情報公開法要綱案に関する意見

1996年6月14日
(社)経済団体連合会


はじめに

行政改革委員会行政情報公開部会は、4月24日、中間報告として情報公開法要綱案を発表した。
これに先立ち、経団連では、昨年12月、全会員企業を対象としたアンケート調査に基づき、情報提供者等第三者保護を中心とした意見書『行政情報公開に関する意見』を行政改革委員会に建議している。
経団連では、要綱案が公表されたこの機会に、更めてアンケート調査を実施した。調査結果は、要綱案を基本方向において評価するものであったが、企業活動の自由を損なうことがないよう、行政機関が保有する企業情報の公開についてはより掘り下げた検討を求める回答が少なくなかった。そこで、経団連では、前回意見や今回アンケート調査結果を踏まえ、行政情報公開制度の円滑な導入・定着を期す観点から、下記の事項を提言するものである。

  1. 情報公開法制定に関する考え方
  2. 行政情報公開は、行政改革の積年の課題である。また、国際化の進展に伴い海外からも行政情報公開を求める声が高まっている。
    経団連は、行政運営の公開性の向上を図ることにより、行政が国民に対する説明責任を果たすとともに、国民による行政の監視・参加を実現する条件を整備するものとして、情報公開法の制定に賛意を表するものである。

     

  3. 情報公開法要綱案についての基本的な考え方
    1. 今回、公表された要綱案は、行政文書の開示請求者の十全な権利行使、行政機関の円滑・迅速な事務処理、情報提供者等第三者の保護等、多様な要請のいずれについても目配りが行き届いた、均衡のとれた内容のものとなっている。
      とりわけ、下記の四点は高く評価される。

      • 第一は、行政文書の開示を請求する権利を国民の権利として実定法上初めて明確に定めた点である。
      • 第二は、開示請求権を国民に限らず外国人にも認めた点である。
      • 第三は、開示、不開示の判断基準を明示した点である。
      • 第四は、開示請求に対する決定に関し、開示請求者、情報提供者等第三者が不服申立てを行えることを明らかにし、また不服申立てについて調査審議するため処分庁・審査庁から独立した不服審査会を新設することにした点である。

    2. 経団連では、先に行政改革委員会に提出した『行政情報公開に関する意見』において、要綱案の作成に当たっての要望事項を挙げたが、その関連において下記の二点を評価したい。

      • 第一は、行政の有する企業情報のうち、企業秘密に該当するものを不開示情報とした点である。要綱案の第6(不開示情報)2号の規定は、企業秘密をほぼカバーするものとなっている。
      • 第二は、情報提供者等第三者保護につき、事前手続き、行政不服審査に関する規定を整備した点である。

    3. 経団連としては、上記(1〜2項)の理由から、要綱案を評価しており、行政改革委員会が基本的に本要綱案に沿って最終報告を取りまとめられること要望する。

  4. 最終報告作成に当たって考慮していただきたい事項
    1. 国会、裁判所及び地方公共団体に関する情報の取扱いの明確化

      要綱案第6(不開示情報)の注では、国会、裁判所及び地方公共団体に関する情報の取扱いについては引き続き検討するとされている。三権分立の原理、地方自治の本旨から見て、これら情報の開示は、本来それぞれ国会、裁判所および地方公共団体が一義的に決定すべきことと考えられ、その方向で検討が進められることを要望する。
      その際、機関委任事務に係わる情報については、全国的な公平性、統一性が確保されるよう地方公共団体が必要な施策を講じることを第26(地方公共団体の情報公開)で規定することを要望する。

    2. 公益上の理由の明確化

      要綱案第7(公益上の理由による開示)では、第6の2号から6号までに掲げる不開示情報についても、これらの規定により保護される利益に優越する公益上の理由があると認められる時は開示できるとされている。しかし、ここで想定されている公益は明確でなく、最終報告においては、これを例示等により明らかにすることを要望する。
      少なくとも、第6の2号に掲げる情報については、同号ただし書において比較衡量により開示される場合が明示されており、これに加え第7の公益衡量の対象とすべきではない。

    3. 第三者保護のための手続の強化

      要綱案第6第2号では、開示することにより競争上の地位、財産権その他正当な利益を害するおそれがある企業情報又は公にしないとの約束の下に任意に提供され、現に公にされていない企業情報は不開示情報とされている。しかし、具体的にどのような情報がこれに該当するか行政機関と企業の判断は必ずしも一致しないと考えられる。とりわけ、統計法、統計報告調整法を除き行政調査に係わる手続について通則的規定が未整備なわが国においては、過去に提供された情報について、「公にしないとの約束」の存否を確認することは一般に困難であると予想される。
      したがって、企業情報については、第13(第三者保護のための手続)第1項による第三者からの意見聴取を、運用として可能な限り行うべきことを、最終報告で付言されることを要望する。

    4. 関係法律との調整

      要綱案第28(関係法律との調整)では、関係法律の規定との間で必要な調整を行うとされている。経団連としては、先の意見書で要望した通り、他法令により行政機関による開示が禁じられている情報、行政機関が有するものであっても他法令において保護されている企業情報については不開示とすることを要望する。

      

  5. 行政情報公開制度の導入に関連する課題
    1. 現行の行政調査の手続は行政情報公開制度を予定したものではない。行政調査の相手方には、調査理由や調査結果の公表の可能性の有無について一般的には告知されていない。しかも、行政指導が多用される行政スタイルの下では、相手方は、情報提供が任意か義務的なものか確認することも困難な状況にあるのが実態である。
      行政情報公開制度法の導入を機に、行政調査の相手方に少なくとも任意提供・義務的提供の別、調査結果の公開可能性の有無等を事前に告知するとともに、企業等の調査対象に対し公にしないとの約束の下に情報提供を求める際には約束の存在を証する方法について規定する等を内容とする行政調査手続に関する通則的規定を早急に整備することを要望する。

    2. 情報公開法は、公正で民主的な行政運営を実現する上での条件整備に過ぎない。第三次臨時行政改革推進審議会の『公正・透明な行政手続法制の整備に関する答申』(91年12月)でも指摘されているように、行政部内において政令や省令等を制定するに当たっての手続(行政立法手続)等について通則的な規定が未整備である。特に行政立法手続の整備は、規制緩和の関連で海外からも求められているところであり、一般的な制度を整備することを要望する。

おわりに

上記においては、専ら第三者保護の観点から、企業情報について述べたが、企業も社会的存在として、社会の理解と信頼を確かなものとする観点から、自らの責任と判断において情報開示に積極的に取り組むべきであることは言うまでもない。経団連では、先に発表した『新日本創造プログラム2010(アクション21)』で「企業としても、行政とのもたれ合いを排除するとともに、適時適切な経営情報の開示を行う」との方針を打ち出しており、企業行動や商慣行の見直しの一環として企業情報の適切な開示を会員に呼びかけていく。

以 上


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