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災害に強い社会の構築に向けて

2003年7月22日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

わが国は、先進各国の中で、自然災害が発生するリスクがもっとも高い国である。複数のプレートの境界上に位置し常に地震のリスクがある上に、台風や火山の噴火など多様な自然現象の影響を受ける。
地震のリスクについて言えば、日本の国土の周辺で世界の地震の二割が発生しており、しかも、今世紀前半には、東海地震、南関東直下型地震、東南海・南海地震などの大規模地震が発生する可能性が高いと見られている。犠牲者約6400人、被害総額10兆円弱を記録した阪神・淡路大震災において、ひとたび地震が大都市を直撃すれば、甚大な被害を蒙る可能性があるという現実を目の当たりにした。
現在想定されている地震は、日本経済の中軸をなす地域で発生する。地震対策を怠れば、日本経済再生への道が長期にわたって閉ざされてしまう可能性もある。まさに、地震に強い社会の構築は、わが国の最重要課題の一つである。
日本経団連では、本年1月に新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」を発表し、世界の人々からも「行ってみたい、住んでみたい、働いてみたい、投資してみたい」と思われる国を構築するための方向性を示した。地震をはじめとする自然災害のリスクを克服することは、新ビジョンで描く国づくりの基盤とも言えよう。
そこで、本提言では、特に地震に焦点を当てて、災害に強い社会をつくるため、企業が社内的に取り組むべきことに加え、地域の防災力を強化するために、企業が地域や社会に対する貢献の一環として行うべきことを示す。また、防災行政のあり方、および企業とNPOの協力について提言する。

1.企業、行政、NPOそれぞれの課題

阪神・淡路大震災では、倒壊家屋に一時的に閉じ込められ救助が必要とされた人のうち、多くの人が近隣住民によって救出された。また、生活関連物資の提供や応急建築などに企業が大きな貢献をし、NPOが被災者の多様なニーズに対応して活躍した。これらの教訓として、地震による被害を最小限に抑えるためには、行政、企業、NPO、地域住民が、それぞれの役割を果たすとともに、補完しあうことが重要であることを学んだはずである。
しかし現実には、防災の面で、企業、行政、NPOなど各主体間の有機的連携が欠けていることに加え、それぞれ、克服すべき課題を抱えている。
企業については、防災体制や復旧資金などにおいて、事業規模や業種間で対策に大きな格差がある。また、建物の耐震化や危機管理体制といった社内対策に加えて、地域の防災力の強化に向けた協力への期待が高まっており、これにどのように応えるかが課題である。
行政については、わが国では、阪神・淡路大震災後、自衛隊の自主派遣の制度が設けられるなど国が自らの判断で救援支援の判断を下す制度が一部導入された。また、東海地震については、被害想定をもとに自治体からの応援要請を待たず、広域的な救援活動を実施する方針が出されるなどの動きがある。消防、警察、自衛隊などを一元的に指揮できる体制にはなっていない。また、災害対策基本法に沿って防災体制が構築されているが、国・都道府県・市町村の連携がどれだけ機能するかが問われている。行政が出す地震関連の情報も、国民に十分には届いていないのが現状である。たとえば、内閣府が2002年9月に実施した調査では、地震対策強化地域においてさえ、災害危険場所があるかどうか知らないとの回答が約4割にのぼっている。
NPOについては、阪神・淡路大震災後、災害支援NPOの数が増加し、全国規模のネットワーク化も進展したが、地縁組織(地域町内会など)や自治体との連携が必ずしも十分とはいえず、NPO自体も日頃の活動をどう維持するか、専門性をいかに高めるか、人材・資金面の基盤をどう強化するかなどの課題を抱えている。
国民の防災意識も、阪神・淡路大震災後は高まったものの、最近の調査では低下しつつある。

2.企業が取り組むべきこと

(1)企業への期待−企業内の防災対策から地域防災への協力へ−

政府の「防災基本計画(昭和38年策定)」は、企業防災について、(1)従業員、顧客の安全確保、(2)事業活動の維持と社会経済の安定、(3)地域防災活動への貢献、の3つを指摘している。従来の企業防災は、死傷者の極小化、地震発生後の初期段階における人命救助・救援と、二次災害の防止が中心であり、これらが企業にとって最も重要な課題であることには変わりない。しかし、経済のグローバル化の中で、災害によるダメージがただちに国際競争力の低下を招きかねないこと、少子高齢化の中で地域コミュニティーの組織力が弱体化する傾向があること、ITをはじめとする先端技術が普及する中、災害時には社会システム全体が麻痺する可能性もあることなどから、指定公共機関、銀行、物流など公共的な役割を担う企業をはじめ、あらゆる企業が、社会・経済システム安定に向けて努力することが必要になっている。

