2003年11月18日 (社)日本経済団体連合会 |
日本経団連では、「2010年度に産業部門およびエネルギー転換部門からの二酸化炭素排出量を1990年度レベル以下に抑制するよう努力する」との目標を掲げ、自主的取り組みを進めてきた。省エネルギーや温暖化対策技術の開発・導入等の対策は着実に成果をあげてきており、今後とも、透明性・信頼性の向上につとめつつ目標達成に向けて着実に努力する所存である。
一方、「環境税」については、本年9月16日の「平成16年度税制改正に関する提言」を含め、問題点を指摘してきたところであるが、今般提案された温暖化対策税の構想には、依然として以下のような問題点があり、改めて導入に反対する。
また、最近、「森林環境・水源税」の創設が一部で論じられているが、これは本来一般財源で賄うべき森林の保全を、工業用水や化石燃料への上流課税によって財源を確保しようとするものである。工業用水等の利水者は、既に取水量に応じて応分の負担をしており、また森林整備対策費等の基金にも協力してきており、同税の創設にも反対である。
今般の温暖化対策税構想は、化石燃料への上流課税となっており、とりやすいところからとる産業界への新規増税にほかならない。わが国経済は、構造改革の進展によりようやく明るさが見え始めた段階にあり、こうした時期に新規増税の提案をすること自体、企業マインドを冷やし、今後期待される本格的な景気回復に水を差し、産業活動の足枷となる。必要なのは新規増税による強制的手段ではなく、技術開発によるブレークスルーであり、これを通じた「環境と経済の両立」である。
新規増税提案は、製造業の国際競争力を損ない、国内産業の空洞化をもたらし、雇用に深刻な影響を及ぼす。温暖化対策税は、事実上の空洞化促進税である。欧州においても、国際競争力への配慮が政策の中で明言されている。
一方で、世界最高水準のエネルギー効率を実現してきたわが国から、エネルギー効率が低く、規制の緩やかな国に生産が移転されることになれば、結果的に地球全体では温暖化ガスの排出量増大につながり、地球温暖化をかえって進行させる。
化石燃料には、今年10月から導入された石油・石炭税をはじめ既に様々なエネルギー税が課されており、新たな温暖化対策税の導入は製造業への多重課税となり、一層の過重な負担をもたらすことになる。また、今般の温暖化対策税は、その使途が不明確である。そもそも、毎年1兆円規模で財源が投入されている既存の温暖化対策の政策評価も効果の検証もなされていない段階で、新規増税による歳出の追加は許されない。石油危機前後のエネルギー価格の変動とガソリン、電力の需要推移などを見ても、エネルギー需要の価格弾力性は低く、温暖化対策税にCO2排出抑制効果を求めることはできない。
産業、エネルギー転換部門については、産業界の自主的取り組みにより、着実に温暖化ガスの排出削減効果を上げている。他方、民生部門(オフィスビルや店舗、家庭)は、排出削減目標との乖離が大きい。自動車や電気機器等の省エネ化は進んでいるが、効果のあがっていない家庭や雑居ビル、店舗の省エネ推進やサマータイム導入の検討、道路・交通流対策等において、所管官庁の明確化と積極的な取り組み、その効果の評価、新たな対策の検討等が必要である。
地球温暖化対策推進大綱には、温暖化ガスの排出抑制に向けた部門ごとの具体的な対策が掲げられている。環境税の議論を開始する以前に、これらの対策の着実な実施が不可欠である。
特に、国としてライフスタイルの変革に向け、国民への情報提供、普及啓発の強化等、具体的行動に結びつく訴えかけを行うべきである。
京都議定書は、日本やEU等、排出量削減の遵守義務を負う参加国のみにペナルティを課す一方、温暖化ガスの削減義務を負わない国にはペナルティを課さず、また発効しても世界の温暖化ガスの全排出量の約3割をカバーするに止まるという致命的な欠陥がある。
今後、途上国の温暖化ガス排出量が先進国の排出量を上回ると予測される中、ポスト京都議定書においては、米国や途上国を含め、全ての国が参加できる新たな枠組を構築するとともに、京都議定書の反省をふまえて、地球規模で実効性のある政策を提案すべきである。