わが国農業は、担い手の兼業化や高齢化、農地の減少など、総じて見れば、その生産基盤の脆弱化が進んでいる。食料供給という重要な役割を担う産業である農業の基盤が危うくなっている状況に、経済界としても大きな関心と懸念を持っている。経団連では、農業の体質を強化し、競争力の向上を図ることは、国民経済全体にとって重要な課題であるとの認識に基づいて、かねてより農政のあり方について検討を加え、提言を重ねてきた。市場経済の下で、消費者に受け入れられる商品・サービスを提供していくことの必要性は、農業といえども例外ではない。産業としての農業を確立できるよう条件整備を図ることが、農政の基本的役割であると考える。
一方、国際的な大競争時代に突入し、わが国経済は、環境問題の解決に努力しながら、あらゆる分野において効率化や生産性の向上を推進しなければならない。その原動力は、自己責任原則に基づく企業、個人の自助努力、英知の発揮にある。仮に、限られた財政資金を投入するのであれば、その使途は透明な判断の下に、有効かつ効率的に使われる必要があり、農業への再分配もその一環として考慮せざるを得ない。国として農業保護を行うことは、とりもなおさず、国民一人一人が税金等により、そのコストを負うことを意味する。産業政策としての農業振興か、環境保全等の公益的機能を維持する観点からの農業保護かについて、費用対効果や財政事情を十分踏まえながら政策目的を吟味し、その目的の達成に最も適した政策手段が講じられる必要があろう。
ポスト・ウルグアイ・ラウンド交渉を間近に控え、農業分野にも国際化の影響はますます強まってくる。わが国経済の余力があるうちに、産業としての農業の基盤を早く整備しなければ、現在残されている優良農地すら失い、取り返しのつかないことになりかねない。
現在、政府は、総理大臣の諮問機関として、「食料・農業・農村基本問題調査会」(会長:木村尚三郎東京大学名誉教授)を発足させ、1961年に制定された農業基本法の改正を視野に入れて、食料・農業及び農村政策の改革を行うべく、具体的な検討を進めている。経団連は、この機会を農政抜本改革の契機と捉え、農政問題委員会を中心に、食料政策の確立と農政改革の基本的な考え方等について検討を行ってきた。これまでの検討の成果を、今般、提言として公表することとした。