日本経済の現況と少子高齢化の影響
21世紀を睫前に控え、日本経済は、ストック面での調整が依然続いているものの、フロー面では自律的な回復の動きが強まってきている。90年代、米国に大きく遅れをとったIT(情報技術)革命を軸とした経済構造改革も、「高度情報通信社会形成推進基本法」(IT基本法、仮称)の取りまとめをはじめ、官民双方において推進の気運が高まってきている。
しかし、バブル崩壊後の長期経済低迷と景気回復に向けた諸施策や減税等のため、財政収支は著しく悪化しており、2000年度当初予算を前提とすると、2000年度末には、国・地方を合わせた長期債務残高は645兆円、GDP比約130%に達する見込みである。また、将来にわたる安定的な運営に深刻な疑問が寄せられている年金、医療保障をはじめとする社会保障制度の抜本改革も、未だ手付かずの状態にある。
日本経済は財政において巨額の負の遺産を抱え、しかも社会保障制度についても明確なビジョンを欠いたまま、21世紀を迎えることになる。
こうした中、21世紀初頭を展望した際、最も懸念される問題は、世界に例を見ない急速な少子高齢化の影響である。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、老年人口(65歳以上人口)の生産年齢人口(15~64歳人口)に対する比率、いわゆる老年人口指数は、2000年の25.3%から2025年には46.0%に上昇すると見通されている。
少子高齢化の進行は、図表第1に示すように、経済社会のさまざまの局面に影響を及ぼすが、基本的に、経済成長率の鈍化、財政事情の悪化、社会保障負担の増嵩等を通じ、国民負担率の上昇を招くことが懸念される。
構造改革の必要性
国民負担率の上昇は、図表第2に示すように、経験的に見て経瑳齔瘤�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就粐吾剛羈更經抗⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤嘗と明らかに逆相関の関係にある。国民負担率の過度な上昇は、貯蓄率の低下、労働供給の減少、クラウディング・アウト等を通じて、経済活力の減衰につながる惧れが高い。
財政収支の改善を図る観点からの増税論も根強いが、その場合にあっても、90年4月の臨時行政改革推進審議会の最終答申以降、国民的コンセンサスとなってきた国民負担率50%以下への抑制という目標は安易に変更すべきでない。
われわれが目指すべき道は、(1) 生産資源の有効活用により最大限の経瑳齔瘤�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就禮晃弦綏娯羂⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤召鯆謬瓩垢襪箸箸發法�(2) 国・地方を合わせた歳出の合理化・効率化・重点化、社会保障給付の適正化を通じ「小さな政府」の実現を図り、併せて、(3) 経済成長に対する悪影響が最も小さな税・社会保障負担の組合せを実現する等、一連の構造改革を推進し、国民負担率の上昇を可能な限り抑制することである。
こうした構造改革のあり方について、経団連では、各分野毎にそれぞれ提言を重ねてきた。その基本的な方向は以下の通りである。
もちろん、どのような構造改革を行うにしても、出生率の低下に歯止めがかからなければ、国民経済の破綻は避けることはできない。21世紀を見通した場合、少子化対策が最も重要であることは言を俟たない。経団連では、意見書『少子化問題への具体的な取り組みを求める』(99年3月)において、保育制度の充実・見直し、職住接近の都市づくり、父親の家事・育児参加等の具体的な取り組みを提案したところであるが、下記の構造改革と併せて、政府、企業、地域・家庭がそれぞれの立場から、少子化対策を粘り強く進めていく必要がある。
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少子高齢化の進行にもかかわらず、日本経済は、2025年まで2.7%程度の潜瑳齔瘤�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就祓劫険繙元羝御後⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤召鰺④靴討い襦�海譴鮗存修靴討い�燭瓠�洩韻��呂靴董�(1) 高齢者や女性の雇用機会の拡大、専門的・技術的分野等における外国人労働者の積極的活用をはじめとする労働力人口の確保、(2) 資本効率の改善、金融資本市場の一層の整備を通じた設備投資の促進、(3) IT革命の推進、規制改革等による非製造分野を中心としたTFP(全要素生産性)の上昇促進等の方策を総合的・戦略的に展開していく。
