一般社団法人 日本経済団体連合会
【東海地域経済懇談会】
〔懇談会を終えての所感を問われ、〕大変有意義な懇談会であった。東海地域は、日本が誇るものづくりの技術・企業が集積しており、豊富な観光資源を有する。リニア中央新幹線の整備や、名古屋港における「カーボンニュートラルポート」の形成、産学連携による人材育成などにも力を入れている。地域活性化につながる特長や取り組みが多く、まさに日本の縮図だと実感した。人口減少といった課題の解決や地元の魅力向上が重要であり、中部経済界と連携して経団連も後押ししたい。
〔賃金引上げのほかに、産業界として注力すべきと感じたことを問われ、〕イノベーションを起こさんとする起業家精神を養うことが肝要であり、産学連携や官民連携が求められる。経団連は、2027年までにスタートアップの数を10倍、さらにレベルを10倍にする目標を掲げた、「スタートアップ躍進ビジョン」を策定(2022年3月)しており、政府の「スタートアップ育成5か年計画」にも大いに反映された。グリーントランスフォーメーション(GX)や原子力発電、核融合発電など、科学技術を中心にイノベーションを起こし、アジアを始め世界に展開していくことが重要である。
【中部経済】
〔中部経済の課題を問われ、〕日本の縮図でもある中部経済の課題は、日本の課題であると言える。日本経済は株価を中心に活況を呈しているが、中国経済の減速による資金流入や、過度な円安の影響を受けている面もある。「成長と分配の好循環」を実現するためには、三つの政策が必要である。一つ目は、マクロ経済政策であり、官民連携で、社会課題の解決に資する投資を促進することが重要である。二つ目は、社会保障・税制改革である。賃金引上げが消費に回るよう、若い世代の将来不安の払拭につながる全世代型社会保障改革を断行しなければならない。三つ目は、働き方改革を含む労働政策であり、リカレント教育等を通じた働き手のエンプロイアビリティ向上による「円滑な労働移動」の推進といった課題に取り組む必要がある。これら三つの政策に、全体感をもって一体的に取り組むことで「成長と分配の好循環」を実現することが不可欠であり、こうした課題は東海地域にも当てはまる。
〔東海地域における南海トラフ地震等の災害の影響について問われ、〕災害列島とも言われる日本において、東海地域に限らず自然災害は避けられない。科学技術の活用や社会システムの工夫で乗り越えねばならず、災害対応に資する研究開発や投資を一層促進する必要がある。
【春季労使交渉】
〔中小企業への賃金引上げの波及について問われ、〕今年の春季労使交渉はデフレからの完全脱却に向けた正念場であり、昨年以上の熱量と決意をもって、官民連携で取り組んでいく。
課題は、労働者の7割弱を雇用する中小企業における構造的な賃金引上げの実現である。政府が生産性向上に向けた支援等を行っているなか、原材料費だけでなく、労務費を含めて適切な価格転嫁が行われなければならない。「パートナーシップ構築宣言」に参画する経団連会員企業は、全体で約52%であり、サプライチェーンの中核を成す、資本金100億円以上の企業で8割超、1,000億円以上の企業では9割超が宣言している。適切な価格転嫁の実行が重要との認識を、発注元だけでなく、社会全体に浸透させるべく、「パートナーシップ構築宣言」への参画を呼びかけていく。さらには、「よい製品・よいサービスには相応の値が付く」ことを社会通念とすべく、意識改革を呼びかけていきたい。
〔賃金引上げに関する中部地域への期待を問われ、〕中部地域は、自動車産業を中心に、ものづくりのサプライチェーンが集約している。影響力の大きい中部地域における今年の春季労使交渉での賃金引上げを注視し、期待している。
〔「パートナーシップ構築宣言」の実効性向上について問われ、〕労務費を含めた適切な価格転嫁の実行が重要との認識を社会通念にする必要がある。一朝一夕でできるものではない。昨年も注力したが、労務費の価格転嫁は道半ばであり、中小企業では業績の改善を伴っていない「防衛的な」賃金引上げが多かったことも事実である。政府としても、内閣官房と公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表(2023年11月29日)しており、官民ともに相当注力している。社会通念にすべく、今年、さらには来年以降も取り組みを継続していきたい。
〔今年の春季労使交渉の結果を待つ心境を問われ、〕官民で力を合わせ、相当な熱量で取り組んでおり、中小企業も含めて昨年以上の結果が出ることを期待している。重要なことは、賃金引上げのモメンタムを今年以降も維持・強化していくことである。サプライチェーン全体での価格転嫁の実行状況などの現状把握、改善を続けていきたい。