日本経団連では、かねてより、たゆまぬ技術開発や省エネ投資により世界最高のエネルギー効率を維持・向上させるとともに、地球規模での温暖化防止に貢献していくという信念の下、京都議定書の採択に先駆けて、環境自主行動計画を策定する等、自ら積極的に行動してきた。京都議定書の第一約束期間はもとより、ポスト京都議定書の下でも、こうした信念の下、引き続き地球温暖化阻止に取り組んでいく。
ポスト京都議定書の新たな国際枠組については、実効ある地球温暖化対策推進の観点から数次にわたり提言をとりまとめてきた。直近では、本年4月に「京都議定書後の地球温暖化に関する国際枠組構築に向けて」を発表し、全ての主要排出国が参加しやすく、環境と経済が両立し得る国際枠組を構築すべき旨を提言した。同提言については、本年6月に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007」に掲げられた (1)全ての主要排出国の参加、(2)各国の事情に配慮した柔軟で多様な枠組、(3)環境と経瑳�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就痰聲繧元繙慌⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩の両立というポスト京都議定書の国際枠組に関する「3原則」と軌を一にしている。
ポスト京都議定書の地球温暖化問題に関する国際枠組については、本年6月に開催されたG8ハイリゲンダム・サミットの首脳宣言において、2008年末までに主要国が合意し、2009年末を目処に交渉を妥結することが必要であるとされた。また、本年9月には、米国の主催により、2008年末までの主要国間での合意を目指す「気候変動に関する主要経済国会合」の第1回会合が開催された。今後、本年末のバリにおけるCOP13、わが国が議長国を務める来年7月のG8洞爺湖サミットなど、様々な国際会議の場でポスト京都議定書の国際枠組について議論がなされていくこととなる。
こうした状況を踏まえ、日本経団連では、ポスト京都議定書の地球温暖化防止のための国際枠組について、従来の考え方をさらに具体化し、日本政府が示した「3原則」の実現を図る観点から、以下の通り提言する。
地球温暖化は人類生存の基盤に関わる最も重要な問題のひとつであり、全世界が一丸となって、実効ある対策を長期にわたり講じていくことが必要である。しかしながら、京都議定書の下で排出削減義務を負う国のCO2排出総量は世界全体の30%程度にしか過ぎず、その割合は2025年には24%にまで低下すると予想されている #1。
地球温暖化防止を確実なものとするためには、全ての国が能力に応じた責任を果たす必要がある。とりわけ、現在京都議定書に参加していない米国や削減義務を負っていない中国、インドをはじめとする全ての主要排出国が参加し、積極的に温暖化対策を講ずることが重要である。
多くの国・地域が温暖化対策への取組を表明しているが、一方で、画一的な対策が経済成長、地域開発や雇用確保等に及ぼす悪影響を懸念しているのも事実であり、この点に十分配慮しなければならない。
また、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに半減するという目標を達成する上で最大の鍵は技術である。したがって、短中期的にセクトラル・アプローチ #2 や資金・技術支援等を通じて途上国における省エネ技術の向上などを図るとともに、長期的視点から革新的技術の開発に向けた産官学の取組の強化、さらには新たな生活様式を通じた低炭素社会の実現が不可欠である。
こうした観点から、日本経団連は、ポスト京都議定書の国際枠組に関し、全ての主要排出国が参加できる実効あるものとして、各国が自らの国際公約に基づいて、多様性・柔軟性や環境と経済の両立を確保しつつ、温暖化対策を前進させていくこととするとともに、その公約の中に盛り込まれるべき政策の柱として、
を提案する。
全ての主要排出国が参加し得る実効ある地球温暖化対策として、Plan-Do-Check-Action (PDCA)のマネジメント手法に倣い、各国が温暖化防止対策を自ら決定の上、国際的に公約し、その実施状況を一定期間ごとに国連の場 #3 等でチェックし前進させていくことが有効である #4。
この手法は、人口、産業構造、エネルギー資源の賦存状況、地理的条件等を十分考慮しないままトップダウンで政治的に設定される国別キャップとは異なり、各国によるボトムアップでの公約に基づくものであるため、各国の特性や事情に応じた責任分担と具体的取組みが可能である。また、公約の進捗や排出総量の推移のモニタリング等によりPDCAサイクルを廻すことで、UNFCCCのような強制執行力を伴わないスキームの下でも温暖化防止策の着実な前進を担保することができる。