詳細は経団連意見書『少纂齔瘤�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就憾堰訓過斡蓋戟卦吟鯵衣姥傾涯吟傑吟祁祁傑吟祁吟芦宛橋違訓⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤樟鑪�粒領�妨�韻董�(2000年5月)を参照。
歳出構造改革
国・地方を通じた歳出抑制に向け、聖域を設けることなく施策・制度の効率性・有効性等を徹底して見直すとともに、民営化・アウトソーシングや行政の情報化(電子政府、電子自治体)の推進等により、歳出の一層の合理化・効率化を進める。同時に、IT革命の推進等、首鞜�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就霞唄宴井唄井怯金圧倶渦⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿齔瘤樟鑪�慙△了楮�砲禄電静�僕住擦鯒枴�垢襦�
詳細は経団連意見書『自立自助を基本とした地方財政の実現に向けて』(2000年4月)を参照。
社会保障制度改革
自助努力と社会保障の適切な役割分担、年金・高齢者医療・介護保険の相互補完・代替関係も考慮した総合的・効率的な給付の実現等により、少子高齢化の下でも持続可能で、現役世代・将来世代の負担が過重とならない社会保障制度を確立する。
税制改革
高齢化に対応し、公平・中立・簡素の原則に「活力」の原則を加えた税制を整備する。
税や社会保険料の負担は、これが課せられなかった場合に比べ、各個人や企業の行動を歪め、経済全体に非効率を生じさせる。経団連の推計によれば、同額の社会保障財源を調達するとした場合、図表第3に示すように、間接税の方が、所得課税や社会保険料(労使折半)より、経済に与える悪影響が小さい。
一般に、財政や社会保障の財源調達方法は、課税ベースの違い、所得捕捉の問題、未納・未加入の問題、財源の使途等を総合的に勘案して、複数の税目や社会保険料を適切に組み合わせていく必要がある。しかし、現在のところ、直接税・社会保険料に過度に偏っている。したがって、税と社会保険料の適切な機能分担を踏まえ、税制については、インボイス方式の導入、簡易課税制度の見直しによる「益税」の排除、さらには、複数税率化、内税化等の制度整備を進めつつ、直間比率を是正する。また、国際競争力の維持・強化の観点から、法人税率をさらに引下げるとともに、個人所得課税については、課税最低限の引下げを図りつつ、累進税率構造の緩和を推進する。
詳細は経団連意見書『平成13年度税制改正提言』(2000年9月)を参照。
課税または保険料徴収の方法 | |||
税収 (保険料収入) | 所得課税 | 社会保険料 (労使折半) | 消費税 |
10兆円の場合 | 787億円 | 127億円 | |
20兆円の場合 | 3254億円 | 512億円 | |
30兆円の場合 | 7579億円 | 1157億円 | |
40兆円の場合 | 1兆3974億円 | 2069億円 | |
50兆円の場合 | 2兆2696億円 | 3249億円 |
97年の6大改革の経験
各分野における構造改革の基本方向は上記の通りであるが、これを、どのような目標の下に、どのようなスケジュール・組合せで実現していくかが問われている。
この問題を考えるに当たって、参考となるのは97年の6大改革の経験である。
97年に開始された6大改革(行政・財政構造・社会保障構造・経済構造・金融システム・教育)は、本格的な構造改革の先駆けと位置づけられる。一連の改革の内、金融システム改革については98年12月に「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」(金融システム改革法)が施行された。行政改革についても新しい省庁体制が2001年1月から実現される。
反面、財政構造改革は、97年11月に「財政構造改革の推進に関する特別措置法」(財政構造改革法)が成立したが、98年5月には目標年次の変更等を余儀なくされ、同年12月には、施行が停止された。また、社会保障制度改革についても未だ抜本改革に着手するに至っていない。
