[ 日本経団連 ] [ 意見書 ] [ 目次 ]
これからの教育の方向性に関する提言

参考資料: 日本経団連「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」
(2004年4月19日公表)からの抜粋

1.求められる3つの力

求められる3つの力

2.バウチャー制度(キャリア教育講座対象)のイメージ

バウチャー制度(キャリア教育講座対象)のイメージ

3.教育委員会改革についての主張

(1) 国は、教育委員会を根本から改革する

現行の教育委員会制度の下でも、社会の動きやニーズに対応して教育を改革しようという意欲的な人が教育委員に任命されるケースもあり、また、教育委員会が首長と連携して取り組んでいる自治体がないわけではない。こうした教育委員会は、学校支援、外部人材の活用、学校や教員の評価制度の導入などを積極的に行っている。しかし一方で、多くの教育委員会において、委員職が名誉職になっていることや、教育委員会事務局が行政事務中心となり、教育政策の政策立案機能や各学校の取り組みに対する助言や支援を行う機能を果たしていないといった問題が提起されている。
こうした現状を打開するため、以下のような改革を検討すべきである。なお、中央教育審議会においても教育委員会のあり方について検討を行うとしていることから、その検討の推移を踏まえ改めて意見を述べたい。
第1に、教育委員あるいは事務局に専門能力を持つ人を入れるなどして立案機能を強化する。
第2に、小規模市町村教育委員会では、改革を推進するための体制が十分でないという指摘があることから、国は、地域における教育政策の立案機能や指導・助言機能を向上させるために、例えば、人口30万人程度の中規模都市以上の大括りとし、広域化すべきである。
第3に、現在は県の教育委員会の権限である学級編成に係る権限を、広域化した教育委員会に与える。加えて、現在国が規定している学習指導要領、授業時数、土曜日の活用有無等についても、広域化した教育委員会の判断で、柔軟に運用できる形へと弾力化する。授業時間の拡大や土曜日の活用などにあたっては、外部人材やノウハウを利用することも考えられる。

(2) 教育委員会は意欲ある学校・教員を支援する

授業改革への取り組みの輪を広げていくためには、教育委員会による支援が不可欠である。そもそも、教育は地域で行うものである。折りしも、地方分権の流れの中で、地域単位で学校を変えていく道が拓かれつつある。例えば、愛知県犬山市では、学校側が、少人数教育、少人数授業、TT(ティームティーチング)などを行いたいと希望した場合、市教育委員会が、非常勤講師を雇って派遣するとともに、校務軽減を目的とする支援を行っている。このように、意欲ある取り組みに対する人員、予算の加配等の支援を行うことによって、学校現場の自立的な動きを促すべきである。また、大阪市のように教育委員会が、習熟度別授業を行う方針を定めるなどの動きもある。文部科学省は、こうした動きを加速させることを奨励すべきである。
この他、教育現場に、外部人材による新しい教育プログラムの導入を促進することで、現行の教員組織では対応が困難な点を補うことも検討に値する。一例として、品川区では、社会や経済の仕組みや税の意味などの理解を通して、市民としての自覚や豊かな社会性などを身に付けることを目的に、NPO組織であるジュニア・アチーブメントのプログラムを取り入れ、現実に近い街と店舗を再現し、経済活動を体験する学習の場を設けている。このプログラムには企業も協力している。
また、学校評価制度の充実を、教育委員会が支援することも不可欠である。新しい学校評価制度は、具体的な学校目標を立ててその目標の達成状況を評価し、次年度以降の活動に役立てるというサイクルに欠けていたことへの反省から導入された。本来、この制度で、プラン・ドゥー・チェック・アクション(PDCAサイクル)が、生徒、保護者、地域などのステイクホルダーにわかりやすい形で開示されることが必要である。現在、評価項目などは基本的には各学校に委ねられているが、学校評価とその結果の公表を徹底するために、教育委員会は必須となる評価項目を示すとともに、閲覧が容易な形での評価結果公表を学校に促すなどの措置を行うことが必要である。さらに、教育の質は教員の資質によって大きく左右されることから、各教育委員会が、学校の取り組みを評価するとともに、学校評価に基づいて校長を評価することが必要である。加えて、教員評価を実効ある形で導入することも必要である。教員評価にあたり、ア)長期の研修、表彰制度等によって意欲ある教員にインセンティブを与える、イ)指導力不足教員を速やかに発見するために教育委員会内に特任の主事を配置し、指導力不足教員に対し適切な措置をとる、ウ)授業改革、学校目標の達成や校務の円滑化等の観点から厳格に教員評価を行った結果を処遇に結びつけるなどを制度として実施すべきである。
政府もこうした取り組みを加速するため、教育改革国民会議で議論されながらも実施を見送られた教員の免許の更新制を再び取り上げるべきである。

(3) 教育委員会は、教員の改革への発意を促す

多くの教員が、新たな試みに挑戦することに消極的である背景として、ア)これまでのやり方を疑問視せず、また、他者からも指摘されなかったこと、イ)努力しても学校は変わらないということから無力感を感じていること、ウ)教師の間でコミュニケーションがなく、改革への取り組みの輪が広がらないこと、などが考えられる。こうした状況を打開するためには、以下のような教員のやる気を引き出す措置が必要である。

