「地球温暖化対策の基本法の制定に向けたメッセージ」に対する意見

2009年12月28日
(社)日本経済団体連合会
環境安全委員会
地球環境部会

地球温暖化問題は、人類全体が実効ある対策を長期に講じていかなければならない課題であり、日本経団連ではかねてより、全ての主要国が参加する公平かつ実効的なポスト京都議定書の国際枠組みの必要性を訴えてきた。わが国の国内政策は、このような国際枠組みの下、環境、経済ならびにエネルギー安全保障のバランスを確保しつつ、わが国の強みである技術力を活かして、世界の温暖化防止への長期的な貢献を促進するようなものでなければならない。産業界としても、(1)国内の企業活動における2020年までの削減目標の設定、(2)消費者、顧客、従業員、地域住民等の主体間連携の強化、(3)国際貢献、(4)革新的技術開発 を推進していく決意の下、さる12月15日に「低炭素社会実行計画」を発表したところである。

このような観点から下記の通り、「地球温暖化対策の基本法の制定に向けたメッセージ」に対する意見を述べる。新規立法においては、以下の諸点をまず十分議論し、その考え方を明確化したうえで、必要性を含め検討を行うべきと考える。

1.わが国の中期目標について

中期目標の設定にあたっては、国際的公平性、実現可能性、国民負担レベルの妥当性が確保される必要がある。鳩山総理は、わが国が中期目標を国際約束する前提として、「全ての主要国による公平かつ実効性ある国際枠組みの構築と意欲的な目標の合意の必要性」を強調され、日本経団連としてもこのような考え方を強く支持する。激しい国際競争に晒されている産業界にとって、特に、国際的公平性の確保は極めて重要であり、わが国だけが過大な負担を負うことのないようにする必要がある。少なくとも米国やEU等の先進国間については、限界削減費用・国民負担が同等となるようにすべきである。また、政府は、客観的・科学的分析に基づき、具体的な削減策と国民負担を国民に対して説明する必要がある。

2.グリーン・イノベーションの推進について

日本経団連では、京都議定書の採択に先駆け、1997年に環境自主行動計画を策定し、産業・エネルギー転換部門を中心に国内のCO2削減に努めてきた。産業界のこのような努力は、日本発の数多くの低炭素技術として結実するなど、大きな成果をあげている。

今後も、わが国産業界は、世界の温室効果ガス排出量の2050年半減のため、世界最高水準の低炭素技術の開発・実用化を積極的に推進し、環境と経済が調和する低炭素社会の実現に向け世界をリードしていく決意である。

政府が推進するグリーン・イノベーションは、環境・資源・エネルギー技術を用いた新産業創出、革新的技術の研究開発の加速等を図るものと高く評価しており、産業界としても協力していきたい。今後、政府において、技術の開発・普及の担い手である企業の活力を涵養し、十分に発揮できる環境が整備されることを強く期待する。

3.国内排出量取引制度および地球温暖化対策税の導入等について

国内政策は目標達成のための手段にすぎない。京都議定書上のわが国の目標は京都議定書目標達成計画に定められた政策により十分に達成可能と思われることから、京都議定書の現約束期間における排出量取引制度や地球温暖化対策税等の導入は不要である。特に、産業・エネルギー転換部門の対策については、現在の自主行動計画が十分に機能していることに留意すべきである。

ポスト京都議定書の中期目標達成のための国内政策については、新たな国際枠組み、ならびに、わが国が国際公約する中期目標が決定された後に、公平性、効率性の観点を含め、総合的に検討し、決定するのが妥当である。

産業界は、新たな実行計画を策定し、利用可能な世界最高水準の技術を最大限導入し、世界最高水準のエネルギー効率、技術を開発する決意であるが、排出量取引制度や地球温暖化対策税については、基本的に、大きなエネルギーコストの負担増になるとともに、企業活力を削ぎ、経済や雇用、ひいては国民生活に悪影響を及ぼす。また、技術開発や設備投資に必要な原資を企業から奪うのみならず、生産効率の劣る海外にシフトし地球規模での排出量を増加させるなど、地球温暖化防止に逆行するおそれがあることから、極めて慎重に検討すべきである。

排出量取引制度については、技術的に削減可能な水準を上回る厳しいキャップをかけられた場合、海外等からクレジットを購入せざるを得ず、その結果、技術開発に必要な原資が流出するおそれがあることに留意する必要がある。

さらに、政府においては、排出量取引制度や地球温暖化対策税の他、再生可能エネルギーの全量買取制度の導入についても検討されているが、これらは互いに独立した議論が行われている。この点、エネルギー価格の上昇等を招くこれらの政策が全体として国民負担や雇用等に与える影響を踏まえる必要がある。

なお、事業者による自らの排出量情報等の提供の促進については、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく算定・報告・公表制度が既に存在することを踏まえ、事業者への負担や経営への影響等を十分考慮して検討すべきである。

4.途上国支援について

わが国産業界は、アジア太平洋パートナーシップ(APP)をはじめとする、途上国支援の具体的な経験を活かし、「鳩山イニシアティブ」に積極的に協力する所存であり、このような産業界の取組みに対する政府の理解と支援を期待する。

以上

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