[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]
提言
観光立国基本法の制定に向けて
2006年3月22日
(社)日本経済団体連合会
日本経団連では、「21世紀のわが国観光のあり方に関する提言」(2000年10月)において、観光立国に係る産業界の考えを網羅的に提示したほか、「国際観光立国に関する提言」(2005年6月)では、訪日外国人旅行者の増大に向けた諸政策に焦点を当てるなど、かねてより観光立国推進の必要性を主張してきた。
現在、議員立法により、「観光基本法」を見直すべく検討が行われている。そこで日本経団連では、この機会を捉え、上記提言の内容に基いて、「観光立国基本法」の制定に向けた提言を行うこととした。
「魅力ある国づくり」、人口減少社会を迎える中での交流人口拡大を通じた「産業・地域の活性化」、国民の草の根レベルでの「国際的な相互理解」の推進等、観光立国の意義は現行の「観光基本法」制定当初と比べて大きく変貌している。また、観光立国を実現するための施策も、外国人旅行者の来訪促進、国民の観光旅行の推進はもとより、ソフト・ハード両面におけるインフラ整備、新たな集客資源の開発、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就厳皸邃盂箒皸禧齋畊祺聽禝⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩心瑤墨砲襦�海里茲Δ蔽罎如�儻��颪鬚錣�颪旅餡叛鑪�箸靴動銘屬鼎院�洩穎�箸砲茲訖篆並寮�鮴鞍�掘�靄楫弉茲鮑�蠅両紂�綣造房損椶靴討い�海箸�△い浹瓩瓩蕕譴討い襦�
こうした観点からみて、現行の「観光基本法」には以下のような問題がある。
(1)観光立国の理念・目的が今日的課題に十分対応できていない
(2)責務規程が不十分なため、観光立国が国家戦略として認識されにくい
(3)観光立国実現のための基本計画の策定について明文化されていない
(4)観光立国の推進体制が確立していない
本提言は、「観光基本法」の見直しを契機にこれを改廃し、新たに「観光立国基本法」を制定すべく、その構成と論点を例示するものである。
- 前文
- 第一章 総則
- 1.目的・理念規程
- 2.責務に関する規程
(1)国の責務
(2)地方公共団体の責務
(3)民間事業者の責務
(4)国民の責務
- 3.法令上の措置に関する規程
- 4.年次報告に関する規程
- 第二章 観光立国基本計画等
- 1.観光立国基本計画
- 2.地方公共団体の地域づくり計画
- 第三章 基本的施策
- 1.外国人旅行者の来訪の促進
(1)出入国に関する措置の改善
(2)海外における観光宣伝活動
(3)外国人旅行者への対応・情報提供
- 2.国民の観光旅行の推進
(1)ユニバーサル・ツーリズムの推進
(2)国民の休暇取得促進
- 3.観光インフラの整備
(1)観光に携わる高度専門家の育成
(2)観光基盤施設等の整備
(3)観光統計の整備
- 4.観光資源の保護・育成・開発
(1)持続可能な観光の実現
(2)新たな集客資源の開発
- 5.国土の美化・景観整備
- 6.観光旅行の安全確保
- 第四章 観光立国推進体制
- 1.観光立国推進本部
(1)設置及び所掌事務
(2)組織
- 2.地方公共団体における推進体制
前文
観光は魅力ある国づくり、すなわち我々が普段生活している空間を魅力的なものとすることによって外部からの集客をも確保することにその本質がある。加えて、観光は生活にゆとり、潤い、充足感をもたらし、豊かな国づくりの契機となる。また、海外から多くの人々を受け入れることは国民の草の根レベルも含めた相互理解を促進し、政治・外交的側面で重要な役割を果たす。さらに、観光は単に旅行業や宿泊業のみならず、広汎な分野の産業と密接な関連があり、その経済効果は極めて大きい。
したがって、観光立国はわが国の国家戦略と位置づけられるべきであり、その基盤整備が急がれるが、現状では不十分な点も少なくない。
- わが国は独自の観光資源が比較的豊富であるが、素材のままのものも少なくなく、国際競争力向上の上で改善の余地がある。
- わが国には伝統的建造物等の歴史遺産が多数残されており、それ自体は保存状態もよいが、これらをとりまく周辺の街並の景観は必ずしも美しいとはいえない。
- 各自治体間の連携が不十分なため、結果として地域の統一的なイメージ構築ができないといった弊害が生じている。
- 経営やマーケティングのノウハウを有する高度専門家を育成する上での教育・研修制度が確立されていない。
加えて、人口減少社会を迎える中、国内外からの旅行者を誘致することで交流人口を増加させることが、わが国の活性化・持続的発展にとって不可欠である。特に「大交流時代」が到来する中、観光に関する諸政策がレジャーに伴う人の移動に止まらず、ビジネス客、留学生等の往来を含むあらゆる人的交流の円滑化に貢献することが求められている。
第一章 総則
1.目的・理念規程
観光立国に係る諸政策は以下を目的とする。
- 活気ある地域社会の形成、景観の整備等を含む「住んでよし、訪れてよし」の国づくり
- 国内外との文化・経済交流を通じたゆとりある豊かな国づくり
- 国民の草の根レベルを含めた国際的な相互理解
- 交流人口の拡大による産業ならびに地域の活性化
2.責務に関する規程
(1)国の責務
