「親子会社法制等に関する問題点」に対するコメント

第1編 親子会社法制に関する問題点

第2章 親子会社をめぐる株主等の保護


1(見直しの必要性)

1 親子会社法制について、親会社の株主並びに子会社の株主及び債権者のより一層の保護を図るため、見直しをすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
対象とする「親子会社」の範囲については、なお検討する。
 なお、この点については、現行の親子会社(商法第211条ノ2第1項参照)と同一とすべきであるとの意見、親会社の総資産の額に対する子会社の株式の価額の合計額の割合が50%を超える場合(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条第3項参照)とすべきであるとの意見、何らかの実質的な基準によるべきであるとの意見及び事項ごとに対象とする親子会社の範囲を決定すべきであるとの意見(例えば、現行の親子会社とすることを基本とし、事項によっては、これとは異なる基準《例えば、親会社の総資産の額に対する子会社の株式の価額の割合が一定以上の場合》による《「親子会社をめぐる株主等の保護における「親子会社」の範囲(参考)」参照》。)があるところである。
 親子会社関係は、現行法の下で、すでに相当数が創設されてきているが、親会社の株主等の保護に関し具体的な問題が生じているとは言えず、こうした中で、親会社株主等の保護について過剰な措置を講ずることは、グループ経営によるメリットを減殺することにもなりかねない。
 したがって、今後のグループ経営の進展や具体的に講ずるべきと思われる措置の内容等を踏まえ、メリットとデメリットを比較考量した上で、慎重に対応すべき問題である。

2(親会社の株主の権利)

2 親会社の株主は、子会社に関する一定の権利を行使することができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
 親子会社関係は、現行法の下で、すでに相当数が創設されてきているが、親会社の株主の保護に関し具体的な問題が生じているとは言えず、こうした中で、親会社株主の権利を拡大することは、内容によってはグループ経営によるメリットを減殺することにもなりかねない。
 したがって、今後のグループ経営の進展や具体的に拡大すべきと思われる親会社株主の権利の内容、親子会社が別法人であること等を踏まえ、メリットとデメリットを比較考量し、慎重に対応すべき問題である。

2-(1)(子会社の株主総会に関する権利)

(1) 親会社が子会社の株主総会において一定の決議事項につき議決権を行使するに当たっては、親会社の株主総会の決議を要することとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. 「一定の決議事項」については、取締役及び監査役の選任(商法第254条、第280条第1項)、取締役及び監査役の解任(商法第257条、第280条第1項)、営業譲渡(商法第245条)、定款変更(商法第342条)、合併(第408条)等が考えられるが、なお検討する。
  2. 親会社が、その株主総会の決議に反して、子会社の株主総会において議決権を行使した場合における子会社の株主総会の決議の効力については、なお検討する。
  3. 親会社の株主は、子会社の株主総会において、一定の決議事項につき議決権を行使することができることとすべきであるとの意見もあるが、なお検討する。
 分社化のメリットは、子会社として独立した法人に権限を移譲して事業運営に当たらせ、迅速な意思決定により、経営の効率性を向上させることにある。子会社運営にあたって、一定の事項について親会社における株主総会の決議を必要とすることは、そのメリットを減殺するものである。
 また、子会社への親会社による株主権の行使については、親会社株主は、その適切性について、親会社取締役の責任を追及すれば足りる。
 さらに、親会社の株主総会において、子会社の株主総会における議決権の行使について決議を得ることは、決議取得までに要する時間的・人的コスト、参考書類の作成・発送にかかるコスト等を考慮すると、実務的にもデメリットが大きい。
 加えて、子会社の株主総会における議決権行使について、親会社の株主総会決議を要することとすると、国際的に縮小の傾向にある株主総会の権限を拡大することとなる。
 したがって、親会社が子会社の株主総会において一定の決議事項につき議決権を行使するにあたり、親会社の株主総会の決議を要することとすべきとの意見に反対である。
 なお、(注3)についても、上記と同様の理由で反対である。

2-(2)(子会社の情報開示)

(2) 親会社の株主は、子会社の情報の閲覧及び謄写又は謄抄本交付請求をすることができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. 親会社の株主に開示する子会社の情報については、定款、株主名簿、端株原簿及び社債原簿(商法第263条第2項)、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案又は損失処理案、附属明細書及び監査報告書(商法第282条第2項)、会計帳簿(商法第293条ノ6)等が考えられるが、なお検討する。
  2. 親会社と子会社との連結ベースの情報を開示することとするかどうかについては、なお検討する。
 親会社株主が、その株主権の行使や株式の処分等の判断を行うにあたり、子会社の状況を把握することは重要である。
 しかし、現行において、格別具体的な弊害が生じているとは言えず、今後のグループ経営の進展および証取法による連結重視の進展を踏まえ、慎重に対応すべき問題である。
 仮に、親会社株主に子会社の情報の閲覧等の請求を認める場合でも、対象となる子会社の範囲、対象となる書類の範囲、請求先を親会社とするか子会社とするか等について、慎重な検討が必要である。
 なお、注2にいう、連結ベースの情報開示については、証取法に定める範囲内の情報について、検討する余地がある。

2-(3)(子会社に関する会社法上の訴え)

