一般社団法人 日本経済団体連合会
【トランプ関税】
〔トランプ米大統領が相互関税を発表したことにより世界経済が混迷の度を深めていることについて問われ、〕トランプ米大統領による一連の措置は、日米の経済関係だけでなく、世界経済や自由貿易体制に深刻な影響を及ぼしかねない。WTOのルールないしその精神との整合性について疑問を禁じ得ない。非常に残念である。
戦後、自由貿易体制によって世界経済を発展させてきた立役者はまさに米国であった。その米国がこのような関税引上げを行い、さらに各国が対抗措置を発表するなど、保護主義的な動きが加速している。今、自由貿易体制を維持できるかどうかの岐路に立たされているという危機感を抱いている。
国内市場の小さいわが国は、「貿易・投資立国」で生きていかなければならない。したがって、日本は自由で開かれた国際秩序を維持・強化することの重要性を粘り強く訴え、同志国と連携し、リーダーシップを取るべきである。
〔中小企業で本番を迎えている今年の春季労使交渉に与える影響について問われ、〕連合の第3回集計結果では、賃金引上げ率は全体で5.42%、また組合員数300人未満の中小労組も5.00%と、いずれも第2回集計結果を上回っており、高水準を維持している。トランプ米大統領の関税措置は予測不能であり、賃金引上げの機運に水を差さないことを願うばかりである。
〔世界的に株安となっている現状について問われ、〕短期的にまず急ぐべきは、一連の関税措置に関する情報の収集、分析、発信を官民で行うことである。不安感を一定程度緩和することになろう。
中長期的には、自由貿易体制を守るべく、是非とも日本にリーダーシップを発揮してほしい。
〔各企業のサプライチェーンの見直しについて問われ、〕まずは、情報収集、分析、発信を官民で迅速に行い、トランプ米大統領の真意や今後の動向を慎重に見定める必要がある。
そもそも、貿易は、比較優位の原則の上に成り立っているものである。
今回の措置により、既に米国内でサプライチェーンを構築している企業は、米国での生産比率を上げるという判断はしやすいだろう。他方、一から米国で生産体制を構築しようとしても、投資や生産設備の整備に時間がかかるだけでなく、高度な人材の確保などが難しい場合もある。国内のサプライチェーンの見直しや米国での生産体制の構築についての判断は、業種、業態、個社の事情によって異なってくる。
〔景気後退の懸念がある中、政府・日銀に求めることや、政策金利の引下げの必要性について問われ、〕利下げと大胆な財政出動が必要だという意見があることは承知しているが、総合的に判断すべきである。有事に備え、国の財政基盤は強固にしておく必要がある中、日本の財政は非常に厳しい状況にある。必要な財政出動はしなければならないが、同時にワイズスペンディングを徹底し、財政規律を確保すべきである。
また、物価上昇が一層進む中、実質金利が依然としてマイナスであることも踏まえ、利下げによる景気刺激が有効かどうかよく吟味する必要がある。
【フジテレビ】
〔フジテレビ、フジ・メディア・ホールディングスの一連の問題に関する第三者委員会の報告書の受け止め、ならびに企業の広告出稿の再開についての考えを問われ、〕今回の報告書では、本事案が業務の延長線上での性被害であったこと、また社内で適切に対応がされなかったというガバナンス体制の不備が指摘された。同社は報告書を受けて、「再生・改革に向けたプラン」を発表している。企業によってその受け止めは異なるものであり、広告の出稿再開も各企業が個別に判断されることである。ただし、大事なことは、このような状況でも、質の高い報道、質の高いコンテンツ制作をしようと懸命に働く社員がおられるということである。同社には、プランを確実に実行し、企業、報道機関として一刻も早く社内外の信頼を回復してほしい。
【選択的夫婦別姓】
〔選択的夫婦別姓の制度創設を巡り、旧姓使用の弊害の多くは既に解消済みであるとの指摘について見解を問われ、〕ビジネスにおいて旧姓を通称として使用することで生じるトラブルが減ってきていることについては関係者の努力を多としたい。
一方で、トラブルがなくなったわけではない。政府調査によれば銀行の7割がすでに旧姓名義での口座開設が可能であるとの指摘もあるが、今も旧姓では約3割の銀行や信用金庫、信用組合の多くで口座開設ができず、証券取引もできない。また銀行で口座開設ができても本人確認書類の提示など手続き上の手間の問題などもあり、解消されていない課題は多く残っている。
選択的夫婦別姓制度はあくまで選択制である。別姓を選択したい人のアイデンティティに関わる問題でもあり、便利かそうでないか、不便がなくなれば良いという観点だけで議論されるべき問題ではないと認識する必要がある。
〔経団連の提言(2024年6月)で指摘したトラブルの事例をアップデートする必要性について問われ、〕この問題は万機公論に決すべしであり、まずは議論を始めてほしいということを申し上げてきた。自民党内や国会で議論が始まっていることは大変よいことである。
今後、必要があれば、トラブルの事例のアップデートはするが、議論に時間がかかっている中で、トラブルの状況が変わっていくことは当然である。政治の方で、速やかに、議論を深めてほしい。
【大阪・関西万博】
〔4月13日に開幕予定の大阪・関西万博への期待を問われ、〕多くの関係者の皆様のご協力、ご支援を賜り、ようやく開幕まできた、という思いである。
最も大事なことは、安全で、安心して快適に楽しんでいただける万博にすることである。テストラン(4日~6日実施)で出た課題を解消し、開幕の際には円滑な運営を行いたい。184日間という長丁場であり、運営する中で改善すべき点は出てくると思うが、しっかりと対応していく。
世界中で分断と対立が加速している今、多様性を尊重しつつ、世界の人々が一つになって連携するという理念を掲げる万博の意義は大きく、そのような議論が深まってほしい。また、新型コロナウイルスの蔓延や、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化などで多くの命が失われた中にあって、テーマである「いのち」の尊さに思いをはせる機会にしてほしい。有意義な万博にしていきたい。
最後に、会場建設費の寄附や前売り券の購入等に協力いただいた多くの企業に、この場を借りて御礼申し上げる。