日・EU経済統合協定交渉の開始を求める

-日・EU EPAに関する第三次提言-

2009年11月17日
(社)日本経済団体連合会

日・EU経済統合協定交渉の開始を求める
-日・EU EPAに関する第三次提言-
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最悪期を脱したとはいえ、厳しい局面が続く見通しのわが国経済にとって、自由な貿易・投資環境を確保し世界経済のダイナミズムを取り込むことは自律的な回復と成長に不可欠である。人口減少時代にあって、将来、その重要性はますます高まるものと考えられる。こうした観点から、世界最大の単一市場であり、わが国にとって米国、中国に次ぐ輸出先であって、米国に次ぐ直接投資先、最大の直接投資元であるEUとの経済関係を強化することは喫緊の課題である。

日本経団連では、EU・韓国自由貿易協定(FTA)交渉開始直後の2007年6月に第一次提言「日EU経済連携協定(EPA)に関する共同研究の開始を求める」 #1 を取りまとめ公表、以来、関係各方面にEUとのEPAの実現を働きかけてきた。本年4月には、第二次提言「日・EU経済統合の実現を目指して」 #2 を取りまとめ、貿易障壁の削減・撤廃にとどまらず、制度・ルールの改善・調和を通じてEUとの経済統合を深めるよう提言したところである。

EUとは民主主義や法の支配といった基本的な価値観を共有しており、それを基盤として重層的・包括的な関係強化に取り組むことは経済統合をも促すことになろう。

1.急がれる日・EU経済統合強化のための枠組み作り

第二次提言後、本年5月にチェコで行われた日・EU首脳協議において、双方の首脳が、日・EU経済関係が世界の繁栄にとって極めて重要であることを再確認するとともに、世界経済の現状に鑑み、開放的な経済を維持するために率先して努力するとした上で、日・EU経済関係の潜在的可能性を活用するために、日・EU経済の統合の強化に向けて、いくつかの特定の非関税案件に焦点を当てて取り組み、来年の首脳協議までに進捗をレビューする旨合意したことは望ましい方向への適切な第一歩である。この上は、限られた時間の中ではあるが、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就祓羆痲元痰綉御険繙羈娯⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩が期待され、その解決が日・EU経済関係の促進に効果がある案件を早急に選定する必要がある。しかしながら、首脳協議から半年を経てもなお、具体的な案件は決定されていないのが現状である。

一方、2007年5月に開始されたEU・韓国FTA交渉は、さる10月15日、仮署名に至り、来年中にも発効する見込みとなっている。わが国企業はEU市場において韓国企業との厳しい競争に既に晒されているが、EU・韓国FTA発効の暁には、韓国からEUへの輸出は、自動車、電気機械類を中心に128億ユーロ増加するとの分析 #3 が示唆するように、わが国企業は韓国企業に比べ競争上極めて不利な状況に置かれるものと予想される。例えば、乗用車に関しては、現行10%の関税が韓国車については遅くとも協定施行5年後にはゼロとなるのに対し、日本車については現行関税が維持されることになり、現地生産車も含めて価格競争力の深刻な低下をもたらす。エレクトロニクス製品については、品目により関税率が異なるが、EU・韓国FTAの施行の結果生じる韓国製品との最大14%の関税格差の影響は甚大である #4

また、関税が撤廃されることにより、韓国企業は、関税分類の恣意的な変更の影響から解放され、製品の開発・設計等の自由を確保するのに対し、日本企業は、技術革新によって複合的な機能を持つ製品の開発が可能となったとしても、関税分類の変更によって高関税を課される恐れがあるため、開発自体を躊躇せざるを得ない。なお、高関税を維持することによって日本からの投資を呼び込もうとの思惑が一部の加盟国にあるように聞くが、関税によって市場を閉ざすことは、EU域外からの部品調達コスト増などを通じて現地生産にも支障を及ぼすことになることから、少なくとも中長期的には投資誘致にあたってもプラスにはならないと考えられる。

EUとの経済関係の新たな枠組み作りがこれ以上遅れるならば、わが国産業の国際競争力に深刻な影響を及ぼすことになる。EU・韓国FTAの発効を控えて日・EU経済統合強化のための取り組みを加速することが不可欠である。

2.新たな枠組みとしての「日・EU経済統合協定」

以上の問題意識から、今般、これまでの提言を踏まえ、関税・非関税双方の障壁を引下げることによって経済統合を強化するための枠組みを「経済統合協定」として、そのアウトラインを提示することとした。わが国政府ならびに欧州委員会およびEU加盟各国においては、来年の首脳協議後、できる限り速やかに経済統合協定の交渉を開始できるよう、準備を進めるべきである。

