「親子会社法制等に関する問題点」に対するコメント

第1編 親子会社法制に関する問題点

第1章 親子会社関係の創設のための手続


1(手続創設の必要性)

1 持株会社の解禁に伴い、既存の会社の一方を子会社とし、他方をその親会社とするための手続及び親会社を創立するための手続を創設すべきであるとの意見があるが、どうか。
 親子会社関係創設の手続としては、現行法上、(1)いわゆる抜殻方式、(2)買収方式、(3)第三者割当増資方式等が考えられるが、いずれの方式についても、手続に時間を要する、債権債務関係を整理するための事務負担が大きい、少数株主が残存する、譲渡益課税・登録免許税等の税制上の負担が大きいといった難点がある。
 したがって、親子会社関係創設のための新たな手続を創設することが強く求められる。

2(株式交換)

2 既存の会社の一方を子会社とし、他方をその親会社とするための手続として、一方の会社の株主が有する当該会社の株式の全部の現物出資により他方の会社が新株を発行する手続(以下「株式交換」という。)を創設すべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. この手続により、他方の会社は、一方の会社のいわゆる100%親会社となり、一方の会社の従来の株主は、他方の会社の株主となる。
  2. 他方の会社は、新株の発行に代えて、一定の自己株式を利用することができる(商法第409条ノ2参照)こととする方向で、なお検討する。
 親子会社関係創設のための新たな手続を、利用しやすく簡明なものとする観点から、株式交換方式を検討することに賛成である。
 また、(注)2で挙げられている「他方の会社は、新株の発行に代えて、一定の自己株式を利用することができる(商法第409条ノ2参照)こととする」ことについては、合併手続に準じて、自己株式を株式交換に利用できるようにすべきである。

2-(1)(株式交換契約書)

(1)  株式交換をするには、株式交換契約書を作成しなければならないこととすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
株式交換契約書に記載すべき事項については、次のような意見があるが、なお検討する。
  1. 他方の会社が株式交換により定款を変更するときは、その規定
  2. 一方の会社の株式の1株当たりの価格及びその合計額
  3. 他方の会社が株式交換に際して発行する新株の総数、額面無額面の別、種類、数及び発行価額並びに一方の会社の株主に対する新株の割当てに関する事項
  4. 他方の会社の増加すべき資本の額及び準備金に関する事項
  5. 一方の会社の株主に支払をすべき金額を定めたときは、その規定
  6. 各会社において株式交換契約書の承認の決議をすべき株主総会の期日
  7. 新株の払込期日
  8. 各会社が株式交換の日までに利益の配当又は商法第293条ノ5第1項の金銭の分配をするときは、その限度額
 株式交換が企業結合の一形態であることを踏まえ、合併に準じ株式交換契約書を作成することとすべきである。
 (注)のbにいう、「一方の会社の一株あたりの価格およびその合計額」は、cおよびdの記載があれば不要であると考えられる。

2-(2)(株主総会の承認)

(2) 株式交換契約書は、株主総会の承認を要することとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
株主総会の決議要件については、なお検討する。
 株式交換は、「一方の会社」の株主にとっては、その保有する株式を現物出資し他の会社の株式の割り当てを受けることとなり、「他方の会社」の株主にとっては、発行済株式総数に占める持株比率の大幅な変動をもたらす可能性が高く、当事会社の株主の利益に影響を与える。
 したがって、株式交換契約書は株主総会の承認を要するものとすべきである。
 また、株式交換は、「他方の会社」による「一方の会社」の吸収合併およびその後の分社化と同様の結果を生ずる。現行法上、合併、分社化ともに、株主総会の特別決議により行うことができることに鑑み、それとの整合性を確保することが適当であるから、株主総会の決議要件は特別決議とすべきであり、利用し易い制度とする観点からも、特別決議を超える要件を課すべきではない。

2-(3)(交換比率の公正確保)

(3)  交換比率の公正を確保するための手続を要することとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
その内容については、交換比率につき専門家による検査を要することとすべきであるとの意見と交換比率の理由書を開示することとすべきであるとの意見とがあり、なお検討する。
 株式交換において株式交換比率の公正の確保が求められるのは、合併において合併比率の公正の確保が求められることと変わるところがなく、合併同様、交換比率の理由書を開示することで足りるものとすべきである。