(3) 親会社の株主は、子会社に関する会社法上の訴えのうち一定のものについて提起することができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
親会社の株主が提起することができる訴えについては、総会決議取消しの訴え(商法第247条第1項)、株主代表訴訟(商法第267条)、合併無効の訴え(商法第415条)等が考えられるが、なお検討する。
 子会社の管理・監督を含めた親会社の事業全体について、親会社株主は親会社取締役に委任しているのであり、親会社取締役が仮にその任務を懈怠して子会社や子会社取締役に対し訴えを提起しない場合は、当該不作為について、善管注意義務違反として親会社取締役の責任を追及すれば足り、親会社株主の子会社に関する会社法上の訴えを提起することを認めることには反対である。

2-(4)(子会社の株式の譲渡)

(4) 親会社が、その有する重要な子会社の株式の全部を譲渡し、又は他の会社の株式全部を譲り受ける場合には、親会社の株主総会の特別決議を要するものとし、反対の株主には株式買取請求権を認めるべきであるとの意見があるが、どうか(商法第245条から第245条ノ4まで参照)。
(注)
親会社がその有する重要な子会社の株式の一部を譲渡する場合の取扱いについては、なお検討する。
 重要な子会社の株式の全部譲渡および他の会社の株式の全部譲受を、重要な営業の譲渡および他の会社の営業の全部譲受と同視し、親会社の株主総会の特別決議を要するものとし、反対株主に株式買取請求権を認めることは、現行法との整合性から、考慮に値すると考えられる。
 しかし、営業譲渡・譲受と株式の処分・取得とでは、前者が組織変更の一形態であるのに対し、後者が資産たる有価証券の売却・取得という違いがあり、一律に同視することはできない。
 また、株式の処分・取得について、営業譲渡・譲受と同様、株主総会の特別決議を要するとすることは、グループ経営のメリットである機動性を阻害することとなるとともに、国際的に縮小の傾向にある株主総会の権限を拡大することにもなり、上記意見には賛成できない。
 現状において、格別具体的な弊害が生じているとは言えず、今後のグループ経営の進展を踏まえて対応すべきである。
 (注)(重要な子会社株式の一部譲渡)についても、上記の理由から、株主総会の特別決議を必要としたり、反対株主に株式買取請求権を認めることとするべきではない。

3(監査役の子会社に対する権限)

3 親会社の監査役の子会社に対する権限(商法第274条ノ3)を拡大すべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
会計監査人の子会社に対する権限(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第7条第3項及び第4項)についても、拡大する方向で、なお検討する。
 現行法上、親会社監査役は、親会社監査の必要に応じて子会社を調査することが認められており、その権限の範囲で対応が可能である。
 親会社監査役の権限を拡大することは、親会社監査役の責任を拡大することとなるが、実務的には、数多くある子会社全てについて、親会社監査役が監査を行い、その責任を負うことは極めて困難である。
 したがって、親会社監査役の子会社に対する権限を拡大することには反対である。
 会計監査人についても、同様に、権限を拡大する必要はない。

4(子会社の株主の権利)

4 子会社の株主は、親会社に関する一定の権利を行使することができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
 親子会社関係は、現行法の下で、すでに相当数が創設されてきているが、子会社の株主の保護に関し具体的な問題が生じているとは言えない。
 また、そもそも子会社の株主は、直接的にも間接的にも親会社を所有する関係になく、親会社に対する一定の権利を確保する根拠が認められない。
 それにも関わらず、子会社株主の権利を拡大することは、グループ経営によるメリットを減殺することになる。
 したがって、子会社の株主に親会社に関する一定の権利行使を認めることには反対である。

4-(1)(親会社の情報開示)

(1) 子会社の株主は、親会社の情報の閲覧及び謄写又は謄抄本交付請求をすることができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
子会社の株主に開示する親会社の情報については、なお検討する(2(2)(注)1参照)。
 子会社株主が、その株主権の行使や株式の処分等の判断を行うにあたり、親会社の状況を把握することが必要であるとは考えられない。一方、子会社の株主への情報の提供は別法人たる親会社の負担においてなされることとなり、親会社株主の利益を損なうこととなる。したがって、子会社株主に親会社に対する情報開示を請求する権利を与えることには反対である。

4-(2)(親会社等の責任)

(2) 親会社の取締役の子会社に対する行為により子会社に損害が生じた場合には、親会社又はその取締役は、子会社に対し損害賠償責任を負うこととすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. 損害賠償責任の要件については、なお検討する。
  2. 子会社の株主が、親会社又はその取締役に対し株主代表訴訟を提起することができることとすべきかどうかについては、なお検討する。
  3. 子会社が親会社と子会社との利益相反する取引をするには、子会社の取締役会の承認を要することとするかどうかについては、なお検討する(商法第265条参照)。
 親会社が子会社に対して影響力を行使した結果、子会社に損害が生じた場合に、親会社もしくはその取締役の責任を追及することは、現行法においても可能であり、(注3)を含め特段の改正は不要である。

5(監査役の親会社に対する権限)

5 子会社の監査役は、必要があるときは、親会社に対し営業の報告を求め、親会社の業務及び財産の状況を調査することができることとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
会計監査人の親会社に対する権限についても、同様とする方向で、なお検討する。
 子会社の監査役が別法人たる親会社に対し、営業の報告を求め、親会社の業務及び財産の状況を調査することが、子会社の監査にあたって必要であるとは考えられない。親会社との取引状況等の監査については、子会社取締役から聴取することで足りる。
 したがって、子会社監査役に親会社に対する権限を認めることには反対である。
 会計監査人についても、同様に、親会社に対する権限を認める必要はない。


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