各国が公約する温暖化防止策としては温室効果ガスの排出削減と吸収の双方が考えられるが、排出削減に関しては、エネルギー効率の目標やこれを達成するための規制・税制等の措置、非効率設備の早期更新を促す措置、エネルギー転換促進措置、エネルギーの効率的利用・温室効果ガス排出抑制に逆行する補助金の削減等が挙げられる。他方、吸収については、森林回復等に関する措置が考えられる。このほか、後述の(1)セクトラル・アプローチに関する措置、(2)志ある途上国に対する資金・技術支援に関する措置、(3)革新的技術開発の推進に関する措置も対象となり得る。
また、省エネや温室効果ガスの排出削減のためには、各企業が温暖化対策として効果のある手法や製品・サービスの開発・提供・購入等を推進し、それらがユーザーや社会から評価、選択・利用され、付加価値や企業価値を生むという本来の意味の市場メカニズムを活性化させることが重要である。したがって、財・サービス市場において製品のライフサイクルを通じた環境負荷の少なさ、例えば省エネ製品の開発や調達・利用が消費者から評価されることを促進する措置 #5 も公約の対象となり得る。
各国の設定目標はエネルギー効率を基本とする。エネルギー効率は、技術革新や途上国への技術纂�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就号禧痳羝矜箟粭皹痲箜⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩がそのまま反映されるなど、自助努力を評価するのに優れた指標であり、技術合理性をふまえつつ温暖化防止策のPDCAサイクルを着実に廻していくという観点から有用である。また、エネルギー効率は、限られた資源をより有効に活用するための指標にほかならず、エネルギー安全保障やコスト削減に直接係わりがあり、さらには、経瑳�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就碓官軌喝鬼温⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩との両立を達成しうることから、主要排出国の本格的な取組を促す上で有益である。
温室効果ガスの総量削減に際しては、エネルギー効率の改善が不可欠である。例えば、日本経団連の「環境自主行動計画」は、2005年度に産業・エネルギー転換部門において、生産活動が10.1%増加する中で総排出量が-0.6%(1990年度比)を記録するなど、エネルギー効率の改善を通じ2000年度より6年連続で総量削減目標を達成している #6。また、火力発電の効率がわが国並になった場合、世界全体で年間17億t-CO2の排出削減が達成される、あるいは、鉄鋼生産における廃熱回収、連続鋳造技術がわが国並になった場合、世界全体で年間3億t-CO2の排出削減が可能であるとの試算もある。日本政府が説明するように「世界全体の排出量の2050年半減」は、現在の技術開発や社会システムの延長線上だけでは達成できず、長期的な観点から革新的な技術開発を推進し、社会システムを低炭素型に転換しなければならない。換言すれば、総量削減に当っては、エネルギー効率の目標を設定し、各国の経瑳齔瘤�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就禪更幻絛吾羆⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤召篌匆顱�唆塙渋い諒儔修亡陲鼎�輓霧�未靴鯡世蕕�砲靴疹紊嚢盡﨓─δ礇灰好箸離┘優襯�軸慙�蚕僂魍��垢襪箸いκ餝臈�淵轡淵螢���廚任△襦J擦擦董⊃靴燭弊験萢夕阿鯆未犬震雲検Χ般撹�腓砲�韻覦豼悗稜喀从鏝困�垈跳腓任△襪海箸聾世鯰悗燭覆ぁ�
なお、各国が公約に基づき対策を前進させる際、自ら温室効果ガスの総排出量の削減目標を掲げることを妨げない。
1. 定期的なチェックによる前進
各国の公約の実施・達成状況については、数年ごとに国連等の場でチェックし、進捗が見られない場合には、その事情を説明・分析し、今後の対策を決定するものとする。履行の一層の確保のために、主要排出国については、特に頻度の高いチェックを行うことも考えられる。なお、目標に係る成果の確認には正確なデータが必要であり、国際エネルギー機関(IEA)等の活用により各国・各地域における客観的データ把握の仕組みの整備が望まれる。
