経団連環境自主行動計画には現在58団体・企業が参加し、温暖化問題に積極的に取り組んでいる。このうち、産業・エネルギー転換部門の35業種が「2010年度にCO2排出量を1990年度レベル以下に抑制するよう努力する」という統一目標を設置している。2002年度のCO2排出量は、景気の緩やかな回復に伴う生産量の増加にもかかわらず、CO2排出原単位やエネルギー原単位の向上あるいは炭素含有量の少ないエネルギーへのシフトの面でも着実に成果をあげ、1990年度比で1.9%の減少となった。産業界の温暖化対策は、今後とも自主的取り組みを中心とすべきである。
経団連では毎年、自主行動計画の進捗状況を業種毎に詳細にフォローアップし、インターネット等を通じてその結果を広く公表している。また、各業種の自主行動計画の進捗状況は、毎年関係審議会の場でレビューされており、その結果は地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議にも報告されている。
今後も、一層の透明性・信頼性を確保しつつ中長期にわたり自主行動計画の枠組みの中で産業界の取り組みを続けるために、2002年7月、環境自主行動計画第三者評価委員会を設置した。2003年度フォローアップからは、同委員会の報告を踏まえ、内容改善を図っている。
温暖化対策は長期的には技術開発が鍵となることから、産業界としては技術開発によって引き続き貢献していく考えである。しかしながら、石油危機以降、すでに20%以上の省エネを達成し、諸外国に比して非常に高い省エネを達成したわが国の産業界が、一層のCO2削減を実現するためには、原子力をはじめとした既存の技術を総動員するとともに、革新的な技術開発が不可欠である。経済と環境の両立に向けて、地球温暖化防止技術を国家の技術開発戦略の柱の一つとして位置付け、民間の技術開発を促すよう政府が中長期的な支援を行なっていくことが求められる。
CO2を排出しない原子力利用の推進が、温暖化対策のうえで最重要の課題となる。産業界・国・地方自治体が安全性の確保に最大限の努力を傾注するとともに、国民の理解を得るためにより一層の情報公開に努め、原子力利用の推進を図るべきである。
環境省発表の2001年度のCO2排出量の部門別内訳によると、エネルギー転換部門と産業部門のCO2排出量は1990年度以降ほぼ横ばいであるにも関わらず、民生・運輸部門のCO2排出量はそれぞれ90年度比25.5%、22.8%増加しており、2001年度実績で見ると日本全体の50.2%を占めるに至っている。
政府は民生、運輸の対策の多くが国民生活に直結する性格のものであることを認識し、我が国の目標達成の厳しさと国民が果たす役割の重要性について教育・啓蒙に努めるとともに、交通渋滞解消のためのインフラ整備など、CO2削減に効果のある対策を策定すべきである。
産業界としても、引き続きトップランナー基準の達成等、技術開発により民生・運輸部門の排出削減に寄与するとともに、従業員に対する啓蒙活動を通じた民生家庭部門の排出削減など、可能なことから対策に取り組んでいく。
英国等では、温暖化防止への取り組みにつき、業界または企業が政府との間で協定を結ぶ方法が導入されており、わが国にもこれを導入すべきとの議論がある。しかし、わが国の場合の協定は、従来の例を見ても、柔軟性のない、規制的・拘束的な意味合いの強い、片務的なものとなるおそれが大きい。温暖化対策をこのように協定化すれば、従来の自主的取り組みのメリットである柔軟性が損なわれるおそれがあり、安易に導入すべきではない。
また、行動計画の策定を義務付けるべきとの議論もあるが、産業界の温室効果ガス排出抑制の取り組みは、各業種の実態を最もよく把握している事業者自身が、自主的に実行計画を策定し、実施するのが最も効果的である。これを義務化することは、自主的取り組みのメリットを著しく損なうこととなり、望ましくない。
強制的な排出枠の割当を前提とした国内排出量取引制度の構築は、きわめて経済統制的であり市場経済になじまないこと、割当における公平性の確保が困難なことなどから、不適切である。また、特にわが国の場合、企業の省エネ目標が相当高いレベルにあり、国内市場に放出するほど排出枠に余裕は生じないことが予想される。
CO2排出抑制の手段として、環境税(炭素税、炭素・エネルギー税を含む)を導入すべきとの考え方があるが、温暖化問題は国民一人ひとりの日常生活や経済活動に深く関わる問題であり、国民全体の主体的な参加と協力が不可欠である。
2003年8月に中央環境審議会の専門委員会が示した温暖化対策税は、本格的な景気回復に水を差し、産業活動の足枷となる。新規増税は製造業の国際競争力を損ない、国内産業の空洞化をもたらし、雇用に深刻な影響を及ぼすばかりでなく、世界最高水準のエネルギー効率を実現してきたわが国から海外への生産移転は、結果的に地球全体では温暖化ガスの排出量増大につながる惧れがある。
また、化石燃料には、2003年10月に導入された石油・石炭税をはじめ既に様々なエネルギー税が課されており、新たな税の導入は製造業への多重課税となり、一層の過重な負担をもたらす。
新たな温暖化対策の検討においては、地球温暖化対策推進大綱に定める各部門の具体的対策を着実に実施するとともに、その効果を評価した上で必要な施策を検討すべきであり、安易に税を導入すべきではない。
温暖化問題は地球規模の問題であり、すべての国・地域が参加する温室効果ガス削減の枠組みを構築する必要がある。2013年以降、最大の排出国である米国や、人口増加・経済発展につれ大幅な排出増が見込まれる途上国も含め、すべての国が環境と経済の両立を実現しつつ、現実的で柔軟な枠組のあり方を検討すべきである。
経済と環境の両立を図りながら京都議定書の目標を達成するために、京都メカニズムは有効な対策の選択肢の一つであり、早期に国際ルールの具体化を図る必要がある。京都メカニズムが効果を上げるには民間の自主的な参加が不可欠であり、手続の簡素化、取得したクレジットの帰属の明確化など、民間が参加しやすい仕組みを構築することが求められる。