(2)社内における取組み

  1. 被害を想定し実践的取組みを
    防災は社員の一人ひとりが意識を持たなければ効果を発揮できない。危機に強い組織をつくることは経営者の責務である。したがって、企業が社内的に取り組むべきことは、まず、被害を想定し、経営トップが、自然災害に伴う損失の極小化を目指すことを明らかにし、防災体制の基本方針を確立することである。そして、防災対策の基本方針にしたがって、マニュアルを作成し、実践的な教育訓練を通じて周知徹底することが必要である。その際、地震発生時には現場に権限委譲して迅速に対応できる体制を整えておかないと機能しないことを念頭におくことが必要である。また、地震発生後の対応といっても、直後の対応と救助を終えた後の対応は異なり、地震発生が就業時間中か否かでも異なる。マニュアルの作成にあたっては、人道的な対応(人命救助・救援、二次災害防止)と事業継続(代替生産の確保、早期復旧対策)の2つの視点から、(ア)日頃の備え、(イ)人命救助・救援、2次災害の防止と社員や社員の家族の安否確認などを優先させる災害発生の直後の対応、(ウ)地域社会への貢献も含めて対応が必要となる災害発生後2〜3日の対応、(エ)事業活動の再開に向けた活動を開始する一週間経過後、という4つの段階ごとに、対応を検討しておく必要がある。また、業務内容の変化に合わせた不断の見直しが必要である。
    マニュアルの整備に併せて、防災担当者の育成やレベル向上、社員の防災意識向上に取り組むことが重要である。さらに、派遣社員や外国人の従業員などにもマニュアルの内容が浸透する工夫が必要である。
    さらに、このような社内体制の整備に加えて、関連会社や協力会社に対して地震対策の重要性を呼びかけ、助言を行うことも重要である。
    なお、詳しくは別添の手引き (PDF形式、1056kB) を参照されたい。

  2. 経済活動の早期復旧のために
    被災後いち早く事業活動を再開するためには、事業活動の生命線である各種データ、情報システムの保全に取り組むことが重要である。また、復旧資金の確保が不可欠である。復旧資金の調達方法の一つとして保険があるが、保険で企業が調達できる資金量には限界がある。大地震被災後に資金が調達できないことで、企業の災害からの早期復旧、早期の事業再開が阻害される事態も想定される。万一に備え、復旧資金の多面的な確保の方策を検討しておく必要がある。

(3)社会への貢献 −企業間あるいは自治体、地縁組織との連携による地域の防災力強化

阪神・淡路大震災後、地域防災活動への協力という観点から、(1)災害発生時に企業が協力できる内容(避難所や資機材の提供など)を事前に行政と協定しておくこと、(2)地域防災力を向上するために近隣企業が相互に協力すること、(3)企業や事業所が、行政や住民と連携して防災に強いまちづくりに参画すること、など企業への期待が高まっている。しかし、被災時に企業が取り組むべきことは、業種・業態、立地などによって様々であり、一律な対応を求めるべきではない。たとえば、ライフライン関連企業は早期復旧に最大限注力することが求められるし、大量の危険物を扱う企業では二次災害を防止することが求められる。拠点駅周辺では帰宅困難者(交通機関が不通になりオフィスビルなどで逗留を余儀なくされる人)への支援が大きな課題となる。その前提の下で、企業は、その人材や物的資源を活かし、企業市民として、地域の防災力強化のために貢献できる範囲で積極的に取り組むことが期待される。その際、個別企業単独での取組みもあろうが、同一業種あるいは東京駅周辺防災隣組や神戸市旧居留地連絡協議会のように業種を超えた近隣企業同士が協力し、自治体・地縁組織とも日頃から連携を図ることによって、より実効的な対処が可能になる。

3.行政への要望

企業として対応可能な点については積極的に取り組む考えであるが、地震が発生した際に、企業が迅速に初動態勢を整えて的確に行動できるようにするためにも、行政には以下の課題を早急に解決するよう求めたい。