2-(4)(事前の情報開示)

(4)  取締役は、(2)の株主総会の会日前に所要の書類を本店に備え置き、株主に開示しなければならないこととすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
「所要の書類」については、次のような意見があるが、なお検討する。
  1. 株式交換契約書
  2. 一方の会社の株主に対する新株の割当てに関する事項につき、その理由を記載した書面
  3. (2)の株主総会の会日の前6月内の日において作成した株式交換をする各会社の貸借対照表
  4. cの貸借対照表が最終の貸借対照表でないときは、最終の貸借対照表
  5. 株式交換をする各会社の最終の貸借対照表と共に作成した損益計算書
  6. eの損益計算書のほか、cの貸借対照表と共に損益計算書を作成したときは、その損益計算書
 株式交換を株主が承認するか否かを判断するためには、株式交換の相手方会社の財産状況や交換比率の公正性を判断するための書類の事前開示が必要であり、その際、(注)に挙げられた書類を事前に本店に備え置かなければならないものとすべきである。

2-(5)(反対株主の株式買取請求権)

(5) 株式交換に反対の株主に会社に対する株式買取請求権を認めるべきであるとの意見があるが、どうか。
 株式交換は、反対株主に対しても強制的に効力が及ぶことから、株式交換に反対する株主に対しては、株式買取請求権を認めるべきである。

2-(6)(検査役の調査)

(6) 株式交換をするには、一方の会社の株式が取引所の相場のあるものである場合において、株式交換契約書で定めた価格がその相場を超えないときを除き、検査役の調査を要求すべきであるとの意見があるが、どうか(商法第280条ノ8参照)。
 株式交換の手続において、交換比率の公正を確保するための手続および株主総会の特別決議を要することとし、反対株主の株式買取請求権を認めることを前提とすれば、株式交換は、株主の利益を害することはなく、株主保護の観点から検査役の調査を課す必要はない。
 また、債権者との関係においては、「一方の会社」では、株主が変更するのみであり債権債務関係に変更が生じず、債権者を害することはない。「他方の会社」においても、「一方の会社」の株式が資産として増加するだけであり、交換比率の公正を確保するための手続があれば、債権者を害することはない。
 さらに、株式交換は、いわゆる抜殻方式の弊害を排除するために創設する制度として検討が行われているものであり、検査役の調査を要するとすることはその意義を損なわせ、株式交換制度の機動性を阻害する。
 したがって、検査役による調査は不要とすべきである。
 なお、合併において、検査役の調査が課されていない点にも留意すべきである。

2-(7)(債権者保護手続)

 (7) 株式交換については、債権者保護手続(商法第412条参照)は要しないとの意見があるが、どうか。
 株式交換では、「一方の会社」においては、株主が変更するだけであり債権債務関係に変更が生じず債権者を害することはない。また、「他方の会社」においては、「一方の会社」の株式が資産として増加するだけであり債権者を害することはない。
 したがって、債権者保護手続は不要である。

2-(8)(簡易な株式交換)

(8)  他方の会社について、一定の場合には、株主総会の決議を要しない、簡易な株式交換の手続を設けるべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
「一定の場合」については、他方の会社が交換に際して発行する新株の総数がその会社の発行済株式の総数の一定の割合を超えない場合(商法第413条ノ3参照)等が考えられるが、なお検討する。
 機動的な株式交換を可能とするため、合併同様、「他方の会社」が交換に際して発行する新株の総数がその会社の発行済株式総数の一定比率(少なくとも20分の1以上)を超えない場合には、「他方の会社」において株主総会の決議を要しない簡易な手続を設けるべきである。

2-(9)(株式交換無効の訴え)

