日本経団連は9日、「わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて〜エネルギー安全保障を中心に〜」を発表した。
現在、エネルギー需給の構造的な逼迫、中国による権益確保やロシアの国家管理強化にみられる資源の政治性の高まり、エネルギー問題と環境問題の一体的解決の必要性の増大などにより、エネルギー問題に対する関心が世界的に高まっている。このような状況下で、わが国でもエネルギー戦略を再構築することが急務になっている。政府は今年秋のエネルギー基本計画見直しに向けて議論を進めているほか、自由民主党においてもエネルギー戦略の策定に向けた検討が行われている。こうした内外の動きに合わせ、同提言では、エネルギー戦略の確立に向けた産業界としての考え方を取りまとめた。概要は次のとおり。
エネルギー戦略は国家安全保障に直結する戦略であり、長期的な視点や関連省庁・自治体の連携が不可欠である。省庁の縦割りや国と地方の壁を打破する政治の力が必要となる。また、計画の実効性を高めるためにPDCAサイクルを継続的に循環させる仕組みが重要である。
各国が国を挙げてエネルギー権益の獲得をめざす状況下において、わが国としても、官と民がそれぞれ担う役割を明確にして戦略的に連携し、国としての総合力を強化する必要がある。
エネルギーの安定供給を実現するためには、原子力、化石エネルギー、再生可能エネルギーなど、おのおのの特性を踏まえたベストミックスをめざすべきである。その際、特に、資源に乏しいわが国としては、準国産エネルギーとして安定供給にも環境にも優れた原子力を基幹に据え、官民が一体となって原子力活用を着実に推進していく必要がある。
資源・エネルギー問題や地球環境問題への貢献を、わが国外交の重要な柱の1つとして位置づけ、経済力や技術力を駆使して、エネルギー資源の争奪ではなく協調の流れを作り出すことにイニシアティブを発揮するべきである。具体的には、資源保有国との間のFTA・EPAの推進やODAの実施による関係強化を図り、また、アジア域内のエネルギー問題を包括的に協議するような場、アジア版IEA(仮称)のような機関の設置も検討すべきである。
わが国にとってエネルギー・環境関連の科学技術は、国内の需給構造を強化する観点、戦略的な外交を展開し、国際貢献を果たす観点の両面から最も重要な要素である。今後のわが国経済の発展を支える重要な糧として、超長期のロードマップを視野に入れつつ、短期的なシナリオを見通して戦略的な開発を進める必要がある。
原子力については、安全性の確保を大前提として積極活用を進め、原子燃料サイクルの確立などに取り組む必要がある。化石エネルギーは、今世紀においても引き続き重要なエネルギー源であり、技術開発等を通じて地球温暖化への対応を図りながら、今後も有効に活用していくべきである。再生可能エネルギーに関しては、いまだ解決すべき課題が多いものの、長期的視点に立って計画的に推進すべきである。
わが国は、既に世界最高水準の省エネ国家となっているが、技術開発やICTの利活用等によってさらにエネルギーの効率的な利用を高めていくべきである。また、省エネ型社会を実現するよう都市、交通といったインフラ面での整備やサマータイムの導入も検討すべきである。国内エネルギー関連制度については、資源開発に向けたリスクマネーの供給機能の強化や石油代替エネルギー法の見直しが必要である。
エネルギー問題に関する正しい理解を教育の早い段階から始めることは、人材育成や民生部門における省エネ型社会の構築にも不可欠である。また、社会へのエネルギー関連広報はエネルギー戦略のPDCAサイクルを円滑に循環させる要素である。