地方公共団体の財政収支の悪化は著しい。地方税収は経済の長期停滞により低迷しているが、歳出は景気対策として公共事業が拡大されたこと等もあって拡大を続けている。93年度の水準を100とすると、2000年度の地方税収は101にとどまっているのに対し、歳出は116にまで膨張している。この結果、2000年度の地方債発行額は11兆円、2000年度末の地方借入金残高は187兆円に達する。
しかも、過去に発行した地方債の償還や高齢化の進行により、歳出圧力は今後も増大する見通しである。
地方財政収支の悪化は、国の財政に深刻な影響を及ぼしている。2000年度末には38兆円に達する交付税特別会計の借入金の償還の一部は、国が負担する。地方債償還の相当部分も、国が地方交付税交付金で負担せざるをえず、国の歳出の一層の硬直化は避け難い。
国と地方の長期債務残高合計は、2000年度末で645兆円、対GDP比129.3%となっており、わが国財政は危機的状況にある。
負担と給付の地域格差も深刻である。住民一人当たりの地方税収は大都市圏が地方圏を大きく上回っているが、一人当たりの歳出は大都市圏が地方圏を下回っている。地方税収に対する歳出の比率は、都道府県レベルでは、最大と最小の間で約6倍の差が見られる。
これらの問題が発生する構造的要因の一つとして、地方行政体制の規模の問題が挙げられる。
予ねてより、地方公共団体が細分化されているため、歳出について規模の経済性が図れず、効率化・合理化が進まないだけでなく、歳入も不安定となる傾向が指摘されてきた。
物流・人流の範囲拡大や近年の情報化・ネットワーク化の飛躍的な進展に伴い、社会生活・経済活動が広域化しているにもかかわらず、地方公共団体の合併は進捗せず、経済社会の実態と地方行政体制の乖離が拡大してきている。そもそも住民自治意識が根づいていると言い難い風土の中で、両者の乖離の進行は、住民の地方公共団体への帰属意識を一層希薄にし、住民による地方公共団体に対するチェックとコントロールを弱体化させている。
国と地方公共団体との財政的関係も、地方財政収支の悪化の一因である。国と地方公共団体の歳出の比率は2対3であるのに対し、税収は3対2であり、国から地方公共団体へ、地方交付税交付金、国庫支出金等として財政配分が行なわれている。このことが、地方公共団体における受益と負担の対応関係を不明確とし、歳出の構造的な膨張を招いている。
国から地方への財政配分の過程で、地方交付税交付金により、財源の地域偏在の是正が行われている。国庫支出金等も同様の効果をもたらしている。財源調整は、一部の地方公共団体について負担と受益の対応関係をさらに不明確とし、財政規律を一層弛緩させている。
また、地方交付税は、いわば差額補填的な補助金であるため、地方公共団体の地域振興等を通じた財源涵養意欲を減殺している。
こうした中、地方分権推進法・地方分権一括法の制定、2次にわたる地方分権推進計画の決定等、地方分権に向けた取り組みが加速化している。
地方分権改革は、地方公共団体の事務を、国の委託により地方公共団体が処理する法定受託事務(国政選挙、旅券の交付、国道の管理等)とそれ以外の自治事務(都市計画の決定、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可等)に区分し、行政責任の所在を明確にするものとして評価できる。
しかし、地方分権改革について、以下のような問題点も指摘せざるをえない。
受皿論の検討の回避
経済社会の変化に対応した、自立可能かつ効率的な組織実現に向けた、地方公共団体の再編成については、検討されていない。
国と地方を通じた行政改革という視点の欠如
今回の改革においては、経費負担についての検討を先送りしたため、国と地方公共団体との間の事務権限の帰属をめぐる争いに終始した。この結果、国と地方を通じた行政事務総体は縮減されていない。
国と地方を通じた財政構造改革という視点の欠如
国から地方への権限委譲を進める以上、地方公共団体の税財源の拡充が必要との議論が先行している。しかし、わが国財政は危機的状況にあり、地方分権改革も国と地方を通じた財政構造改革と表裏一体のものとして推進していく必要がある。したがって、住民のチェックとコントロールを最大限活用して、歳出・歳入両面の構造改革を図ることが強く求められているにもかかわらず、この点についてのコンセンサスは未だ形成されていない。
地方財政改革の目標は、
会計システム改革とこれを通じた歳出構造改革
歳入構造改革
財源調整については、極端に税源に乏しい地方公共団体に限定し、新たな国庫支出金により実施する。道州制導入の場合は、当該道州域内の基礎的自治体の共同税により実施する。
以上述べてきたことは、あるべき姿の一つである。
国と地方を通じた財政構造改革を推進する観点から、この提言も踏まえ、地方財政改革のあり方についてコンセンサスの形成を急ぐとともに、既に交付税特別会計に発生している巨額の借入金の処理や既発の地方債の償還も含め、地方財政改革の道筋・スケジュールを明確化することが強く望まれる。そのため、国と地方を通じた財政構造改革のプログラムを企画・立案し、その実施状況を監視する推進機関のあり方についても検討する必要がある。
当面は、以下のような施策の実施を急ぐべきである。