協定の取りまとめにあたっては、(1)グローバル競争において他国企業に劣後しない事業環境を確保すること、(2)関税以外の障壁をも引下げることによって、経済的に国境のない環境を整備すること、(3)貿易のみならず、投資、サービス、知的財産、反競争的行為、政府調達など経済関係を包括的にカバーすることによって、透明性の高い自由で安定的な事業環境を実現すること、(4)原産地証明方式、電子商取引を含めて日・スイスEPAと同等、またはそれを上回る、先進国同士に相応しい内容を盛り込むこと、(5)継続的協議メカニズムとして各種小委員会を設置し中長期的視点に立って経済統合の強化とそれを通じた日・EU双方の構造改革の促進に取り組む体制を整えること、が重要である。

後掲する協定のアウトラインは、以上のような観点から、日・EU経済関係の将来にとって望ましいと考える事項を盛り込んだものであるが、協定に盛り込まれるべき事項はそれらに限定される訳ではない。本提言が契機となって各方面で議論が行われ、包括的で先進国同士に相応しい協定を実現すべく、交渉開始に向けた動きが活発化することを期待する。とりわけ、真に互恵的な内容とするため、EU側からの提案を大いに促したい。その結果、政治・社会・文化面の関係強化との相乗効果を得るべく、2011年に終了する「日・EU協力のための行動計画」に続く次期計画の中核に、この経済統合協定が位置づけられることを要望する。

3.わが国の通商戦略と日・EU経済関係

わが国は、多国間におけるWTOドーハ・ラウンドの早期妥結と地域・二国間におけるEPA等の締結とを自由な貿易・投資を促進する車の両輪として推進している。この基本的な方針を着実に実行することは、EUとの関係においても重要である。

まず、WTOドーハ・ラウンドについては、150以上の国々の関税を一度に引下げることができるのは、多国間交渉の利点であり、今日まで8年近くに及ぶラウンゼ�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就扱翫桶換慣温概癌⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩を尊重し、早期妥結に向けて日・EUが協力すべきである。現在交渉中の関税削減方式を前提とすれば、EUの二桁関税も4~5%に引下げられることが想定されるなどラウンドの妥結は日・EU経済関係の緊密化にとっても重要である。

一方、これまでわが国が締結したEPAの相手はアジアを中心に11カ国・地域であるが、それら国・地域がわが国の貿易額に占める割合は2割に満たないのが現状である。グローバルに広がる企業のサプライチェーンを支える制度インフラとして十分な機能を発揮するためには、その拡大とネットワーク化が必要である。声�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就号矜痺盥矜箟粭皹籵甼⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩エンジンと期待されるアジアにおいて、経済共同体をも視野に入れて地域経済統合の実現を目指すのもその一つである。その際、域外、とりわけ、わが国の投資残高、貿易総額において上位を占める米国、EUにも開かれたものとしなければならない。その意味でも、わが国としては、日米EPAと並んでEUとの経済統合協定の締結を積極的に推進する必要がある。EUにとっても、日本との協定は、成長性に富むアジアとの繋がりを深め、アジアにおいて法の支配の下で国際ルールに則った安定的なビジネス環境を実現する上で有益なツールとなり得るものと考えられる。

さらに、EUとの間に国境のない事業環境を実現するためには、EU加盟各国との租税条約および社会保障協定の改正・締結を推進し、投資所得(配当、利子、ロイヤルティ)に対する源泉地国課税の減免や海外駐在員の社会保険料の二重負担の解消などを実現する必要がある。

【経済統合協定のアウトライン】

物品貿易

[鉱工業品]
[農産品]
[貿易に関する規律]
[原産地規則]