国は上記の目的・理念を達成すべく、次の事項につき、その政策全般にわたり必要な施策を総合的に講じなければならない。
- 国内外からの旅行者に対するホスピタリティの向上を図ること。
- 観光商品の開発、わが国の対外ブランド・イメージの確立等を支援すること。
- 国内外からの旅行者に対する案内・情報発信のツールを整備すること。
- 家族旅行の推進をはじめ、全ての国民が観光の効用を享受できる環境を整備すること。
- 観光分野において経営、マーケティング等に精通した高度専門家を育成すること。
- 観光統計を整備すること。
- 観光資源の保護、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就戟玩嘘梶鬼贋屋⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩び開発を図ること。
- 観光地における美観風致の維持を図ること。
- 観光旅行の安全の確保及び観光旅行者の利便の増進を図ること。
* 1. 4. 7. 8. 9. は現行の観光基本法第2条同旨
(2)地方公共団体の責務
- 地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならない。
- 地方公共団体は、地域の産業界、NPO、住民等と共に、地域間連携による戦略的観光振興の推進に努めなければならない。
- 地方公共団体は、街づくり、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就峨厩挟堰傑厩倶九旭金儀⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩におけるイニシアティブを発揮するよう努めなければならない。
* 1. は現行の観光基本法第3条同旨
(3)民間事業者の責務
- 民間事業者は、国・地方公共団体の観光立国に係る施策に主体的に協力する。
- 民間事業者は、魅力的かつ多様な観光商品の提供を通じ、あらゆる旅行者のニーズに応えるよう努める。
- 民間事業者は、学生の実務研修の受入等を通じて観光に携わる人材の育成を支援するよう努める。
(4)国民の責務
- 国民は、国内外からの旅行者にホスピタリティをもって応対すると共に、地域づくり、国土の美化等、観光立国へ向けた施策に主体的に協力するよう努める。
- 国民は、国内外からの旅行者に十分な応対ができるよう、外国語能力をはじめコミュニケーション能力の向上に努める。
3.法令上の措置に関する規程
- 国・地方公共団体は、施策を実施するため必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じなければならない。
- 講じる措置は省庁間連携による総合的かつ効率的なものとするよう努めなければならない。
* 1. は現行の観光基本法第4条同旨
4.年次報告に関する規程
政府は、毎年、国会に観光の状況及び政府が観光に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。
* 現行の観光基本法第5条1項同旨
第二章 観光立国基本計画等
1.観光立国基本計画
- 国は法の趣旨を実現すべく、具体的な政策、スケジュール、達成すべき成果目標等を明記した基本計画を策定する。
- 基本計画は5ヵ年とし、PDCAサイクルを回すものとする。
2.地方公共団体の地域づくり計画
- 地方公共団体は、近隣の県ならびに市町村と広域連携を図りつつ、地域づくりに関する計画を策定する。
- 計画は、地域の独自性を活かした観光資源の整備、景観形成、地域活性化等をその内容とする。
第三章 基本的施策
1.外国人旅行者の来訪の促進
(1)出入国に関する措置の改善
- 国は、IT化の推進を含めた出入国手続の簡素化を推進する。
- 国は、観光・商用ビザの発給要件の緩和について随時検討する。
- 国は、国際相互理解の更なる推進の観点から、留学生・修学旅行生等の受入促進に必要な措置を講じる。
- 国は、交流人口の拡大の観点から、外国人旅行者に加えて専門・技術的分野における外国人労働者の在留資格を見直し、必要な措置を講じる。
- 国は、不法滞在外国人の取締に必要な措置を講じる。
(2)海外における観光宣伝活動
- 国は、訪日外国人旅行者誘致のターゲット国を指定し、国別計画を策定した上で重点的かつ継続的に観光宣伝を行う。
- 観光宣伝活動では、わが国の歴史、伝統芸能、産業技術、食文化、都市文化、自然景観等を紹介することで、わが国の対外的なブランド・イメージの確立を図る。
- 観光宣伝活動に際しては、民間と連携しつつ、そのノウハウ・資金を有効活用するスキームを構築する。
- 観光宣伝活動に際しては、独立行政法人国際観光振興機構、在外公館等の機能を活用し、現地における官民連携の誘致活動を展開する。
- 国、地方公共団体は民間とも連携しつつ、国際会議を誘致すべく必要な措置を講じる。
(3)外国人旅行者への対応・情報提供
- 国・地方公共団体は、外国人旅行者に対応すべく、宿泊、食事、休憩、医療、その他旅行関連施設のほか、外国語による案内表示の整備に必要な施策を講じる。
- 国・地方公共団体は、IT技術を活用した情報提供ツールの開発・普及を促進すべく、必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