(1)一元的な防災体制の確立と縦割り主義の排除

わが国においては、市町村が災害対策について一義的な責任を持ち、被害の程度により、都道府県、国がそれを補完する。しかしながら、現在想定されている地震は、被害が広域かつ甚大であると予想されていることから、国や都道府県が、主導的に、広域的な支援を迅速に行うための仕組みや支援内容などをあらかじめ定めるとともに、関係する自治体間で周知しておくことが必要である。加えて、わが国の産業基盤の中枢を直撃するものと予想されており、復興には、一刻の猶予も許されない。各自治体が復興策を決定するためにも、各省庁ごとにばらばらに復興のための施策を講じるのでなく、政府が一体となって復興対策のパッケージを示すことが必要である。
米国では、災害発生時に、連邦政府が、情報収集を行うチームと大統領の指名を受けた連邦調整官を現地に派遣し、救援対策などについて連邦と州との調整を図る。また、旧連邦危機管理庁(FEMA、2003年3月から国土安全保障省の一部局)が、連邦による被害調査や救援指示を、一元的に実施してきた。わが国においても、国の一元的な防災体制を確立するために、内閣府の防災機能を強化するとともに、防災全般に通じた専門家を養成することが必要である。
さらに、防災担当以外の部局においても、緊急時の対応のあり方を常に意識し、その施策に防災の視点を取り入れることが重要である。一例をあげると、企業に対して自治体の防災部局が緊急時の物資供給に関する協定の事前取り決めを求める例が増えているが、輸送経路の確保にかかわる部局の理解を得られず、協定を実行するための環境が整わないといったケースもある。

(2)きめ細かい情報の提供と情報認知度の向上

被災時に、企業、NPO、個人などが、自らの判断で迅速かつ的確に行動するためには、的確な情報の提供と情報の共有化が必要である。避難民に安全な避難先や避難経路などの詳細な情報が提供されなければパニックとなり犠牲が大きくなる。また企業が日頃、防災対策の内容を検討する上で、あるいは、緊急時に事業活動の継続・中断について判断し、従業員への帰宅指示、救援活動、復旧活動、地域への支援活動などを行う際には、最新にして信頼性の高い情報が不可欠である。
そのためには、以下のような対策が必要である。

  1. 観測情報、判定会招集、警戒宣言発令といった各段階の情報に対する認知度を高め、必要とされる行動についてのコンセンサスを醸成する。
  2. 被害想定の前提条件(地震発生時の建物倒壊や火災発生場所の想定、輸送・避難経路、通信手段の被害や回復状況などの想定)を共有化するとともに、パニック状況下での人の動きなども含めて災害発生後の状況についてシミュレーションするなど、必要な対策について検討するための情報を共有する。例えば、冬期の火災による被害想定だけでなく、真夏に発生した場合の衛生面でのシミュレーションも重要である。
  3. 災害発生時には、政府内で一元的に、火災情報、停電、通信被害、ガス停止、断水、鉄道輸送情報、道路封鎖・規制情報、建物倒壊情報およびそれらの復旧情報などを時々刻々と集約し、情報提供をする。情報を提供する媒体についても、何が利用可能で、何が使えなくなるか、事前に検討し、国民へ周知することが必要である。
  4. 地域の危険度情報や災害発生時の対応のあり方について、インターネットでの情報提供をもって、情報を伝えたということではなく、各戸に伝わるための工夫が必要である。また、発災時には火を消す、あるいは発災直後の不必要な電話利用を控えるなどの基本的な動作を徹底して伝えることが重要である。
  5. 企業や個人の備えを促すために、防災に役立つ物品に関する情報をリスト化して提供することも必要である。

(3)地域の防災力の強化

  1. 地震に強い街づくり−建物の耐震化、住宅の密集地対策が急務
    地震に強い安心・安全な街をつくるためには、建造物の耐震化や密集住宅地の再編が不可欠である。この点について、本年6月、日本経団連が取りまとめた提言「『住みやすさ』で世界に誇れる国づくり」で、「都市再生プロジェクト」(2001年12月)で決定された「特に大火の可能性の高い危険な密集市街地」については、今後10年間に、必要に応じて私権制限を行いながら、官民の資源を集中的に投入して早急に改編すべきこと、また、これと連携した形で、1980年の新耐震基準以前に建てられた住宅の建替え促進策を、10年間の時限措置として実施すべきことなどを指摘した。こうした施策の実施に併せて、住民が耐震化を行わない個別の理由につき仔細に調査することも不可欠である。また、質の低い仕事を行う一部の施行事業者の存在が個人住宅の耐震化を阻む一因として指摘されていることもあり、業界自身の取組みに加え、行政と木造建築の専門家が耐震診断および改修工事に関する研修を行ったり、行政が一定の技術水準を有する事業者をリスト化するなどの取組みを行うべきである。