2. 主要排出国の間での交渉による前進
新枠組開始時の公約の内容は主要排出国の間での交渉の対象とし、結果を随時公約の内容に反映させていく。交渉の方法については、例えば、WTOサービス貿易交渉に倣って、リクエスト・オファーの交換 #7 を採用することが考えられる。
ポスト京都議定書の国際枠組では、上述のとおり、セクトラル・アプローチを導入すべきである。セクトラル・アプローチに関してはAPP #8 において、電力、鉄鋼、セメント等8セクターを対象に、(1)ノウハウやBAT #9 の共有、(2)共通のベンチマーク #10 の設定、(3)ベンチマーク到達に向けた技術協力のあり方等が検討され、経験が蓄積されている。世界全体では、現在APPが対象としている8セクターのCO2排出量が総排出量の57%程度を占め #11、これにグローバルな産業セクターを追加することでカバレッジをさらに拡大することが可能である。なお、セクターの追加に際しては、比較可能なデータが整備され、客観的な評価が可能な業種に焦点を当てることが特に有効であるといえよう。各参加国は、セクターにおける取決め事項について責任もって実施すべく、それぞれの政策措置等、例えば先進国は、(1)革新的技術の開発への取組、(2)途上国に対する技術支援、(3)製品のエネルギー効率の向上等について公約し、他方途上国は、(1)上記の先進国からの技術支援を活用したプロジェクトの実施、(2)国内におけるエネルギー効率改善策等について公約することが考えられる。(セクトラル・アプローチの具体例については「別紙1」を参照)
また、APPにおける取組に加え、「グレンイーグルス行動計画」 #12 を踏まえて現在IEAで行われている、産業別エネルギー効率指標の策定・活用に向けた作業を産業界としても支持していく。
実効的に温室効果ガスを削減していく上では、ポスト京都議定書の国際枠組の中に、エネルギー効率の向上などに積極的に取組む「志のある途上国」に対して効果的に資金や技術を提供するメカニズムを取り込む必要がある。
現在、京都メカニズムに基づきCDM #13 が実施されており、オフセット(わが国の場合「環境自主行動計画」の目標達成等を目的としたクレジット取得)の面で一定の役割を果たしている。一方でCDMに対しては、以下のような問題点も指摘されている。
したがって、志ある途上国に対する資金・技術支援メカニズムについて抜本的に見直す必要がある。その際重要なことは、エネルギー効率改善や燃料転換等のための技術支援による実効ある排出削減であり、これを促すための、民間資金と公的資金のベストミックスが不可欠である。
2005年に民間セクターが京都議定書の附属書I国以外の国・地域に対して行なった対外直接投資の総額は約4125億ドルであったのに対し、公的資金による投資額は約827億ドル(政府開発援助約202億ドルを含む)に過ぎない #14 ことからも明らかなとおり、民間セクターの参画なくして途上国における低炭素プロジェクトは推進され得ない。しかし、途上国においては投資に関する環境が十分に整備されているとはいえないケースもあり、以下のような障害が指摘されている。
したがって、これらの障害を取り除くための政策や公的なリスクヘッジ機能の強化が不可欠であり、こうした措置がとられれば、民間企業においても、温暖化対策に係る公約(例えばエネルギー効率の改善)を実行する途上国に対して、低炭素プロジェクトへの投資等を行なうことが可能となる。
また、民間セクターは、途上国の低炭素型・省エネ型商品の購入、ならびに温室効果ガス削減に熱心な企業への協賛等の形で、途上国における温暖化対策に協力することができる。民間セクターが途上国の温暖化対策を促す商品購入・投資等に関する自主的基準を設定することも考えられる。
途上国への支援のためには炭素価格 #15 が不可欠という意見もあるが、途上国をはじめエネルギー効率が低い国・地域が非常に多く、低炭素化投資の大半は炭素に値段がつかなくとも経済的釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就竊繧鹸御絮険⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩�垢襪里�他陲任△� #16。それにも拘らず投資が進まないのは、上述のような障害の存在が主要因であり、これを取り除くことが最優先課題であると考える。また、CO2排出に係る外部性を内部化する政策には様々な選択肢が存在し、炭素市場はその一つにすぎず、これに大きく依存した制度設計をする合理性があるとはいい難い。
