「観光立国推進体制に関する考え(中間とりまとめ)」概要 <PDF>
「観光立国」とは、魅力的な生活空間を創造することで国内外からの集客を確保し、これが地域の経済社会の活性化につながるという好循環をつくりだすことである。また、海外からの旅行客を受け入れることは、草の根レベルも含めた相互理解を促進し、国際政治や外交の面にも重要な影響を及ぼす。さらに、観光は、単に旅行業や宿泊業のみならず、広汎な分野の産業と密接な関連があり、その経済効果は極めて大きい。
こうした観点から、日本経団連では、「国際観光立国に関する提言」(2005年6月)、「観光立国基本法の制定に向けて」(2006年3月)を発表するなど、かねてより魅力ある国づくりを通じた訪日外国人旅行者増大に向けた具体的施策の推進と関連法制度の整備を求めてきた。
この間、政府においても、観光立国関係閣僚会議による観光立国行動計画の策定やビジット・ジャパン・キャンペーンをはじめとする取り組みが進められ、大きな成果をあげている。また、本年9月に発足した安倍新内閣は「美しい国、日本」を理念として掲げ、道州制の導入を含む構造改革に取り組む考えを明らかにしているが、地域単位の観光立国の推進はまさにその契機となる。さらに対外的側面に目を向けると、観光立国は人的交流の拡大を通じた東アジア経済連携の基盤強化に貢献するという点で、同内閣が掲げる「アジアゲートウェイ構想」と軌を一にする。こうした点に鑑み、観光立国は「国家百年の計」として重要な国家戦略に位置付けられるべきであり、長期的視野の下、地域や民間の創意工夫の発揮を踏まえた施策が総合的・効率的かつ迅速に展開されることが肝要である。
日本経団連では、政府・与野党の動きも踏まえつつ、観光立国に係る諸施策の企画立案・実施を担う体制のあり方について検討を重ね、今般、以下の考えを中間的に取りまとめた。
観光立国の実現には、政治的リーダーシップの発揮が不可欠である。
第1に、議員立法により観光立国推進基本法案が国会に上程されたことを評価したい。同法案は観光立国に向けた諸政策の企画立案・実施を法的に裏付けるものであり、その早期成立を求める。また、今後は同法に基づいて基本計画が策定され、具体的な施策が着実に実施されることが重要である。その際には、観光立国に向けた課題を即座に対応すべきものと中長期的に成果をあげるものとに分けた工程表を作成し、優先順位の高い施策から実施していくべきである。
第2に、観光立国には国土交通省をはじめ、ほとんど全ての省庁が関与していることから、政府内の総合調整機能の充実を図るべきである。
第3に、国際空港の整備、ビザ問題やCIQの改善、主要道路の整備、ICTを活用した情報提供の基盤整備、わが国発の国際会議の開催のほか、広い意味での国際的な信頼の昭�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就患恰圧金旭潟⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩、観光立国の根幹に係る優先的課題についても、引続き強力な政治的リーダーシップの下で迅速に推進すべきである。
政府内の推進体制については、国土交通省の観光担当部門の6課体制への改編、関係他省庁との人事交流等を通じて、政策立案・実施機能が一層強化されたものと評価する。また、地方運輸局レベルでも観光担当部門を強化する動きがあり、これにより国と自治体との連携も推進されるものと期待する。今後とも観光立国の推進に向けて、責任体制の明確化、政策の説明責任の履行、事前・事後の政策評価実施等を徹底し、省庁間の一層の連携をはかりつつ、施策の企画・立案機能を強化していくことが不可欠である。
また将来的には、観光立国推進のために行政組織を再編することも考えられるが、その際は、タテ割り行政の弊害を是正し、行政の効率化を図ることを前提に、各省庁にわたる観光関連行政部署の企画・立案機能を整理統合する方向で検討されるべきである。
【表1】観光立国施策実現に必要な機能 |
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【表2】関連諸施策の例 |
(国土交通省総合政策局)
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政府機関が進める国際観光プロモーションについては、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)実施本部が発足し、2010年に訪日外国人旅行者数1000万人を達成すべく、国別マーケティング戦略、企業との連携による現地でのプロモーション活動等に取り組んでいる。また、国際観光振興機構(JNTO)が、在外公館との連携による広告活動、わが国への国際会議・コンベンションの誘致等を実施している。人材・資金を有効かつ効率的に活用し、国際観光プロモーションを一層効果的に展開すべく、VJC実施本部とJNTOの更なる連携が期待される。また、政治的リーダーシップの下、将来的には、VJC実施本部が有する予算・ノウハウ、JNTOの長年に亘る海外での経験等、それぞれの長所を活かす形で体制を一本化し、機能強化を図る必要がある。例えば、フランスでは政府以外の資金拠出が過半を占める形で1987年にMaison de la Franceが設立され、企業や地域の観光局等と連携して国内外へのプロモーション活動が展開されている。行政との密接な連携の下、民間のノウハウを活かした効果的なプロモーション活動を行っている事例として、わが国にとっても参考となり得る。
