1967年、岐阜県出身。東京理科大学大学院修了。1994年、ゼロスポーツ設立。当時、国土交通大臣からの認定を得たEVベンチャーとして活動し、電気自動車普及協議会初代代表幹事を務めた。その後、フィリピンにて日系企業初となるEVメーカーを設立。2013年、Global Mobility Serviceを設立。世界最大のグローバル起業家コミュニティエンデバー「2018エンデバーアントレプレナー」、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2019、2020、2021、3年連続BEST10」、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」に選出。JAPAN VENTURE AWARDS 2019「中小企業庁長官賞」「経済産業大臣賞」受賞など、実績多数。経団連審議員会審議員。東京大学大学院非常勤講師。岐阜大学大学院客員教授。
私たちの会社Global Mobility Service(GMS)は金融包摂型のフィンテックスサービスを行っているスタートアップ企業です。現在、日本、フィリピン、カンボジア、インドネシア、韓国の5カ国で法人を展開しています。
学生時代から地球規模の社会的課題を解決できる人間になりたいと思っていました。20代でEV(電気自動車)の会社を立ち上げ、その後、フィリピンでEVの会社を手掛けました。フィリピンには、真面目に働いてもローンやリースが使えず車を購入できない所得層の方々がたくさんいます。そうした人たちの挑戦を応援できないかと始めたのが今の会社です。
多様性を受け容れることで事業が生み出される
フィリピンで街の人から膝詰めでじっくり話を聞く中で、これからの時代は、IoT技術を用いて、「真面目に働く人が正しく評価される仕組み」が不可欠になると強く感じました。
そこで、働きぶりを可視化して、与信がなくても車が持てるようローンの審査をクリアできる仕組みと独自の技術を考案しました。具体的には、自動車の車両データ(走行状況、速度等)と金融機関のデータ(支払い状況等)を組み合わせることで、ドライバーの働きぶりや信用力を可視化し、ローンやリースを活用できるようにするサービスです。例えばローン返済が滞ると車両は遠隔制御によって走行することができなくなります。
こうした事業アイデアが生まれるためには、多様性を受け容れるベースが必要です。多様性を受容できれば、他者の課題に直接向き合っていけますし、はっきりと社会的課題とその解決策が見えてきます。この事業を生み出したときの経験が今の私を築いたといえます。
新たなメンバーを受け容れることで生まれるもの
5カ国で事業展開しているため、社員のバックグラウンドは様々で、議論を重ねる中でにじみ出てくるものは、まったく違いますし、新入社員でも、中途社員でも古株でも、バックグラウンドから発せられるものを尊重しています。
私は経営者として全社員に機会を提供することを宣言しています。挑戦してうまくいかなかった場合は学び直して、再チャレンジをする。企業にはそういう環境が下地として必要だと思います。しっかりと自分を受け止めてくれる環境が人をつくり、社会をつくるのです。それが私の信念です。多様な人材を分け隔てなく包括していく場。企業とはそういうところであるべきと思っています。既存のメンバーだけでは乗り越えられないけれど、新たなメンバーを受け容れることで実現するプロジェクトがあります。つなげてくれる新しい世界がたくさんあります。技術或いはサービス、組織と様々な開発が社内では動いています。それらは、全て人と人の関わり合いの中から生まれてきた成果なのです。
「課題観」を持った人がイノベーションを巻き起こす
とりわけスタートアップ企業の経営においてはイノベーションが重要視されます。イノベーションを起こすことができる人は、人間力あふれる人だと私は思います。人の痛みや苦労、苦しみ、悲しみといったことに対する深い理解や共感が低いと、1つのものをつくり上げることはできないはずです。年齢もキャリアも学歴も男女も、関係ありません。経験を積む中でつかんだ「課題観」を持った人がそこに存在することで、周りがどんどん巻き込まれていく。イノベーションを起こすのはそんな方です。私はそういった方々がイノベーション起こしやすい環境を組織がどうつくるかを考えています。