  2. 自治体が地域と企業の接着剤の役割を
    地域防災力を強化するために、自治体や地元町内会から建物やグランドの開放、救急救命や消化機材の提供など企業による災害時の地域支援を期待する声が高まっている。現状では、企業が自治体・町内会と個別に協議することが一般的であるが、関係者が、非常時対応を包括的に議論し把握するためにも、まず、自治体からの働きかけがあり、それを前提に、災害発生時の地域連携のあり方について三者間で協議する形が望ましい。
    また、協定締結にあたっては、企業自ら被災した際の対応や、協定業務を実施した場合の補償、費用負担などについても、事前に十分に話し合うことが必要である。

  3. 夜間訓練など実践的な訓練の実施
    避難訓練がマンネリ化しないよう、夜間訓練など実践的な訓練を行うほか、行政(自衛隊を含む)、企業、NPOなど関係者が企画段階から一堂に会して訓練する機会を増やすべきである。その際、訓練がシナリオ通り間違いなく進行することに重点を置くのでなく、問題点の発見に重点をおき、改善につなげることが重要である。

  4. 地域における防災専門家の育成と自主防災体制の充実
    地域防災の担い手を育成するために、防災に関する専門知識や技術、経験を有し、実践的な訓練を受けた者に「防災士」の称号を授与し、地域の防災リーダーあるいは調整員(コーディネーター)として活躍してもらおうというNPOの試みがある。こうした新たな取組みへの支援や、行政による教育訓練プログラムなどを充実することによって、防災対策を担う人材の質的・量的充実を図ることが必要である。
    また、地域消防団の増員をはじめ、自主防災のための資機材や活動拠点を整備すること、消防・警察・自衛隊などのOBの経験を地域防災力の強化に役立ててもらうための工夫も必要である。

(4)規制改革等 −新しい防災技術の導入促進、救命率向上や災害救援の円滑化に向けて−

防災に関連した規制緩和も重要である。消防技術について言えば、たとえば高性能で効率的な最新消化技術の導入を簡易に行えるようにすることが必要である。たとえば、アメリカで大型タンク火災に多くの実績を有する大容量泡放射砲の本格的導入を早期に認めるべきである。更に、我が国でも消火技術の独自開発や消火ノウハウの蓄積・共有化・向上ができるように、(1)消防法規の性能規定化、(2)検定制度の見直し、(3)消火活動実態の情報公開などの改革も必要である。また、救命措置に関する規制について言えば、早期の救命措置の有無により蘇生率に大きな差が生じる。呼吸停止から3分後に救命措置が開始されると蘇生率は75%であるが、5分後であれば25%まで落ちるとされており、生命の危機にある時に、その場に居合わせた人の救命措置が重要である。したがって、救急救命士の業務内容の拡大、短時間の講習を修了した一般市民による蘇生措置(除細動器の使用の認可など)を可能とすべきである。さらに、倒壊した建物の撤去と廃棄を速やかに行うことが必要とされるが、通常必要な建設リサイクル法に基づく届け出が、緊急時にも必要とされるのかなど、災害救援を行う際の規制の特例措置について検討し、その結果を関係者にわかりやすく周知しておくことが必要である。
この他、緊急時には、どこで寸断されているかわかならい道路での輸送より、海上での輸送が確実であるが、混乱する中で港長が適切な指示をださないと、支援物資運搬船は沖で待たされることになる。これはヘリコプターでの運搬のための管制についても同様である。官だけでなく民も含めた災害救援を円滑に行うための運用のあり方を日頃から検討しておく必要がある。

(5)防災教育の充実を

地震防災の対応能力を高めるためにも、単なる避難訓練だけでなく、学校教育に一貫して防災教育・防災学習を取り入れることに加え、自治体などで主催する生涯学習のプログラムの中で、災害に対応するための専門知識・技術を取得する講座を充実させることが必要である。また、地震大国であるわが国において、国民が常に地震への備えを怠らない姿勢を身に付けるために、教本を作成して配布することも有効である。

