日本経団連の情報通信委員会(渡辺捷昭委員長、清田瞭共同委員長)と電子行政推進委員会(秋草直之委員長)は6日、東京・大手町の経団連会館で合同会合を開催し、中央大学法科大学院の森信茂樹教授から納税者番号制度に関する説明を聞き、電子行政の基盤となる番号制度について意見交換した。森信教授の説明概要は次のとおり。
現在、納税者番号制度導入の機運がかつてないほど高まっている。納税者番号制度とは、納税者の識別や本人確認を、番号を使って効率的に行う仕組みである。番号を使うことにより、税務当局は、大量の情報をコンピューターを使って効率よく名寄せやマッチングできるようになり、納税者の所得情報をより的確に把握することが可能となる。
同制度の導入により、世帯単位の所得を合算することも可能になり、国民の利便性を高めるような政策手段の選択肢が飛躍的に広がる。例えば、(1)中低所得者世帯に対して一定額の税額控除を与え、控除し切れない額は還付(社会保障給付)する「給付付き税額控除」(2)株式譲渡所得・配当所得・利子所得を一体化し、分離課税・同一税率・損益通算する「金融所得一体課税」(3)税務当局があらかじめ把握している情報を納税者の申告書に記載し、納税者が内容を確認することで申告を終了させる「記入済み申告制度」(4)e‐Taxと組み合わせた「自主申告制度」――などが可能になる。
わが国の既存の番号では、「住民票コード」と「基礎年金番号」が活用可能である。住民一人ひとりに付番され、根拠法があるなど、住民票コードの方がより信頼性が高い。本人にも番号を知らせず、カードに本人識別情報を埋め込むべきという議論もある。番号にするのか、カードにするのか、はっきりと決めないと議論が進まない。
納税者番号の議論では、プライバシーに対する懸念が提起されてきた。情報プライバシー権を基本法で明らかにし、人権として確立するとともに、プライバシー情報の検査権を付与した公的機関を設置するなど、プライバシーが確保されるような政策を包括的に実施すべきである。
続く意見交換では、「番号を導入する環境は整った。早急に導入すべき」という意見が委員から相次いだ。「信頼できるのは住民票コードだが、現在のように市区町村がそれぞれ管理するのではなく、国が管理するべきではないか」という委員の意見に対しては、森信教授から「番号をつくった国と、ユーザーである市区町村が融合するかたちで議論する場が必要である」とのコメントがあった。「電子行政をどういうかたちで進めていったらよいか」という委員の質問に対しては、「番号の用途が多様になればなるほど、国民にプライバシーが侵害されるという不安感が出てくる。まずは用途を限定して導入し、小さく生んで、大きく育てるアプローチが現実的なのではないか」とのコメントがあった。
当日は、提言案「ICTの利活用による新たな政府の構築に向けて」を審議し、委員会として承認した。同提言案は、17日の理事会における審議を経て公表された。(別掲記事参照)