日本経団連タイムス No.2869 (2007年7月26日)

東北地方経済懇談会開く

−「創造的改革を推進し、民間と地域の活力を引き出す」基本テーマに


日本経団連(御手洗冨士夫会長)と東北経済連合会(東経連、幕田圭一会長)は19日、仙台市内で第40回東北地方経済懇談会を開催した。同懇談会には、御手洗会長はじめ副会長ならびに常務役員、東経連会員など約250名が参加。「創造的改革を推進し、民間と地域の活力を引き出す」を基本テーマに、東北産業経済の競争力強化や広域観光事業の展開、国際交流事業への取り組み、社会資本の整備などの諸課題について意見を交換した。なお、御手洗会長と幕田会長はそれぞれのあいさつの冒頭で、16日に発生した新潟県中越沖地震の被災者に対し心からのお見舞いを述べるとともに、復旧活動への経済界の積極的支援を表明した。

東経連の幕田会長は、開会あいさつで、まず、東北地方の景況について触れ、緩やかな景気回復傾向が続いているものの、地域間・業種間の景況感格差が依然として残っており、その背景には産業の集積度合が薄いなど、産業基盤の脆弱さがあると指摘、新産業の創出や企業競争力強化に向けた活動をさらに推進していかなければならないと述べた。また、東北の大きな課題の1つとして、若年者の流出による少子・高齢化の急激な進行を挙げ、課題解決のため、中長期的視点から東北地域の経済基盤強化に向けて産学官連携による地域産業の競争力強化や、経済波及効果が広く期待される観光産業などへの取り組みを強化していると説明した。
幕田会長はさらに道州制について言及し、道州制は、地方分権の一層の推進、地方の自立と分権型社会の形成の高まりを背景としたものであり、避けることはできないとの考えを示した。

続いてあいさつした御手洗会長は、幕田会長の発言を受けて、地域間格差に関しては、国民に豊かさを実感してもらうためにも、地域の自立と活性化を基軸とする効率的な施策を早急に打ち出していく必要があることを強調。各地域がそれぞれの特色を活かしつつ、自らの責任と権限の下に広域経済圏の創出をめざして取り組むことが地域の人々の活力を引き出し、日本全体の活力の向上につながるとの考えを示した。その起爆剤となる道州制についての議論を進めることは、国民を巻き込んで「究極の構造改革」を進めることにほかならないと述べた。

■活動報告

活動報告ではまず、日本経団連側から前田晃伸副会長が、規制改革・行政改革への取り組みについて、5月に提言「規制改革の意義と今後の重点分野・課題」を発表し、政府の規制改革会議の「第1次答申」への意見反映を図ったことや、14分野205項目からなる「2007年度日本経団連規制改革要望」をまとめ政府の集中受付月間に提出したことなどを紹介。続いて古川一夫副会長が、世界最先端のICT国家構築に向けて、(1)今年4月に「世界最先端の電子行政の実現に向けた提言」を策定し、めざすべき電子行政のビジョンとその実現のための具体策を提案した(2)産学連携による高度情報通信人材育成を行う拠点として指定した2大学に今年4月から産業界のニーズを踏まえた大学院のコースを新設した(3)「安心・安全なインターネット社会の構築」のため国際連携による貢献を進めている(4)「情報通信産業の発展」について国際競争力強化の観点から検討している――と報告した。
また、渡文明副会長が、企業倫理の徹底とCSRの推進に関して、今年4月に日本経団連の「企業行動憲章・実行の手引き」<PDF> を3年ぶりに改訂し、独禁法の順守の項目を書き改めたことや、インサイダー取引の防止の項目を新設したこと、ワーク・ライフ・バランスを推進する観点から従業員が育児や学校教育への参加を支援することを盛り込んだことなどを説明した。