税関手続・貿易円滑化

衛生植物検疫措置

規格・適合性評価手続

サービス貿易

自然人の移動

電子商取引等

投資

競争

知的財産

政府調達

経済統合の強化

紛争解決

協定の運営

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/050.html
  2. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/037/index.html
  3. 128億ユーロのうち約41%(約52億ユーロ)は乗用車を含む自動車分野での輸出増、約14%(約18億ユーロ)が電気機械類の輸出増。"Economic Impact of a Potential Free Trade Agreement Between the European Union and South Korea" (Short study by Copenhagen Economics & Prof. J. F. Francois (March 2007)
  4. EU・韓国FTAでは、例えば、EU側は、自動車部品(4.5%)は即時、乗用車〔1500㏄超の中・大型車〕(10%)は3年以内、乗用車〔1500㏄以下の小型車〕(10%)は5年以内、カラーテレビ(14%)、ビデオレコーダー(14%)は5年以内に撤廃。韓国側は、自動車部品(8%)は即時、カラーテレビ(8%)、複写機(8%)は即時、乗用車〔1500㏄超の中・大型車〕(8%)は3年以内、乗用車〔1500㏄以下の小型車〕(8%)は5年以内に撤廃。
  5. EU・韓国FTAでは、アンチダンピングに関し、lesser duty rule(税率を必要最小限に)の義務化、アンチダンピング調査開始15日前の通知、措置終了後1年間の調査開始禁止等を規定。セーフガードの存続期間は関税撤廃から10年間。発動期間は2年間、2年の延長可能等。
  6. 2008年2月発効。双方の税関当局が、それぞれの関税法令を適正に執行し、優良な事業者に対する税関手続の簡素化・調和化を含む貿易円滑化措置および効果的な水際取締りを実現する観点から、情報交換を含む相互支援等を行うための法的な枠組みを提供するもの。
  7. 「平成20年度日・EU規制改革対話 日本側対EU提案書」によれば、日本は、EU有機食品認証統一基準について、2001年3月に有機農産物の日本農林規格(有機JAS規格)との同等性を承認。一方、有機JAS規格のEU有機食品認証統一基準との同等性については、EUは一つの技術的課題以外の点で有機JAS規格の同等性が確認できたことから、日本での現地視察を実施する段階に進むことができると回答。
  8. 2002年1月発効。日欧間貿易に携わる企業の負担を軽減することを通じて両者間の貿易を促進することを目的とし、輸出入時に輸入国において必要な一定の手続を輸出国において実施することを可能にするための枠組みを定めるもの。現在、(1)電気通信機器、 (2)電気製品、 (3)化学品GLP、 (4)医薬品GMP の4分野を対象。
  9. ICH(The International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)において合意された臨床試験実施基準
  10. なお、日本政府は「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(平成19年4月26日、同20年・21年一部改定)において、2011年度までに新薬の上市までの期間を2.5年短縮するとの目標を設定。
  11. なお、厚生労働省は「医療機器の審査迅速化アクションプログラム」(平成20年12月11日)において、2013年度までに新医療機器の承認までの期間を19カ月短縮するとの目標を設定。
  12. 欧州地域における加盟国間での貿易を円滑化すると同時に、産業水準を統一化するために制定。加盟国は、EUの専門委員会であるCEN(欧州標準化委員会)やCENELEC(欧州電気標準化委員会)が発行するENの内容について各国の規格に反映させ、矛盾する国家規格があれば、それを撤廃する義務あり。
  13. EU地域に販売される指定製品に貼付を義務付けられる安全マーク。EU指令の必須安全要求事項に適合していることを示すもの。CEマークのある製品は、EU域内の販売・流通が自由。
  14. 具体的には、従来航空自由化の対象外となっている首都圏空港を自由化の対象とするとともに、羽田空港の国際化を推進し、全時間帯において就航都市、輸送量を自由化。
  15. リスボン条約が発効すれば、EUが海外直接投資に係る権限を排他的に有することになるものと想定(EUの権限に関する条約第3条第1項及び第207条第1項)。他方、これまでEU加盟国は投資保護に関する権限を有し、第三国との間で投資保護に関する二国間協定を締結してきたことから、投資保護に関する権限が実体的に如何に扱われるかは、今後の動向を注視していくことが必要。
  16. 日本経団連「平成22年度税制改正に関する提言」(2009年10月2日)において、タックスヘイブン対策税制の見直しについて次のとおり提言。
    「諸外国の法人実効税率の動向を踏まえ、現行のタックスヘイブン対策税制の基準を20%未満に引き下げるべきである。また、納税者の予見可能性確保や事務負担軽減の観点から、一定条件を満たす国・地域に所在する子会社についてタックスヘイブン対策税制の対象外とするホワイトリストを導入すべきである。」
  17. 反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定。2003年8月発効。競争当局間の協力および調整を促進することを通じて、競争法の効果的な執行に寄与するとともに、その適用にあたって両者の間に紛争が生じる可能性を回避または軽減することが目的。
  18. EU著作権指令(2001年)があるものの、加盟国によって制度・運用が異なるのが現状。例えば、英国、アイルランド、ルクセンブルク、キプロス、マルタは制度自体なし。
  19. スイスとのEPAでは、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)で規定される範囲の保護に加え、関連する表示について現行の法令の範囲内でできる限りの保護を及ぼすことを確認。
  20. 2004年7月に発効したEU理事会規則(1383/2003)は、欧州地域の税関における模倣品・海賊版の水際取締りの効率的かつ低コストな実施に資するものであるが、英国、イタリア、フィンランド等一部の加盟国では、それに加えて独自の水際対策を行っており、申請者にとって二重の負担となっているところ。

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