魅力ある国・地域づくりという観点からは、観光立国に向けた地方自治体の主体的な役割も欠かせない。特に、地方自治体は、地域資源を掘り起こし、地域の魅力を総合的に体験できるプログラムの企画・実施のほか、地域の総合的なプロデューサー的人材の育成、旅行客を受け入れる住民の「もてなしの心」の醸成、景観整備・街づくり等に取り組むべきである。
また、こうした課題に効率的に取り組むためには、政府同様、地方自治体内部でも観光担当部門を明確にした上で、商工労働、街づくり、農村振興、人的交流等の担当部署が相互に連携を図るべきである。
同時に、地域における官民連携・広域連携の推進も重要である。例えば、2005年4月に各県と民間企業がそれぞれ資金と人材を提供して発足した「九州観光推進機構」では、「4つの政策と49の施策」を掲げ、地域全体として効果が発揮される事業を優先して取り組んでいる。また、2003年5月発足の「東北広域観光推進協議会」でも同地域の行政、経済連合会等が参画し、国際観光プロモーション等を実施している。このようなブロック単位の活動の展開は、道州制の導入の契機ともなり得るものであり、わが国における抜本的な行政改革の推進という観点からも積極的に推進されるべきである。このほか、県、観光協会、JA、NPOが一体となって観光振興を効果的に進めている地域もある。地方自治体は、こうした成功事例も参考にしながら、政府施策との整合性を確保しつつ、近隣自治体との連携を進めるとともに民間のニーズやアイディアを取り入れ、必要な施策を展開すべきである。
観光立国を実現するための方策として、産官学が連携して取り組むべき課題は多岐にわたるが、当面、人材育成と研究開発を推進する必要がある。
このうち、人材育成については、地域の総合プロデューサー、経営やマーケティングに関する高度の専門知識を有する人材を育成できるかどうかが重要な鍵となる。現在、各地域の大学で観光学部・学科の質的・量的充実が図られつつあるほか、産学共同研究や寄附講座の開設等も進捗しているが、今後は大学院商学研究科等の経営・マーケティング専攻コースで観光分野のケーススタディを導入するなどの取り組みも求められよう。
また、大学・大学院の履修課程に観光関連企業での実務研修を取り入れ、大学教育と企業ニーズとのマッチングを図るスキームを構築すべきである。例えば、当会観光委員会が2005年10月に行った欧州調査の結果、フランスで観光学部の履修課程に企業での実務研修が組み込まれており、修了者の7割強が研修先にそのまま就職している例があることが明らかになっており、わが国もこうした仕組みを参考にすべきである。
研究開発の推進については、ICTを活用した情報提供システムの開発等、観光から派生する産業の振興に産官学連携で取り組む必要がある。具体的には、自動言語翻訳機能の開発のほか、日本の魅力や滞在に必要な情報を全世界に伝える「地域住民・旅行者参加型」の大規模ポータルサイトの構築等が挙げられる。その際、所轄省庁間の連携を密にし、わが国全体として効率的かつ総合的なシステムを構築する必要があることは言を俟たない。
観光立国の実現には、政府、地方自治体、政府機関による総合的かつ効率的な政策立案・実施に加え、何よりも民間部門が創意工夫を重ね独自のアイディアを具体的事業として展開することが重要である。
例えば、民間事業者には、観光・集客事業の展開、観光商品・サービスの提供ならびにその質の向上、観光資源の掘り起こしはもとより、工場や企業博物館の見学を中心とした産業観光の推進、韓国や中国の旅行業界との連携による北東アジア観光ゾーン形成といった形で、わが国の観光立国に向けた取り組みにおいて重要な役割を果たすことが求められる。また上述の通り、民間企業は、大学における寄附講座への講師派遣、企業における実務研修の受入、観光から派生する産業の振興、研究開発等の面でも貢献し得る。加えて、地域の住民やNPOには、訪問者に対するホスピタリティの提供、草の根レベルでの人的交流の推進等の面で、引続き重要な役割を果たしていくことが期待されるほか、各地域においては、経済団体に広域連携の推進役・調整役としての役割が期待される。
日本経団連としては、引続き魅力ある国・都市・地域づくりやわが国産業の国際競争力強化、北東アジア域内の経済連携強化の観点から、各地経済界とも連携しつつ、「国家百年の計」に必要な施策、その推進体制のあり方等についてさらに検討を加え、関係方面に働きかけていきたい。