今後の海洋政策のあり方と海洋基本計画策定へ向けて

2007年10月16日
(社)日本経済団体連合会

1.海洋基本法に基づく新たな海洋政策への期待

四方を海に囲まれたわが国は、歴史的に海から豊かな恩恵を受けてきた。資源・エネルギーおよび水産資源の確保、環境問題の解決、ライフラインの維持、安全保障など海洋の持つ重要性は、今日において益々高まっている。わが国は国土面積の12倍、世界第6位の広大な排他的経済水域(EEZ)等を有効に活用しながら、将来にわたって海洋との共生関係を強化していかなければならない。海洋の有効活用には、科学的知見、開発利用技術、インフラ、そして何よりも競争力のある海洋産業が不可欠であり、官民が一体となってその全体的な底上げを図る必要がある。
政治の強いリーダーシップにより本年4mail protected])$7$?3$MN4pK¥K!!J0J2

2.海洋基本計画に対する要望

(1) 海洋基本計画策定の基本方針

日本経団連が2000年6月に取りまとめた提言「21世紀の海洋のグランドデザイン」では、200海里水域の総合的な開発・利用・保全計画の策定の必要性を指摘した。基本計画においては、今後のわが国の海洋開発利用に関する明確な国家戦略に基づくグランドデザインと、これを実現するための具体的プロジェクトについて、縦割りを是正し本格的に推進するためのロードマップを示すことが強く期待される。また、基本計画はおおむね5年毎に見直すことになっているが、情勢の変化に応じて適宜、弾力的な見直しを図るべきである。
基本法第16条では、「政府は、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、海洋に関する基本的な計画を定めなければならない」となっているが、基本計画は、各省庁が進めてきた施策を単にそのまま寄せ集めたり、積み上げたりしただけのものであってはならない。総合海洋政策本部は産学等の関係者からの意見を十分踏まえつつ、強力なリーダーシップにより施策の相互連携を図ったうえで各プロジェクトの明確な優先順位付けを行い、今後の具体的なロードマップを明らかにするとともに、必要な財源の確保や優先順位に応じた予算配分が実現されるよう万全の措置を講じるべきである。
また、海洋権益や安全保障の確保、国際協力や国際貢献の推進等の課題に対し、国家が一丸となって取り組むための前提として、教育・啓発活動の強化を通じ、国民の海洋に対する理解を深めるためにあらゆる努力をすべきである。
同時に、わが国が権益を主張できる海域を最大限確保するとともに、これを有効に開発利用できる環境を、政府が責任を持って整備することを要望する。

(2) 海洋産業の振興と国際競争力の強化

基本法第5条で「海洋産業の健全な発展」が理念として謳われ、基本的施策の一つとして第24条に「海洋産業の振興及び国際競争力の強化」が掲げられていることは大いに評価できる。第24条では「国は、海洋産業の振興及びその国際競争力の強化を図るため、海洋産業に関し、先端的な研究開発の推進、技術の高度化、人材の育成及び確保、競争条件の整備等による経営基盤の強化及び新たな事業の開拓その他の必要な措置を講ずるものとする」と規定しており、その具体的な方策を基本計画に盛り込むべきである。
海洋産業は、海運、造船、水産、資源開発、土木、環境保全、安全・防災、レジャー、調査・観測をはじめ多岐にわたっており、海洋産業の活性化は、他産業への波及効果も大きく、わが国の経済社会の発展、国民生活の向上等に大きく貢献するものである。政府は、海洋産業の振興と国際競争力強化を基本計画の重要な柱の一つとすべきであり、特に、中長期的視点に立った高度な技術開発基盤の構築や、トン数標準税制等の税制支援措置の導入、鉱物資源や水産資源等の確保などが重要である。あわせて、海洋における企業活動の安心・安全確保のため、近隣諸国との紛争防止等の環境整備を強化していく必要がある。

(3) 国家プロジェクト、国際的大規模プロジェクトの推進

日本経団連では、2005年11月の提言「海洋開発推進のための重要課題について」のなかで、第3期科学技術基本計画の策定に関連して、政府が今後進めるべき具体的な海洋関連プロジェクトを提案し、国家基幹技術や戦略重点科学技術として実現した。今回の基本計画においては、とりわけ以下の取組みを重点的に推進すべきである。

  1. 1. わが国管轄水域の総合的調査と取得データの一元的管理
    「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)に基づく200海里を超える大陸棚延伸のためには、大陸棚の地形・地質に関するデータ等、大陸棚の限界に関する情報をまとめ、2009年5月までに国連「大陸棚の限界に関する委員会」に報告することが必要である。期限内に手続が完了するよう、政府は必要な措置を確実に実施する必要がある。
    また、わが国が権益を主張できるEEZおよび大陸棚の資源ポテンシャルを把握するため、鉱物資源の埋蔵位置や賦存量、生物資源の分布等の徹底的な調査を国家プロジェクトとして実施し、基礎データの蓄積・管理を行うとともに、関係省庁や産業界等の関係者と共有を図り、有効に活用できるようにすべきである。

  2. 2. わが国管轄水域における洋上基地の構築と活用
    わが国のEEZおよび大陸棚の開発・利用・保全の推進、産業基盤の構築や人材育成、研究開発能力の向上等を包括的に実現するため、わが国の管轄水域内に洋上基地を構築し、そこを拠点として資源・エネルギー開発、食料生産、海洋観測、防災関係等のプロジェクトを総合的に実施すべきである。

  3. 3. 国際連携の強化・国際協調の推進
    統合国際深海掘削計画(IODP)等、諸外国との連携による大規模プロジェクトを推進し、海外の優れた技術やノウハウも活用してわが国の技術水準向上に努めるとともに、海洋に関する国際的な秩序形成および発展のために先導的な役割を担うことが重要である。

リードタイムが長く巨額の資金を必要とする海洋開発は、政府の積極的な関与なしに実行できない。政府は、第3期科学技術基本計画で目標とされている5年間で総額25兆円規模の政府研究開発投資を確実に実現するとともに、宇宙と並びフロンティア分野の重要な一翼を担う海洋の総合的施策の推進に必要な予算の確保に努めるべきである。

3.今後の政策推進に向けて

基本法第29条にあるように、総合海洋政策本部は「海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため」に設置されたものである。また、衆議院および参議院の基本法案の審議過程において、基本計画の策定及び諸施策の推進に当たっては、総合海洋政策本部に海洋に関する幅広い分野の有識者から構成される会議を設置し、その意見を反映させる旨が決議された。政府はこれらの趣旨を踏まえ、産学等の関係者の意見を広く聴取しつつ海洋政策を推進していくべきである。
新たに設置された参与会議の果たすべき役割は重大であるが、現在のメンバーは研究者が中心であり、海洋の開発・利用・保全を担う重要プレーヤーである産業界の意見が政策に反映されにくい体制となっている。政府は、わが国の海洋政策の策定にあたって、産業界をはじめとする様々な関係者と連携し、総合的な議論を展開すべきである。

基本法の制定は、わが国が海洋国家として新たな時代を切り開く契機となるものである。政府は基本法制定の精神に則り、省庁の縦割りを排してトップダウンで施策を推進するとともに、海洋立国の基盤である海洋産業が自由に活動し、競争力と活力を維持できるよう、体制の整備を進めるべきである。

以上

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