* 1. は現行の観光基本法第7条同旨
2.国民の観光旅行の推進
(1)ユニバーサル・ツーリズムの推進
国・地方公共団体は、家族旅行を促進するほか、高齢者、身体障害者等を含む全ての国民が観光のもたらす効用を等しく享受できるユニバーサル・ツーリズムの推進に向け、その環境整備のための必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
(2)国民の休暇取得促進
国、地方公共団体、産業界、NPO等は、国内外への観光旅行を通じて国民が見聞を広める機会を確保すべく、休暇取得・分散化に向けた諸方策を検討の上、必要な措置を講じる。
3.観光インフラの整備
(1)観光に携わる高度専門家の育成
国・地方公共団体は、産学連携の下、観光分野における経営、マーケティング等に精通した高度人材の育成を推進すべく、大学・大学院教育の充実、企業における実務研修の推進等に必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
(2)観光基盤施設等の整備
- 国、地方公共団体、産業界等は、空港、港湾、鉄道、道路等をはじめとする観光基盤施設の総合的整備ならびにその効率的運用に必要な施策を講じる。
- 観光基盤施設等の整備に際しては、主要空港の有効活用ならびに都心へのアクセスの向上等、優先度の高い案件に重点的に取組むよう努める。
- 観光基盤施設等の整備に際しては、PFI等の導入により、民間のノウハウ・資金を最大限活用するよう努める。
* 1. は現行の観光基本法第8条同旨
(3)観光統計の整備
- 国・地方公共団体は、観光統計の整備、基準の統一等に必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
- 民間事業者等は、観光統計の整備に向けた国・地方公共団体の施策に協力するよう努める。
4.観光資源の保護・育成・開発
(1)持続可能な観光の実現
国・地方公共団体は、自然環境、史跡、名勝、文化財等の観光資源を保護し、持続可能な観光を実現することはもとより、これらが存在する地域全体の景観整備等を通じて、魅力的な観光資源を形成すべく必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
(2)新たな集客資源の開発
- 国・地方公共団体は、芸術・文化・スポーツを機軸とした行事を推進すべく、必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
- 国・地方公共団体は、産業遺産、企業博物館、工場等を活用した観光を支援すべく、必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
- 国は、ライブエンターテイメントの振興を通じた集客を図るべく、ホール・劇場・映画館、コンベンションセンター、ホテル、レストラン、ショッピングセンター等を集積する特区を設定する。特区内では、財政・金融上の措置を講ずると共に必要な規制緩和を推進する。
5.国土の美化・景観整備
- 国・地方公共団体は、観光地における美観風致の維持を図るため、屋外広告物等に関する規制その他国土の美化に必要な施策を講じる。
- 地方公共団体は、伝統的な街並等を含む街区を景観法に定める「景観地区」に指定し、条例によって建物の意匠、高さの最高限度・最低限度、壁面の位置等を規制するのみならず、敷地面積の最低限度を定めることで土地の細分化、それに伴う伝統的建造物の取壊し、矮小な建造物の濫立等に伴う景観の悪化を防止するものとする。
- 国・地方公共団体は、景観形成に不可欠な建造物の修復・復元、電線類の地中化、街路樹・公園・緑地・ウォーターフロント等の整備、歩いて廻れる道路づくり等を推進すべく、必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
- 国・地方公共団体は、美しい景観の創造に資する都市再生事業等に対して、必要な制度上ならびに財政・金融上の措置を講じる。
- 制度上ならびに財政・金融上の措置は、優先度の高いものから重点的に講じるよう努めなければならない。
* 1. は現行の観光基本法第15条同旨
6.観光旅行の安全確保
- 国・地方公共団体は、国内外からの旅行者の安心・安全を確保するため、事故・犯罪の発生の防止等に必要な施策を講じる。
- 民間事業者、国民は安心・安全の確保に向けた国・地方公共団体の施策に協力するよう努める。
* 1. は現行の観光基本法第9条同旨
第四章 観光立国推進体制
1.観光立国推進本部
(1)設置及び所掌事務
- 国は観光立国推進本部を設置する。
- 観光立国推進本部は、観光立国基本計画を策定するほか、今後の観光立国推進体制のあり方について検討を加える。
- 観光立国推進本部は、観光立国基本計画の実施状況について政策評価を行う。
(2)組織
- 観光立国推進本部は、内閣総理大臣を本部長とする。
- 観光立国推進本部は、関連省庁の長に加え、幅広い分野の有識者から本部員を選定する。
2.地方公共団体における推進体制
- 地方公共団体は、地域づくり計画の策定に必要な組織を設置する。
- 地域づくり計画は、民間の有識者、NPO、地域住民等の幅広い参画の下で策定する。
以上
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