財政構造改革に即して検証すると、挫折の原因として以下の3点が挙げられる。
求められるグランドデザイン像
わが国の財政状況は、既に先進国中最悪と言うべき危機的状況にあり、国債の評価にも一部変化が現れてきている。しかも、今後の金利動向によっては、利払費が急速に拡大し、財政の硬直化が極めて深刻化する惧れがある。今後とも発生する様々な財政需要に適切に応えうる財政構造を構築していく必要性を考えれば、2001年度予算編成においても、中長期的な歳出構造改革の基本的な考え方を踏まえ、個別の施策・制度の効率性・有効性を徹底して見直し、歳出の一層の効率化・質的改善を図る必要がある。
そのような観点からは、今般の与党三党による「時のアセス」を活用した公共事業の抜本的見直しに関する合意は重要な第一歩であり、政府においては、中止を前提に見直しを徹底し、実効ある事業の選別を行うべきである。さらに、公共事業費にとどまらず、他の経費についても根底から同様の見直しを行うことが求められる。
また、2001年1月から、中央省庁等改革による新省庁体制が発足し、2001年度予算は新体制での初の満年度予算になる。各省庁から提出された概算要求では、省庁統合等による施策の融合化・効率化の効果が必ずしも明確となっていないが、予算編成においては、公共・非公共の留保枠も活用し、その効果を国民に明確に示すことが求められる。
一方、現下の経済情勢を見ると、景気は緩やかに改善を続けているが、個人消費の動きは未だ力強さにかけ、業種や地域では依然としてバラつきがある。このような中、政府では、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、21世紀の新たな成長基盤を確立するため、経済対策の取りまとめを急いでおり、近くこれを受けた2000年度補正予算案が国会に提出される予定である。
このような状況を踏まえれば、2001年度予算は、質的改善を進める一方、公共事業、非公共事業を通じ、2000年度当初予算と同規模とすることは妥当である。
さらに中長期な観点に立てば、財政状況の改善は、将来にわたるわが国の安定的釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就怨梶鬼球外求卸⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩と税源の涵養が前提となることは明らかである。したがって、限られた財源の中でも、釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就窿羈聰絽羈絽原吾絏幻羌羝矣鹸高弦盖⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩の構築に真に必要な施策には特段の予算措置が求められる。概算要求では、各省庁とも、日本新生プランに掲げられた重点4分野について要望・要求を打ち出しているが、予算編成においては、これらを厳しく精査し、経済社会の新生に特に資する施策に公共事業を重点化するとともに、非公共事業についても、新産業創造の観点を踏まえた人材育成や科学技術等に資する施策に重点的に予算配分を行う必要がある。
2001年度予算編成に関する基本的考え方は上記の通りであるが、特に主要歳出分野である社会保障、公共事業、地方財政については、下記のような制度改革・歳出合理化が望まれる。
社会保障
公共事業
わが国の公共事業の対GDP比は他の先進諸国と比較して極めて高い水準にある。社会資本の整備状況の遅れを考えると、やむを得ない面もあるが、厳しい財政状況の中で、公共投資をこのような水準で維持できないことは明らかである。したがって、公共事業予算の策定に当たっては、高度情報通信ネットワークの整備について民間に委ねるべきは民間に委ねる等、社会資本整備における官民の役割分担を踏まえ、経済社会の発展、国民生活の向上のため、国・地方が真に関与すべき社会資本整備の範囲に限定すべきである。特定地域への所得移転、雇用の確保等は、必要な場合であっても、社会保障・社会福祉など他の施策をもって行うべきであり、これを公共事業に期待することは厳に慎む必要がある。
その上で、公共事業については、以下の通り、事業の選別、コスト削減を通じ、効率化・合理化を推進すべきである。
地方財政