(9)  株式交換無効の訴えを認めるべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. 株式交換後における情報開示(商法第414条ノ2参照)の要否については、なお検討する。
  2. 株主に株式交換の差止請求権を認めることの要否については、なお検討する。
 株式交換は、株主等利害関係者の利益に及ぼす影響が大きい可能性もあるため、株式交換の手続に瑕疵がある場合等には、合併同様、利害関係者に株式交換無効の訴えを提起することができることとすべきである。
 株式交換においては、両当事会社が存続することから債権者保護手続は不要となり、合併における事後開示事項である「債権者保護手続の経過」は存在しない。同様に、合併における開示事項である「承継したる財産の価額および債務の額」も、債権債務の包括承継が行われないため存在しない。したがって、株式交換においては、事後的に開示すべき事項が乏しく、事後開示は不要である。
 なお、株式交換は、新株発行と異なり、株主総会の承認を経て行われることから、これに加えて差止請求権を認める必要はない。

3 (親会社の設立)

3 親会社を設立するための手続として、会社が発起人となり、その会社の株主が有する当該会社の株式の全部の現物出資により他の会社を設立する手続を創設すべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
この手続により、他の会社は、会社のいわゆる100%親会社となり、会社の従来の株主は、他の会社の株主となる。
 直接、100%親会社を設立することが可能となることから、「会社が発起人となり、その会社の株主が有する当該会社の株式の全部の現物出資により他の会社を設立する手続」(以下「親会社設立手続」という)を創設すべきである。

3-(1)(株主総会の承認)

(1)  会社が発起人となり、その会社の株主が有する当該会社の株式の全部の現物出資により、他の会社を設立するには、株主総会の承認を要することとすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
  1. 株主総会の承認を要する事項については、株主が有する株式を現物出資することにより他の会社を設立する旨のほか、次のような意見があるが、なお検討する。
    1. 他の会社の定款の規定
    2. 他の会社が設立に際して発行する株式の種類、数及び発行価額並びに会社の株主に対する株式の割当てに関する事項
    3. 他の会社の資本の額及び準備金に関する事項
    4. 会社の株主に支払をすべき金額を定めたときは、その規定
    5. 他の会社を設立すべき時期
    6. 会社が他の会社の設立までに利益の配当又は商法第293条ノ5第1項の金銭の分配をするときは、その限度額
    7. 他の会社の取締役及び監査役の氏名
  2. 株主総会の決議要件については、なお検討する。
 株主の利益に影響を与えることから、「親会社設立手続」では、株式交換同様、株主総会の特別決議による承認を要すこととすべきである。

3-(2)(事前の情報開示)

(2)  取締役は、(1)の株主総会の会日前に所要の書類を本店に備え置き、株主に開示しなければならないこととすべきであるとの意見があるが、どうか。
(注)
「所要の書類」については、2(4)(事前の情報開示)(注)参照。
 親会社設立を株主が承認するか否かを判断するために必要な範囲で、書類の事前開示が必要である。

3-(3)(反対株主の株式買取請求権)

(3)他の会社の設立に反対の株主に会社に対する株式買取請求権を認めるべきであるとの意見があるが、どうか。
 「親会社設立手続」は、反対株主に対しても強制的に効力が及ぶことから、親会社設立に反対する株主に対しては、株式買取請求権を認めるべきである。

(後注)

(後注)
  1. 発起人である会社が他の会社の定款を作成する(商法第165条)。
  2. 検査役は、現物出資に関する事項を調査しなければならない(商法第181条)。
  3. 他の会社は、本店の所在地における設立の登記により成立する(商法第57条)。
  4. 株主、取締役及び監査役は、他の会社の設立無効の訴えを提起することができる(商法第428条)。
  5. 他の会社の設立後における情報開示の要否については、なお検討する。
  6. 創立総会(商法第180条)は不要とし、他の会社の取締役及び監査役は(1)の株主総会において選任する方向で、なお検討する。
  7. 現物出資は発起人に限りすることができること(商法第168条第2項)及び発起人は株式を引き受けなければならないこと(商法第169条。同法第211条ノ2参照)との関係については、なお検討する。
 2にいう、検査役の調査を要するものとすることは、株式交換における2-(6)と同様の理由で反対である。
 また、5にいう、他の会社の情報開示については、合併と異なり債権債務の承継はないため、不要とすべきである。
 6にいう、創立総会については、「他の会社」の取締役及び監査役は、手続承認のための株主総会で選任すればよく、不要とすべきである。
 7については、「親会社設立手続」の特殊性に鑑み、発起人の規定(商法第168条第2項、商法169条、商法第211条ノ2)の特例を設け、規定が適用されないこととすべきである。


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