東経連側からは、まず西井弘副会長が地域産業の競争力強化に向けての活動について、(1)東経連事業化センターで「マーケティング・ビジネスプラン支援事業」「産学マッチング事業」を実施するとともに実践的人材育成事業に取り組んでいる(2)東経連がかかわって設立したインキュベーションファンドと東北グロースファンドは、順調に投資を進めている(3)「とうほく自動車産業集積連携会議」の活動に対し、関連産業集積促進のため企業誘致などの面で協力していく――と報告。丸森仲吾副会長は、東北の広域観光戦略の一環として、6月に「東北観光推進機構」を立ち上げたことを紹介し、同機構を主体に、東北の認知度・満足度の向上、大都市や東アジアを中心とする海外からの誘客を柱に、実効ある活動を展開していくと述べた。
また、中国ビジネス支援と国際物流戦略の推進については、佐々木恭之助常勤副会長が、(1)中国東北地方との経済交流促進に向けて「中国ビジネス研究会」を組織し中国経済の現況について会員に情報を提供している(2)今年3月に大連市を中心に「現地セミナー」を開催した(3)今年3月に提言書「東北における戦略的国際物流体系の構築に向けて」を取りまとめた――と説明した。

エネルギー問題などで意見交換

■自由討議

自由討議では、東経連側から、(1)東北企業の安定経営のために、エネルギー・資材の安定供給の確保、代替エネルギーや資材の開発を進めていかなければならない(2)労働力人口の減少による影響をできるだけ少なくするため、経済界は、若年者の就労支援強化と高齢者が支え手となる社会の構築を図るとともに、子どもを生み、育てやすい環境を主体的に提供する必要がある(3)環境問題ではわが国が国際的な枠組みづくりを主導するとともに、関連技術・人材の供給面でも積極的に取り組んでいく必要がある(4)道州制の導入に当たっては、その前段階で極力地域間格差を解消する仕組みを考えることが必要である(5)新潟での「日中経済会議」やミッションの派遣で日中経済交流に取り組んでいく(6)高速交通ネットワークの充実でアジア・ゲートウェイ機能を強化し、地域活性化を図りたい――などの意見表明があった。

これらに対し、森田富治郎副会長、張富士夫副会長、前田副会長、渡副会長より、(1)指摘のとおり、民間として先進的省エネ技術の開発や省エネ製品の普及に努め、エネルギー源の多様化と供給源の多角化を図る必要がある(2)日本経団連としても意欲と能力のある若年者が就労の機会を得られるように労働市場のマッチング機能を高めることや、仕事と育児を両立できるよう企業が社内インフラを整備することが必要だと考える(3)実効ある温暖化対策として技術開発がカギとなるという指摘には同感であり、そのための産官学の連携や国際協力が重要である(4)経済活性化が遅れている地域の取り扱いや道州間の財政調整のあり方などの具体的課題を検討し、道州制導入に向けた日本経団連の「第2次提言」を来秋には取りまとめたい(5)日中間のさまざまな分野の交流強化にとって、国交回復35周年の今年はチャンスであり、相互理解の基本としての人材交流をさらに進めていくべきである(6)仙台、新潟といった地方の主要港を重点的に整備し、これらを中心に戦略的物流体系を構築することが肝要と考える。地域が自立した経済圏を構築する上で、高速交通ネットワークの充実は必要不可欠である――など、日本経団連の考えを説明した。

御手洗会長は総括で、(1)地域経済活性化のためには、広域経済圏を創出することが要であり、「東経連事業化センター」が設立後、短期間で成果を上げたことに感銘した。また、地域経済活性化のためには道州制の導入が不可欠であり、引き続き世論を喚起していきたい(2)少子化対策は長期的課題であるが、企業はできるところからすぐに取り組むべきであり、経済界は応分の社会的責任を果たす必要がある――などと述べた。

◇◇◇

なお、懇談会に先立ち日本経団連首脳は、ナノテクノロジーで高品位のフォトニック結晶(誘電率が周期的に変調を起こした人工結晶)を製造し、物質の歪み解析や表面凹凸検出のための光学製品などを提供している、フォトニックラティス社(仙台市)を視察した。

【総務本部総務担当】
Copyright © Nippon Keidanren