてはヨーロッパ地域本社であるHitachi Europe Ltd. およびイタリア国内のエネルギー、水、物流、ヘルスケアと多岐にわたる事業領域における複数の日立グループ会社の取締役を務める。
これまで、イタリアでカントリー・マネジャーを務めたのちイタリア国外にも活躍の場を広げ、2007年には南ヨーロッパ地域の財務担当役員、2010年に日立ヨーロッパ本社のある英国にてヨーロッパ域内シェアードサービスビジネスディレクターを歴任。
私は日立製作所の執行役常務を務めています。イタリア出身です。2022年4月からチーフ・サステナビリティ・オフィサーとCDEIO(チーフ・ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・オフィサー)を兼任しています。グループ全体のダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン施策とともに、ESG投資等、環境に関わる分野も担当しています。
コンフォートゾーンから出て実感したこと
私にはDEIの大切さに気付いた2つの重要な転換点がありました。1つは無意識に、またもう1つは意識的なものでした。
それは、私が新たな仕事に就くために、イタリアから英国に引っ越したときのことです。自分の心地よい場所、コンフォートゾーンから出るのは、これが初めてでした。新しい国、新しい役割、新しい文化と出合い、違う場所で生活して、仕事をする。そうしたことの意味を実感しました。不慣れな状況において、自分自身と会社のために最善を尽くすことができるか、好機に変えていけるのかがポイントで、無意識のコミュニケーションによって切り開いていきました。これが私自身にとってのDEIに関する初期の学びの場でもあったと思います。つまり、皆の話を聞くことの大切さと、自分の話を聞いてもらうことの大切さを学んだのです。この経験は、私がオープンマインドを保つためにも役立ちました。それ以来、DEIを仕事とプライベートの両方で、自然な形で取り入れています。
DEIはビジネスと社会を変革する大きな推進力
意識的な転換点は、数年前にチーフ・ダイバーシティ・インクルージョン・オフィサー(現CDEIO)になったときです。このときの私は、時間をかけてDEIについて基礎から研究をしました。
改めて分かったのは、ビジネスと社会を変革するためにはDEIの考え方がとても重要であるということです。DE&Iは、あらゆる社会が未来へ向けて大きく推進する力となります。ダイバーシティの持つ力を理解したうえでCDEIOの役職に就くことを決めました。
DEIを進めることによって、異なる価値観の人々とは衝突する可能性もあります。しかし、オープンマインドでエンパシー(共感力)を持ちつつ、自分の目標に集中することで解決することができます。障壁もあり、簡単ではありませんでしたが、会社と私のビジネスを成功させるという一心で、克服できました。
偏見を自覚することは他者への共感や理解を深めるのに役立つ
DEIにとって、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を自覚することは、とても大事なことです。暮らしの中でも、仕事の場でも、人はアンコンシャス・バイアスのもとで意思決定をしています。個々人がそれぞれにバイアスのかかった見方や感情があるからこそ、人との関係は広がっていくのです。アンコンシャス・バイアスがいけないのではなく、自分の中のそれを自覚することが大事なのです。そうしたバイアスは完全になくすことはできないかもしれませんが、自覚があれば想像力と共感力を育てられるし、他者の理解にも役立つようになります。私は毎日、自分自身に問いかけています。周りにいる人たちに公平に向き合っているだろうか。着こなしや話し方で、人を判断していないだろうか。
こんなことがありました。ある老舗のイタリアンレストランでのこと。日本人の総支配人が、私たちのテーブルで日本語とイタリア語でメニューを説明してくれました。その最中、イタリア人のウエーターが注文を取りに来たので、私は無意識にその人を注目してしまいました。イタリア人の方が私の好みが分かるのでは、と思ったからです。私は自分の偏見、間違えた行動をすぐに自覚しました。わずかな間とはいえ説明中に私が違う方向に意識を向けたのは失礼にあたります。繰り返し言います。無意識の偏見を自覚しましょう。不公平や他者への悪い態度を避けましょう。そうすることで、他者から学ぶ機会を失うことを避けられます。
多様性が高いチームでこそイノベーションは実現できる
多様性のあるチームで活動したほうが、イノベーションを実現することができます。自分とは違う提案は刺激的なものです。多様性のあるチームでは、自分の意見に多くの反対意見がある可能性を考慮します。だからチーム全員のコンセンサスを取るためにたくさんの準備をしなくてはなりません。そうして懸命にがんばって準備することで、よりよい成果を生んでいくのです。
特にグローバル企業や、多くの事業部門と関わりを持つプロジェクトを運営している場合は、多様性が高いチームがよい結果を出すでしょう。それは、あらゆる事業部門と関係者のニーズを考慮し、プロジェクトを進めなければならず、そしてあらゆる決断がチームメンバーと共有されるというチームです。
多様性が高いチームでもまれて出た結論は、グローバルの面でも、多様性の面でも、ビジネスの面でも対応できる。社会や多様な属性、従業員のニーズなどに対応していなければ、それはイノベーションとは言えません。
共感力とコミュニケーション力
自分がなじんできた環境とは違う場に置かれると、誰もが不安になるのは当然です。そうした中で、共感する能力、人の話を聞く能力、コミュニケーションを取る能力を持てるように努力をすれば、お互いへの理解が高まり問題は解消されます。たくさん話をして、お互いを理解していきましょう。困難は乗り越えることができます。
私はもともととても好奇心が旺盛で、使命感が強い方です。好奇心は、私がオープンマインドであることを助けてくれています。日本に引っ越してきてからも、学ぶことが好きで、毎日あらゆることから学んでいます。共感力はもともとあったと思いますが、好奇心がさらに共感力の積極性を後押ししてくれているようです。
私たちは完璧ではないからこそ、自分の考えを他者と共有していく
若い世代の皆さんにDEIを知ってもらいたいと思います。社会は常に変化し続けていくものですから、変化に抵抗するのではなく、あなたの心を社会に向けて開いていきましょう。社会に出たばかりの頃は、自分と意見が異なる人々と交流することは、苦痛かもしれません。ですが、少しずつでも経験を積めば、とても多くの気付きを得ることができます。その経験は、あなたが日々の生活や仕事で直面する問題に対応できるツールや知識となります。積極的にオープンマインドでいることを心掛ければ、周りにいる人たちが手助けをしてくれるはずです。世界はますます多くの課題に直面しています。ウクライナ紛争に気候変動問題等、たくさんの大きな課題があり、みんなが力を合わせ努力していく必要があります。
心を開いて、エネルギッシュに情熱を持って、前向きな態度で、難しい局面にも向き合おうとすれば、大きなものを得られます。私は毎日そのように意識しています。人生は簡単ではないので、できるだけ楽しんで取り組みたいですね。
最後にお伝えしたいことがあります。自分の意見を表明したり、声を上げたりすることを恐れないでください。誰もが質問をする権利を持ち、誰もが意見を述べる権利があります。
私たちは完璧ではありません。完璧ではないからこそ、自分が考えていることを建設的な方法で他者と共有していくことが大事なのです。