行政情報公開に関する意見
1995年12月25日
社団法人 経済団体連合会
副会長
行政改革推進委員長
今井 敬
はじめに
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行政改革委員会では、行政情報公開部会を設置し、行政機関の保有する情報を公開するための法律の制定等に関する事項について調査審議を進めている。企業は行政情報の利用者であるとともに行政機関への情報提供者であり、行政情報公開は企業活動にさまざまな影響を及ぼすと見通される。そこで、経団連では、本年11月に全会員を対象とし、行政情報公開に関する意見要望についてアンケート調査を実施した。調査結果は、概ね行政情報公開の制度化を評価するものであったが、企業活動の自由を損なうことがないよう、行政機関が保有する企業情報について慎重な取扱いを求める意見がほぼ全ての回答企業・団体から寄せられた。行政情報公開制度の円滑な導入・定着を図るためには、このような不安を払拭する必要があると考えられる。そのような観点から、経団連として、下記の事項を要望するものである。
なお、経団連では、来春に予定されている行政改革委員会行政情報公開部会の中間報告を踏まえ、さらに検討を深め、具体的な意見を表明する予定である。
- 基本的な考え方
行政情報公開は、既に第二次臨時行政調査会の最終答申(83年3月)でその必要性が指摘されており、行政改革の積年の課題である。また、国際化の進展に伴い、海外からも行政情報公開を求める声が高まってきている。
経団連は、行政運営における透明性の一層の向上を図るとともに、監視や参加を通じて公正で民主的な行政運営を実現する条件を整備する観点から、開示請求権に基づく一般的な行政情報公開制度の導入に賛意を表するものである。
- 行政情報公開制度導入の検討に当たって考慮していただきたい点
- 公正で民主的な行政運営を実現するには、行政情報は原則として公開すべきであるが、同時に、個人・企業を問わず情報提供者や利害関係者等の第三者保護の仕組みを整備する必要がある。とりわけ、企業情報については、以下の点も考慮し、企業活動の自由を損なうことがないような仕組みを確立する必要がある。
- 統計法、統計報告調整法以外には、行政調査手続に関する通則的規定が整備されておらず、調査対象となる企業は、調査理由や調査結果の公表の可能性の有無について一般的には告知されていない。しかも、行政指導が多用される行政スタイルの下では、調査対象の企業は、情報提供が任意か義務的なものか確認することも困難な状況にあるのが実態である。
- 民法、商法、刑法等の一般法による保護を措くと、専ら企業情報の保護を目的とした制度は不正競争防止法に限られる。しかし、同法の保護する「営業秘密」は、公表することにより企業の正当な利益を害するおそれがある企業情報(企業秘密)を十分に包含しているとは言いがたい。
- 企業には、商法、証券取引法等により情報開示義務が課せられている。これら制度についてはそれぞれ開示が適切とされる情報の範囲、開示の条件・方法等について定められており、判例の蓄積もある。今般、導入が検討されている行政情報公開制度と既存のこれら制度の関係は、現時点では明らかでない。
- 経団連としては、行政改革委員会行政情報公開部会の中間報告をまって具体的な提案を行う予定であるが、とりあえず、企業情報の保護に関する以下の仕組み等について検討が行われることを強く要望する。
- 行政調査手続の改善
行政調査の調査対象となる企業に、少なくとも任意提供・義務的提供の別、調査結果の公開可能性の有無等を事前に告知することを要望する。また、国・地方公共団体に対し行政機関の内部情報としてのみ使用し、他には秘密にするという約束で任意に情報を提供する制度(非公開特約)の導入についても検討することが望まれる。
- 企業秘密の不開示情報化等
第一に、行政機関が保有する企業情報の内、公表することにより、企業の競争上の地位、財産権、その他正当な利益(社会的評価・信用、適正な内部管理等)を害するおそれがあるものについては不開示情報とすることを要望する。
第二に、公表することにより行政機関が将来にわたり必要な情報の提供を得られなくなるおそれがある企業情報、上記「非公開特約」が附されている等公表すれば信義則違反となるおそれがある企業情報については同じく不開示情報とすることを要望する。
第三に、基本的に不開示情報であるにもかかわらず、公益衡量により開示される企業情報の要件を厳格に限定することを要望する。
- 情報提供者等第三者保護のための救済制度等の確立
行政情報の開示決定は処分であり、事後的な国家賠償請求等以外に、情報提供者等第三者保護のための制度を整備する必要がある。
第一に、事前手続の段階で、適正手続確保の観点から、処分に先立って関係する情報提供者等第三者に聴聞の機会を付与するとともに、聴聞を行う期日までに相当な期間をおいて予定される処分に関する事項を当該第三者に告知することを要望する。
第二に、行政争訟の段階で、情報提供者等第三者の権利・利益の簡易迅速な救済のため、行政上の不服申立てに道を開くことを要望する。この点について、行政手続法では、聴聞を経た処分については、異議申立てをすることができないとされているが、審査請求は可能である。情報公開問題研究会中間報告(90年9月)では、開示拒否処分について公正な審査を確保するため、独立の裁決機関等の設置について言及しており、第三者の審査請求の申し立て先として、同機関の活用を図ることも検討に値する。なお、情報公開の性格上、原状回復は困難であり、第三者から申立てがあった場合には、開示決定を原則執行停止とすることを要望する。
第三に、司法救済についても、行政事件訴訟法上、取消訴訟の提起及び執行停止の申立てそのものは開示決定の執行停止の効果を持たず、また執行停止についても厳格な要件があることから、開示差止訴訟についての新たな規定の整備を含め見直しを検討することが望まれる。併せて、原告適格の範囲や裁判の非公開の問題についても検討することを望む。
- 他法令との整合性の確保
行政情報公開制度の導入にかかわらず、他法令において行政機関による開示が禁じられている情報、行政機関が保有するものであっても他法令において保護されている企業情報は不開示とすることを要望する。併せて、既に他法令によって企業に開示義務が課せられている情報については、行政情報公開においても、他法令の運用実態を最大限尊重し、開示・不開示の決定をすることを望む。
- 今後の課題
- 現行の行政調査手続は行政情報公開を予定したものではない。この機に、行政情報公開の制度化を前提とした行政調査手続に関する通則的規定を早急に整備することを要望する。
併せて、申請・届出・報告等に係わる国民負担の軽減、規制緩和の推進の観点から、民間委託調査を含め行政調査全般について必要性を見直すとともに、申請・届出における書類を必要最低限とすることを要望する。
- 行政情報公開制度は、公正で民主的な行政運営を実現する上での条件整備に過ぎない。第三次臨時行政改革推進審議会の『公正・透明な行政手続法制の整備に関する答申』(91年12月)でも指摘されているように、行政部内において政令や省令等を制定するに当たっての手続(行政立法手続)等について通則的な規定が未整備である。特に行政立法手続の整備は、規制緩和の関連で海外からも求められているところであり、一般的な制度を整備することを要望する。
おわりに
- 上記においては、専ら第三者保護の観点から、企業情報について述べたが、企業も社会的存在として、社会の理解と信頼を確かなものとする観点から、自らの責任と判断において情報開示に積極的に取り組むべきであることは言うまでもない。経団連では、従前より推進してきている企業行動や商慣行の見直しの一環として企業情報の適切な開示を会員に呼びかけていく所存である。
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