政府開発援助や世界銀行をはじめとする国際機関の資金等、公的資金については、ポスト京都議定書の国際枠組において自ら温暖化対策に取組む途上国のために重点的に活用すべきである。エネルギー効率の改善のための技術支援、低炭素プロジェクト推進の基礎となるインフラの整備等のほか、人材育成や投資・知的財産保護法制の整備等のソフトインフラの強化のために充てることで、「民間資金の呼び水」として機能させることが求められる。また、支援にあたっては、上述のセクトラル・アプローチと連携を図っていくことが重要である。
このほか、途上国の地球温暖化への適応、森林破壊対策等に必要な資金についても、採算性の面で民間が拠出することが困難な場合が多いと考えられ、基本的には公的に賄うべきである。なお、途上国の地球温暖化への適応に関して民間セクターは技術供与の面で貢献しうる #17。
上述のとおり、現在の技術や社会システムの延長線では2050年に世界全体の温室効果ガスを半減させることは不可能であり、技術的なブレークスルーが不可欠である。例えば、水素エネルギー、次世代原子力、次世代高効率太陽光発電、クリーン・コール技術等の革新的技術の開発に向けた取組の強化が求められるが、これらの技術については、基礎的な研究から開発・実用化・普及までに長い期間と巨額の費用を要し、個別の企業・産業のみで行なうには限界があるため、産学官はもとより、国際的にも連携を強化していく必要がある。環境・エネルギー分野において世界トップレベルの水準にあるわが国は、国際的連携をリードし、世界全体での温室効果ガスの大幅削減に向け、積極的に貢献すべきである。現在、重点的に取組むべき革新的なエネルギー技術開発の内容や国際連携のあり方等に関して「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」が検討されており、産業界としても、積極的に協力していく。
日本経団連では、京都議定書の策定に先立って、1997年からCO2排出量削減のための「環境自主行動計画」を策定し、地球温暖化防止に取組んでおり、上述の通り着実に実績を挙げている #18。
日本経団連は、ポスト京都議定書の枠組の下でも引き続き、自主行動計画を軸に地球温暖化対策に積極的に取組む。具体的には、わが国社会や地球全体へ貢献すべく、中期的には、(1)世界最高水準のエネルギー効率の維持・向上、(2)産業間連携や製品での削減、(3)民生・運輸部門における削減、(4)地球規模での削減への貢献を、長期的には、(5)革新的技術開発とそのための国際連携のあり方の検討等を推進し、また、こうした自主的な取組を世界の産業界に働きかけていく。
温暖化問題を解決するのは技術であり、技術開発と実用化・普及を行うのも、それを国際的に広めるのも、そのために必要な投資リスクを背負うのも、民間セクターである。したがって、新たな国際枠組においては、「民間の活力を鼓舞する枠組」を目指すべきである。とりわけ環境負荷の低い製品・サービスがユーザーや社会から評価され、付加価値や企業価値を生むという、本来の意味での市場メカニズムを機能させること、換言すれば、排出を削減することに社会的な価値が見出され、これが引き金となって省エネが進展することが重要である。こうした観点から、排出量取引制度については弊害が多く、EUETS(欧州排出量取引制度)においても様々な問題が指摘されていることから、産業界の取組みが実績を上げている日本においては導入すべきではない。
途上国を含む各国政府は、今後、自由かつ公正な競争環境の確保、省エネ法・基準の整備、民間の技術開発への支援、低CO2製品・サービスの利用等を推進することはもとより、低炭素社会の実現に向け、国民への啓発活動に一層力を入れる必要がある。地球規模で政府、産業界、国民の努力が噛み合ってはじめて実効ある地球温暖化対策が進展するであろう。
日本経団連では、国際交渉の動向を踏まえつつ、今後とも民間セクターの観点から具体的方策について提言していく。
個別企業等に対して排出枠を割り当て、これを超えて排出する場合は他の企業から排出枠を購入する排出枠設定・取引制度については以下の弊害がある。
なお、世界的な排出枠取引市場が形成されつつある中、金融的側面から乗り遅れないよう、制度を整備すべきであるとの指摘もあるが、本来の目的である温室効果ガスの削減を金融取引の問題と混同すべきではない。
次に、化石燃料を輸入する主体に輸入した化石燃料に含まれる炭素含有量と同量の排出枠を国内外から購入するよう義務付ける「上流還元型排出量取引」についても以下の弊害が指摘できる。