日本経団連は3月22日に報告書『企業価値の最大化に向けた経営戦略』を公表した。同報告書をまとめた経済政策委員会(井口武雄委員長)は、過去3年間、企業における経営戦略のあり方を検討してきた。2003年度は製造業の企業戦略、04年度は非製造業の活動に焦点をあてた報告書を取りまとめ、05年度は集大成として、「企業価値の最大化」という観点から検討を行った。
企業価値をめぐっては盛んな議論が行われているが、「企業価値の最大化に向けた経営戦略の有効性」について、客観的な検証が十分行われているとは言えない。そこで、1600社以上の財務データや株価データ、日本経団連の会員企業へのアンケートをもとに、各社の経営戦略と「企業価値」の関係を統計的に分析した。企業価値の大きさは、短期的な変動を除く株式時価総額で測った。
最初に「当面の業績に直結する経営戦略」が、企業価値の増大につながっているかどうか調べた。その結果、収益力(売上高経常利益率の上昇)、成長力(売上高の伸び)、健全性(利払い費の減少)、株主への還元(配当性向の高さ)は、いずれも確実に企業価値を高めていることが再確認された。
これらの「当面の業績改善に直結する経営戦略」によって、企業価値の大部分は説明できる。しかし実際は、当面の業績だけでは説明しつくせない、いわば「企業価値のプレミアム」を生み出している企業もみられる。図表1のとおり、「現実の企業価値」と、各社の業績から説明できる「企業価値の理論値」との関係はおおむね比例しているが、企業ごとのバラつきも少なくない。
この「企業価値のプレミアム」を説明する要素として、次に、中長期的な経営戦略に着目し、日本経団連の会員企業を対象に「競業他社よりも進んだ取り組みを行っているかどうか」をアンケート調査した(306社より回答)。
このアンケート結果を活用して、各社の中長期的な経営戦略と「企業価値のプレミアム」の関係を分析したところ、図表2のとおり、優秀な人材の育成、研究開発、経営理念や企業倫理の明確化・徹底、情報開示、女性などへの雇用機会提供、環境負荷の軽減などへの取り組みが、「企業価値のプレミアム」を生み出していることが明らかになった。
また、消費者や取引先・調達先、社会など多様なステークホルダーを重視する経営戦略は、企業価値に対して中立的である。業績改善を通じて企業価値を押し上げているケースや、プレミアムにつながっているケース(環境負荷軽減など)とあわせて考えれば、「株主と多様なステークホルダーの利害は対立する」という見方は一面的であり、むしろ共存共栄の関係にあることがうかがえる。
なお、企業倫理を徹底し、社会的良識をもって経営に取り組むことは、企業活動を行う上での大前提である。企業実体の改善を怠りながら、法律に違反して、あるいは法律の網の目をかいくぐって株式時価総額の引き上げを図った最近の事案は、およそ経営戦略とは呼べない。社会からの信頼と共感を前提とした、地道な経営戦略の積み重ねこそが、株式時価総額の安定的な上昇、企業価値の実質的増大につながることが、この報告書で改めて確認されている。