近年、湾岸協力会議(GCC)の加盟各国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、オマーン、バーレーン)が目覚ましい経済発展を遂げる中、わが国からGCC諸国への輸出が増大しており、現地における日本製品の市場規模の維持、拡大を制度面から支える必要性が増している。また、わが国からGCC諸国へのサービスの提供、投資も拡大している。直接投資や現地に拠点を設置した上でのサービスの提供の推進は、わが国企業のみならず、産業の多角化、技術移転や雇用の確保を目指すGCC諸国の利益に直結するため、早急な環境整備が求められる。
投資・ビジネス環境の整備を通じ、日系企業の現地での活動を支援する観点から、2005年9月、われわれは「日GCC経済連携協定の早期交渉開始を求める」を公表し、(1)わが国が歴史的に友好関係を築いてきたGCC諸国との外交関係の強化、(2)わが国企業のGCC諸国における活動の推進などの観点から、日GCC経済連携協定の締結が不可欠であると提言した。
これを受け、2006年4月、小泉総理大臣(当時)とサウジアラビアのスルタン皇太子による共同声明において、日GCC自由貿易協定(FTA)交渉の開始に対する歓迎の意が表明され、同年9月の第1回正式交渉を皮切りに、これまで正式交渉が計2回、非公式中間会合が計4回行われてきた。しかし、残念ながら、交渉妥結の見通しは依然として立たないままである。一方、GCC諸国は主要国との自由貿易協定交渉を積極的に進めている。わが国としては、GCC諸国との間で自由貿易協定などの枠組み整備が遅れることによる機会費用を回避することが喫緊の課題となっている。
そこで、あらためて政府に対し、下記の経済界の関心事項を踏まえつつ、迅速かつ着実に交渉を進め、日GCC自由貿易協定を早期に締結することを強く求める次第である。
GCC諸国は域外国に対し、例外品目を除き、一律5%の共通関税を適用しており、その結果、GCC諸国が第三国と自由貿易協定を締結した場合、わが国のGCC諸国への市場アクセスは相対的に不利な状況に置かれる。こうした事態を回避するためにも、日GCC自由貿易協定を早期に締結し、関税を即時または漸次撤廃していくことが非常に重要である。特に、WTO協定との整合的な自由貿易協定とするためには、わが国のGCC向け輸出の半分以上を占める自動車、自動車部品、トラックなどの輸送機器を含む「実質上すべての貿易における関税撤廃」(「1994年のGATT」第24条8項b)が必要であることに留意すべきである。
このほか、国によっては、(1)免税措置があっても、審査に時間がかかるうえ、審査を経て正式に免税が認められるまでの間に関税デポジットを求められるため、運転資金が圧迫される、(2)当該国への輸出に際し、独自の品質基準や国際的な安全基準に加えての独自の規格への対応が求められ、検査に多くの工数を要するなどの障害が指摘されている。これらをはじめとする非関税障壁を解消し、貿易手続きの簡素化、円滑化を実現すべきである。
サービス貿易については、現在、WTOドーハラウンドにおいて各国の約束表の深堀りに関する交渉が行われている。日GCC自由貿易協定において、わが国ならびにGCC諸国がドーハラウンド交渉におけるオファーを上回る自由化約束を行うことはもとより、WTO整合性を確保すべく、「相当な範囲の分野を対象とすること」(「サービス貿易一般協定」(GATS)第5条1項a)が求められる。
また、現状では、GCC諸国において、国ごとに程度の差はあるものの、(1)外資制限があり、外国人投資家は出資比率の過半をとれない、(2)現地人雇用義務があるにも関わらず、現地で適切な人材を確保することが困難であることなど、現地拠点でのサービス提供(GATS第3モード)に関する障壁が少なからず指摘されており、その撤廃、緩和を求めるべきである。
さらに、市場アクセスが改善されたとしても、国内規制に係る問題が残る場合、事実上の障壁となる。例えば、(1)サービス提供のための拠点設置に際して現地のスポンサーが必要であり、多額のスポンサーフィーを支払わざるを得ない、(2)外国人の土地所有が制限される、などの点の改善が求められる。
投資についても、現地に拠点を設置して企業活動を行うという点で、上述の拠点を設置した上でのサービス提供と本質的に問題点は同じである。
わが国企業の自由な事業活動を確保するために、(1)石油化学、電力、水、環境など、わが国の技術が強みを発揮できる分野を自由化の対象に含めること、(2)外資制限、過度な現地人雇用義務などの市場アクセスに係る障害を撤廃・緩和すること、(3)外国人投資家の活動を妨げる国内規制を撤廃すること、が不可欠である。
サービス貿易、投資の自由化を推進する上では、並行して人の移動に関する制限を緩和し、外国人材、すなわち企業内転勤者や弁護士など契約ベースで業務を行う者が、GCC各国において自由に活動できるよう担保することが重要である。
現状では、現地人雇用義務との関連で、外国人に対する就労ビザ・滞在許可証の発給が制限される事例が多数指摘されている。サービス貿易、投資について自由化を約束した分野については、併せて、人の移動についても自由化が検討されるべきである。また、就労ビザ・滞在許可証などの取得に際し、現地のスポンサーが必要とされるなどの国内規制上の問題点についても併せて改善すべきである。
GCC諸国との貿易投資関係を促進する上では、現地に進出した外国企業に対して、(1)内国民待遇、最恵国待遇、公正衡平待遇、収用の際の補償、争乱からの保護、資金移転の自由のほか、(2)投資家対国家紛争が生じた場合に国際的に受け入れられた法の一般原則に基づく第三者仲裁への付託が保証されることが重要である。
日GCC自由貿易協定交渉では、GCC諸国側の意向を尊重して、物品貿易、サービス貿易、投資の自由化を対象とし、投資の保護については別途各国とそれぞれ交渉することとされている。進出企業に対する投資財産の保護と紛争が起きた場合の衡平な解決が確保されるよう、投資保護協定についても並行して交渉を加速することが求められる。
また、進出企業に対する二重課税の防止や、税制上のインセンティブの確保を目的に、GCC各国との租税条約を締結することも不可欠である。