  1. 教員の新しい取り組みへの挑戦を評価する。
    最初から完璧を求めるのではなく、新しい挑戦に取り組んだ点をまずは評価する。この点、特に保護者が理解を示すことも求められる。

  2. 教員に対して、減点主義でなく、加点主義の評価を行う。
    減点主義であると日々無難に過ごせばよいという事なかれ主義の姿勢になり、新たなチャレンジが生まれない。

  3. 教員に「学びなおし」の機会を与える。
    3〜5年に一度、義務化された研修機会を設けて能力向上を促すとともに、学習指導を適切に行う能力を有しているかどうかを確認する。さらにIT研修や国際化研修をはじめ、社会の変化に対応した研修を実施する。また、この「学びなおし」には、企業をはじめ外部での6ヶ月〜1年の研修も含める。学校は、それらの研修で教員が得た情報を学校内で共有するための取り組みを行う。

  4. 学校内でのコミュニケーションを図る。
    今後目指すべき学校経営は、管理職がビジョンを提示するとともに、教員がお互い遠慮なく意見を出し合いながら、試行錯誤を経て新たな動きへとつなげていくというものである。こうした学校経営を行うことができる有能な管理職になり得る人を発掘・登用していくことも重要である。いずれにしても、教員が絶えず向上心を持って教職に携わるとともに、校長の示す学校経営方針に参画・協力することが不可欠である。

(4) 教育委員会は、優れた取り組みを紹介・普及させる

各教育現場において先進的な取り組みが増えつつある一方で、現状では、個別の取り組みは「点」のレベルといわざるを得ず、残念ながら「線」なり「面」にまで展開していない。教育委員会が、すぐれた改革を実施した学校の取り組みをさまざまな形で評価し、それを他校に紹介するなどして、刺激をあたえ意欲向上を促すことが重要である。例えば、市町村の教育委員会がシンポジウム等を開催し、各学校からそれぞれの取り組みを発表させ優れたものを表彰し、これを県レベル、国レベルへとひろげていくことも考えられよう。また、教育改革事例集を発行することも有効であろう。加えて、教員間で議論し教授法の改善に取り組むなど、企業で行われている小集団活動のような手法を教育界に取り入れることを提案したい。

4.産業界の教育への協力

産業界として積極的に協力し、また自らも取り組む

人材が活躍する場である企業自らが、教育の充実に積極的に協力するとともに、次世代を担う人材の育成に取り組むことも重要であることから、下記のような取り組みを行いたい。

第1に、産業界は教育機関の要請に基づき、時代のニーズを先取りしたカリキュラムの開発や、ビジネスの第一線で働く社会人の講師派遣、研究施設など実践的な場の提供などによって大学教育の質の向上に協力する。例えば、一橋大学はe-commerceの分野で民間企業と連携し、共同での実践的なプログラム開発を行うとともに、企業から講師を招いている。さらに、企業との共同研究プロジェクトを立ち上げている。こうした取り組みがさらに拡大するよう産業界として協力姿勢を打ち出していく。

第2に、産業界は、学生が、実社会との関わりについての理解を深め、職業意識を醸成する意味からも、インターンシップを希望する大学生・高校生を積極的に受け入れる。

第3に、教員を目指す学生は、一時企業で働いて社会常識やルールを身につけてから教職につくこととする。また、教員や職員の企業研修を積極的に受け入れる。あるいは、社会人が、高等教育で学びなおし再び社会(企業)で活躍するといった社会との循環や、企業が社員教育を国内の高等教育機関に委託するなど、多面的な連携の機会を増やす。

第4に、産業界は、地域の一員として、社員が講師として学校教育の充実に協力することを奨励する。また、地元企業を中心に、講師として学校に社員を派遣するなどの取り組みを行う。こうした活動を通じて、生徒の職業観醸成についても協力する。

第5に、産業界は、これまで以上に社員に対し家庭教育を充実させるための機会を与える。また、企業研修に「子育て講座」を設けるなどの取り組みも考えられる。

第6に、産業界は教育機関の要請に基づき、人事評価や小集団活動の方法など企業のノウハウを教育界のために提供する。

第7に、大学に対しては、出口管理の徹底など教育カリキュラムの改善・充実を要請する一方で、企業側でも、卒業学年に達しない学生に対し、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む。日本経団連では既に「2004年度・新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」を守るよう会員企業に呼びかけているが、これが実効性を持つよう、今後とも採用活動のあり方について検討を重ねていく。

第8に、採用にあたっては、多様な人材を広く受け入れるために、採用方法をオープン化するとともに、大学名不問の採用を実施する。

第9に、大学に対して、実践的な教育カリキュラムの開発を要請するにあたり、採用試験の主旨、概要および方向性について積極的に公開することにより、産業界の期待する人材像を学生や大学関係者に明示する。

以上

日本語のトップページへ