結局は社会から発想させることが重要で、イノベーターは常に社会的な視点を持ってないと駄目だと思います。自社視点や自分都合の視点ではなく、社会的な視点に立って何が求められるか、シーズを考えていかないとならないのです。
大事なのは未来を読み解く力と感じる力
ニーズだけでは未来の世界観をくみ取ることはできません。未来を見るためには今の社会をよく知って、社会が進んでいく方向を読み解いていかないといけない。そうなると大事なのは未来を読み解く力と感じる力です。読み解くことは簡単なようで実は難しいです。
わずか20年前に、いま世界中から求められているEV(電気自動車)の社会を考えていた方はどれくらいいたでしょうか。私はスタートアップを手掛けながら、地団駄を踏む思いで当時の日本を眺めていました。私たちが今、進めているファイナンシャル・インクルージョンは、真面目にがんばる人に金融をしっかり届けていくというイノベーティブな世界観です。これも10年後、20年後には当り前に求められる時代が来ると信じています。これが未来を読み解く力と感じる力の私なりの実践です。
イノベーションの流れを停滞させないために
ただし、自分の世界観だけでは、年を重ねるにつれ、考えが凝り固まってきてイノベーションを阻害します。ある程度の立場になりますと、自分から情報を取りにいかなくても相手が与えてくれるから、限られた情報の中でものごとを判断していくようになってしまうのです。これがイノベーションを阻害する大きな要因です。私はそういった受動的に届く情報ではなく、自ら情報が得られる機会をとても大切にしています。視野は狭いよりも広い方がいい。
多くの人と接し、社員とのワン・オン・ワンミーティングの機会も増やしています。各人の本音を聞き、私には発見できなかった課題や、理解が及ばないことを進めてもらっています。昔は何でも自分でできる、自分がやれば早いし確実だと思っていましたが、志ある社員に大切な部分を任せていくと、しっかりやってくれます。社員が成長している姿を見るのはとても嬉しいものですよ。採用しておしまいではなくて、採用してから5年後も10年後も、社の成長戦略の長期ビジョンに即した人材に成長し活躍してもらう、それが大きなミッションです。
責任と自覚を持った優しさが世の中全体に求められている
信頼して任せてうまくいかなかったケースもあります。もっとプロジェクトへの自覚と責任を確認したうえでチャンスを与えればよかったかもしれないと反省することも。それはアサインした経営側の責任なのです。一方で、挑戦に対しては一番の理解者であるべきで、私自身が誰よりも寛容性を持っていないといけないと思っています。人は失敗しないと成長しないし、失敗から成功は生まれます。たくさん失敗をしてきた人は、人間味あふれた素晴らしい人が多いですよ。よく失敗を減点主義のようにカウントする会社がありますが、それでは社員は萎縮し、伸びしろを失ってしまいます。失敗から学んだことや得たことを見つめてあげることの方が重要で、人を大きく育てることにつながります。
DE&Iとは優しさなのだと思いますよ。しっかり育てるという優しさです。人に対しても、社会に対しても、組織に対しても言えることで、責任と自覚を持った優しさが世の中全体に求められています。
イノベーションを生み出すために大切だと考える点は3つあります。まずは社内で正当に評価される仕組みをしっかり作ってあげること。次に社会のリーダーとなる教育を行うこと。3つ目は、挑戦に対してサポーティブであり、失敗には寛容であるということですね。この3つは社会を前進させるために欠かせないもので、真剣に取り組んでいく必要があると考えています。
社会のリーダーとなる人材を育てる
社員には、「社会のリーダーになってほしい」と常々話をしています。社会が求めるものを実現しリーダーとして認められるためには、会社の評価だけではなくて社会の評価が得られるような考え方、生き方をしないといけない。会社の外に出たときも、しっかりと社会のリーダーとして世の中の役に立つような人が私たちの会社からたくさん生まれていくと嬉しいです。
業界を超えて横連携ができるような課題観を持つ人たちが社会に飛び出て、多くの人を巻き込んで地球を一歩前進させる。一生懸命に明日の地球のことを考える人たちがつくる社会を楽しみにしています。