経団連タイムス No.3057 (2011年9月29日)

日本知的財産協会から「WIPO Green」について聞く

−知的財産委員会企画部会


経団連の知的財産委員会企画部会(広崎膨太郎部会長)は26日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、日本知的財産協会(JIPA)の川村裕一郎常務理事、土井英男事務局長から、現在、JIPAが世界知的所有権機関(WIPO)と連携して実現に向けた取り組みを進めている環境技術移転のための枠組み「WIPO Green」について説明を受けた。概要は次のとおり。

1.WIPO Greenの経緯

近年、地球温暖化対策の一環として、途上国への環境技術の移転が課題となっており、1992年の気候変動枠組条約においては先進国の支援義務としてうたわれた。しかし現状は、さほど進展していない。途上国側からは、先進国の知財こそがその元凶であり、環境技術に関する特許は無償で誰でも使えるようにすべきとの主張がなされている。こうした考え方は、明らかに事実誤認であるが、事態打開のためには、先進国側から環境技術移転を促進するための具体的で建設的な提案をすることも必要である。

そこでJIPAでは、知財を適切に保護しながらビジネスベースで技術移転を促進できる枠組みとして「Green Technology Package Platform(GTPP)」構想を取りまとめた。この構想の基本的な考え方は経団連の提言(注)の中でも、「知財を活用した国際貢献プラットフォーム」として期待が表明されている。

その後JIPAでは、WIPOとも連携し、実現に向けた具体的な取り組みを進めてきた。その過程で、名称は「WIPO Green」と改めた。WIPO Greenは、9月のOECDの国際フォーラムでも発表され、その構想力に高い評価が得られた。

(注)「イノベーション立国」に向けた今後の知財政策・制度のあり方(2010年3月)
イノベーション創出の加速化に向けた知財政策・制度のあり方(2011年4月)

2.WIPO Greenの概要

WIPO Green の基本的な枠組みは、主に先進国の企業等が有する環境技術の情報をデータベース(DB)に蓄積し、主に途上国の企業等がこれを閲覧し、必要に応じて提供側とビジネスベースで交渉するものである。DBはWIPOが運営する。WIPO Green の主な特徴は次のとおり。

(1)実効的な技術移転の実現

環境関連の特許や商品の情報をDBに蓄積する取り組みは、すでに幾つか存在しているが、技術を導入したいと思う側に技術力やノウハウが不足している場合には、例えば特許情報のみでは技術移転を促進することはできない。一方、WIPO Green は、特許情報のみならずノウハウ、製法、人的役務支援等を含めたパッケージとしているため、実効的な技術移転の実現が可能。

(2)国際機関による運営

WIPOという国連機関が運営する公平性・信頼性あるDBとして、国際的な認知度を高めることが可能。あわせて、WIPOと他の国連機関とのネットワークも活用でき、世界中から多くのニーズ情報を取得することも可能。

(3)契約面での取引支援

WIPOでは、WIPO Green を利用する際の契約の「ひな型」を作成する予定であるが、中立的な立場の国際機関が推奨するものであることから、途上国側からも合意が得られる可能性が高まる。

3.今後の課題

今後 WIPO Green が、より実効的な枠組みとなるためには、技術移転を支援する制度や金融機関との連携を行っていくことが有効である。

特に、途上国の企業等には、技術移転の対価を支払う資力に乏しい場合があるが、例えばアジア開発銀行の提供する取引保証制度による支払いの救済、排出権取引制度との連携、ODA資金の利用等が可能となれば、さらなる技術移転の促進につながると期待される。

◇◇◇

WIPO Green は今年7月のWIPO気候変動会議でDBの設立が宣言され、今月22日からDBのスペックが公開となっており、すでに技術情報の掲載が可能な状況となっている。今後は各国の動向が注目される。

経団連では、WIPO Green を通じた経済合理性ある環境技術移転がさらに促進されるよう、今後もJIPAと連携していく予定である。

【産業技術本部】
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