(6)地震発生時には私権が制限されることを周知すること

救命・救援活動ならびに復旧活動を円滑に行うためには、緊急車両以外の一般の自家用車などの通行を禁止することが必要であること、あるいは、住宅密集地などにおいては、延焼を食い止めるための防火帯として建造物を取り壊すなどの措置がされることについて、国民に周知しておくことが必要である。

4.NPOと協働・補完関係を構築する

(1)防災面でのNPOの役割を評価する

阪神・淡路大震災時の被災地では行政が対応できない分野において、NPOが機動的に対応し大きな力を発揮した。NPOの役割を積極的に評価し、災害対策を検討する際にNPOの意見を反映させる、あるいは災害発生時にボランティアのコーディネーターとしての機能を期待するなど、災害救援活動の重要な担い手として位置付ける必要がある。他方、ボランティアやNPOの窓口として、社会福祉協議会などが中心になって災害ボランティアセンター設置のためのマニュアルづくりが全国各地で進められた。これは、阪神・淡路大震災の折、現場のNPOやボランティア団体の間での連絡と調整が難しく、支援地域や分野に偏りが見られ、また全国からの人的、物的支援を十分に活かせなかったことの反省に立脚しているが、NPOの活動が災害ボランティアセンターにおける補助的な救援事業の域を出ず、NPO本来の幅の広い活動が展開できない状況も散見される。災害ボランティアセンターは、NPOや企業など様々な主体による活動の場を提供し、それぞれの機能を強化する役割を果たすべきである。
また、福祉、環境、まちづくり、国際交流、国際協力など、救援活動以外の分野のNPOも、日頃から防災について考え、行動することが期待される。

(2)企業とNPOとの連携が災害時も活きる

企業においては、立地地域の防災関連ネットワークに参画するなど、日頃から多様なNPOと関係を構築することが望ましい。たとえば、愛知県では、災害に備えてNPOが緩やかなネットワーク「災害Vネットあいち」を形成し、企業との相互理解を深めながら災害発生時の具体的活動に関する協議を行い、実践的訓練等にも取り組んでいる。また、防災に関する啓発活動や災害発生時に交通機関が麻痺した場合の帰路確認や徒歩による帰宅訓練などに取り組んでいるNPOもあり、企業もそれらのNPOと連携を図ることが考えられる。
さらに、災害発生時に従業員が自発的に救援活動に参加できるよう、ボランティア休暇制度を拡充することも望ましい。併せて、救援活動に派遣した従業員に対し、現地の安全状況に関する情報を提供するなどの支援を行うことが課題となろう。

5.経済団体も被災地支援のために連携する

日本経団連では、これまでにも、阪神・淡路大震災をはじめとする災害発生時に、被災地の救援活動に関する情報の提供、現地で必要とされる物資提供の調整などの活動を行ってきた。経済団体は、多種多様だが、いずれも会員の意見を集約し調整した上で行政やNPOなどに伝えていく仕組みや会員への情報提供の仕組みを持っている。経済団体は、日常的な機能を災害時にも活かして、それぞれの連絡網を通じて、被災地から発信されたニーズや情報を会員企業等に伝達し、必要な支援を呼びかけることにより、企業による救援活動と被災地の人々とをつなぐこともできよう。
日本経団連は、各地のブロック別の経済団体と相互協力し、被災地の支援に取組む考えである。また、各地の経営者協会と協力して、企業防災に関する啓発活動を行っていく。併せて、企業が防災対策に関するノウハウを共有できるよう、先進的な事例を手引きやホームページで紹介していくとともに、定期的にシンポジウム等を開催し、防災に対する啓発に努める。

おわりに

阪神・淡路大震災では、約6400人という痛ましい犠牲者を出したが、1994年に発生したロスの地震では、犠牲者は61人しか出ていない。置かれた環境が異なるため単純比較はできないが、謙虚に反省し、改革に動き出さねばならない。
災害に強い社会を構築するためには、中央・地方レベルで、これまでの取組みを見直し、行政、地縁組織、企業、NPO等の連携と、それぞれの強みを発揮できる環境整備を進めることが必要である。そのためには、これら関係者が日頃から協議の場を持ち、情報の共有と役割分担、協働のルールづくり、連絡や調整の方法等について相互に話し合っておくことが大切である。

以上

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