日本経団連(奥田碩会長)は11日、「企業買収に対する合理的な防衛策の整備に関する意見」をとりまとめて発表した。同意見書は、企業価値を毀損するような買収に対する懸念が近年高まっている一方、日本には欧米で認められているような合理的な企業防衛策がないことから、日本においても、合理的な企業買収防衛策を早急に整備するよう求めている。日本経団連では今後、同意見書に基づいて、政府や与党等に働きかけを行っていくこととしている。同意見書の概要は次のとおり。
経済構造の転換と、企業の事業活動の「選択と集中」の円滑化の観点から、合併や会社分割等の組織再編関連法制・税制の整備が進められてきた。また、日本政府は1994年に、対日投資会議を設置して対日直接投資の促進に努めてきた結果、投資残高は着実に増加している。
こうした中で、近年、株式持ち合いの解消や、株式市場の低迷による時価総額の低下等を背景に、企業価値を毀損するような企業買収への懸念が高まっている。
現在、法務省の法制審議会会社法(現代化関係)部会では、合併等の対価を柔軟化し、合併等の際に親会社株式等を対価とできる方向で検討を行っている。
これによって、子会社と買収対象会社を合併させ、子会社株式を子会社の株主に与える代わりに、自らの株式を与えるという買収の手法、いわゆる「三角合併」が可能となる。
三角合併においては、現金を負担することなく、100%子会社化することができるため、企業価値を毀損する買収に対する懸念がますます高まることとなる。
企業買収には、経営者に緊張感を与えるとともに、効率的な経営を促すという側面もある一方、企業の長期的利益にコミットしていない買収者が、自らの短期的利益の追求を図ることによって企業価値が損なわれたり、株主や従業員、地域社会等に大きな不利益を及ぼす場合もある。
具体的には、(1)長期的利益の源泉となる人的資産の解体や事業部門の切り売りが行われる (2)従来の雇用慣行の継続性が損なわれ、経済社会に重大な悪影響を及ぼす (3)株主の情報不足を利用して売り急ぎを煽ったり、買い集めた株式を安定株主等に高値で買い取るよう迫る行為が行われる――などといったことが考えられる。
企業価値を毀損する買収について、米国では、買収者以外の株主に議決権を与える、いわゆる「ポイズン・ピル(常備薬)」をはじめとして、さまざまな防衛策が整備されており、具体的な事例の積み重ねにより、一定の評価が定着している。
欧州においても、1株に複数の議決権を与える制度や、一定の株式の議決権を制限する株式制度等がある。
他方、わが国では、1996年の対日投資会議において、企業買収に対する防衛策のあり方を多面的に検討する必要があるとされたにもかかわらず、いまだに合理的な防衛策が整備されていない。
わが国においても、引き続き対日投資を歓迎する一方で、企業価値を毀損する恐れのある買収に対して一定の歯止めを設け、国際的なイコール・フッティングを実現する観点から、会社法制の現代化とあわせて、企業買収に対する合理的な防衛策を早急に整備すべきである。