一般社団法人 日本経済団体連合会
【サイバーセキュリティ対策】
東京五輪を控え、サイバーセキュリティに対する経済界の意識を高めることが重要である。世界の産業界では、巧妙なサイバー攻撃により企業に大きな被害が生じているが、日本ではこの1年半、大規模なサイバー攻撃の被害はないことから、危機感が薄れている。日立製作所も、WannaCry(ワーム型ランサムウェア)による被害を受けた。その時の最大の教訓は、サイバーセキュリティ対策の重要性はもとより、攻撃により事業に限定的な障害が生じることは避けられないことから、事業全体がストップしないようBCPを策定する必要がある、ということだった。そこで経団連は、これまで情報通信委員会の一テーマであったサイバーセキュリティ対策を専門的に取り扱う委員会を設置する。
サイバーセキュリティ対策を専門家だけに任せるのではなく、経営層から現場まで、全社あげて迅速に対応できるようにすべきである。とりわけインフラに対するサイバー攻撃への対策は見直しが必要である。
5Gが導入されると、どこにセキュリティ上の脆弱性があるか、どう対策しなければならないかなど、現時点で見通せない問題も飛躍的に拡大する。新しいサイバーセキュリティの時代に突入し、サイバーセキュリティ対策の重要性の認識が企業間で広まり、各社内で担当者・責任者が任命されるなど現場の手当ては相当進んだ。しかし、逆説的に、それで一段落し、企業の対応がそこで止まってしまい、経営トップの問題であるという認識が徐々に薄まってきた感がある。現状を総点検していく必要がある。
【採用と大学教育の未来に関する産学協議会中間とりまとめ】
本日の産学協議会において、企業が学生を採用する際にルールがないのは問題であること、ルールが一本ではないことについて、大学と経団連で認識を共有した。
また、新卒一括採用で入社した大量の社員を各社一斉にトレーニングするというのは、今の時代に合わない。この点でも考え方が一致した。他方、報道にあるような、大学と経団連が通年採用に移行することで合意したという事実はない。複線的で多様な採用形態に秩序をもって移行していくべきであるという共通認識を確認したという趣旨である。
移行のタイムフレームについては、社会システムや社会常識そのものの変化が前提となるので、時間がかかるだろう。人生100年時代において、一つの企業に勤め続けるということは難しくなる。リカレント教育は、テクノロジーの再教育だけでなく、新しい人生の再設計もターゲットとしている。社会を多面的なものにしていく必要がある。
これまで、大学と経済界が直接本音で議論するようなことはあまりなかった。教育制度は中教審を所管する文科省の専管事項であるが、時代に合わなくなってきており、幅広い関係者と対話する必要がある。この10~20年で大学の教育プログラムや学生への指導方法が変わったが、それらを大学側が経済界に直接伝える機会は少なかった。一方で、誰の発言か定かではないが、経済界が文系を必要としていないというような意見が流布し、それを信じてしまっている大学関係者もいる。こうしたことが、意識のギャップを生じさせるという不本意な面もあった。こうしたギャップの解消に向け、産学協議会において、まず認識の共有ができたことは素晴らしく、今後も対話を継続していく。今回はあくまで中間取りまとめであり、次のステップに進めたい。
【衆議院補欠選挙の結果】
選挙結果は、米軍基地の辺野古移設や大阪都構想など地域の政策課題が大きな争点だったのではないか。参院選への影響はあまりないと見ている。
【高齢者による自動車事故】
動体視力や俊敏な反応など身体能力は、誰しも加齢によって衰える。それを技術の進歩で補うこともある。安全に運転できる技術を開発していくより手立てはないと思う。
【今後の原子力発電】
人類の将来を長い目で見据えれば、今のままの軽水炉技術とは限らないが、核融合、核分裂といった原子力エネルギーをうまく活用していくことは重要であり、これを放棄してはならない。
【人事制度のあり方】
学生の時は魅力的に映った仕事が、入社後に色あせてしまうことや、逆にたまたま配属された部署で、ビジネスが進展し、社員のやる気が向上するといったことは、どこの会社でも日常茶飯事である。企業のダイナミズムや社員のやる気を引き出すため、社員の希望などに柔軟に対応できるような処遇・人事制度にすることが重要である。
【コーポレートガバナンス】
四半期報告で先々の業績展望を公表することにはあまり意味がないとは思うが、そうだからと云って、四半期毎に業績を公表することをためらってはならない。政策保有株については、資金が有効活用されていないという批判に抗弁することが難しいケースが多いことから、減らさざるを得ないのではないか。一方で、政策保有株があるから安定した経営ができると主張する人もいる。各社の経営判断の問題である。